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第二章
第80話:魅了
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俺達は何の邪魔を受けずに王都に向けて進む事ができた。
ロベール伯爵領での事件が瞬く間に伝わったからだ。
誰だって、態度が悪いだけで今の地位から引きずり下ろされたくはない。
「よくぞ我が領地を行程に選んでくださいました。
本来なら城に招待して歓待させていただかなければいけないのですが、防衛上の問題で、王家王国から許可を受けた方しか城に入ってもらえないのです。
城塞都市の方に宿を用意させていただきましたので、そちらでお休みください」
全ての貴族が城どころか城塞都市から出て挨拶してくれる。
そして判で押したように同じ口上だった。
「わざわざの御出迎え感謝の言葉もありません。
城に入れられない事情はよく分かっておりますので、お気になさらずに。
城塞都市に用意してくださった宿ですが、謹んで遠慮させていただきます。
俺達は魔獣を連れていますので、民が怖がってしまいます。
城塞都市の外で野営させていただきますので、お気になさらずに」
俺も判で押したように同じ言葉で押し通した。
そして決して急がず、じっくりと魔境や森を探した。
乳牛や乳山羊として飼える魔獣や猛獣がいないか探しまくった。
「ミャアアアアオン」
ロベール伯爵領から四つ目の子爵領に隣接している魔境で、ようやく見つけた!
ダンジョンに現れるから、この世界のどこかに必ずいるとは思っていたが、こんなに早く見つけられるとは思ってもいなかった。
見つけられたのは体重が四百キロくらいの灰魔小馬だった。
灰魔小馬は一頭だけで暮らしているのではなかった。
五頭から十頭の群れを作って生きていた。
バッファローの群れのように、数百頭が集まる事はないようだ。
山羊や羊だと、少なければ五頭ほどだが、多いと百頭を超える群れになる。
だが今回発見した灰魔小馬は、五頭から十頭で群れを作っていた。
俺は夢中になって灰魔小馬を魅了した。
根こそぎ野生の灰魔小馬を集めるのは罪悪かもしれない。
地獄の十王に罰せられる悪行かもしれない。
だが、魔境に住む他の魔獣の強さを考えると、保護しない方が絶滅につながる可能性が高いと判断した。
今回入った魔境は、俺の本拠地がある魔境とは繋がっていないようだった。
森林部や丘陵部、草原分もあるそれなり広い魔境なのだが、魔境とは言えない人間領域に周囲を囲まれていた。
もしかしたら、この国で王侯貴族に飼われている馬の多くが、ここにいる灰魔小馬の子孫なのかもしれない。
魔境と人間の住める領域を出入りする事で、強力な魔獣に絶滅させられないようにしてきたが、その分人間に狩られたり捕らわれたりしたのかもしれない。
「部隊の一部を本拠地に戻す」
俺は騎士百人、魔獣千頭を護衛に選び、捕らえた灰魔小馬を本拠地まで送らせる事にした。
魔獣は毎日のように魅了できるので、少々本拠地に戻しても痛くも痒くもない。
灰魔小馬も魅了してあるので、勝手に逃げたりしない。
俺が集めた灰魔小馬は、雄八十九頭、雌二百四十七頭だ。
この程度の数なら本拠地の地下迷宮で軽く飼える。
だから護衛をつけて本拠地に送ったのだ。
ただ、この辺りにいる灰魔小馬を全て集めようとしたから、二十日間も子爵領に野営する事になってしまった。
可哀想な子爵は何度も俺の所にやって来て理由を訊ねたが、本当の事は言えないので、熱が出たので安静にしていると言って追い返した。
もう近くに灰魔小馬がいないと判断して王都に向かう事にしたが、迷惑をかけた子爵にはちゃんと詫びた。
「体調を崩してしまったとはいえ、長々と野営してしまって申し訳なかった。
大したものではないが、これはお詫びの品だ」
俺の魔力が膨大で、とんでもない収納能力がある事は知れ渡っている。
そうれなければ『野営の間に食糧や燃料をどうしたのだ、野営の間に狩りをしていたのだろう』と詰問されていただろう。
いや、子爵は間違いなく狩りをしていると思っているだろう。
本当は詰問どころか面罵したいのだろう。
だが、俺を怒らす事は滅亡につながるので、必死で我慢しているのだ。
俺にも不完全だが良心くらいある、功徳を積むという目的もある。
子爵家では絶対に捕らえられないから、本当なら何も与えなくてもいいのだが、不完全な良心が疼かないように、地獄の十王に文句を言われないようする。
「おおおおお、これは、まさか、噂の灰魔熊ですか?!」
子爵がのけぞるように驚いている。
地下四階層のダンジョンしかない子爵家では、絶対に手に入れられない高価なドロップなのだから、驚くのは当然だ。
「俺は白金片級冒険者でもあるので、ダンジョンさえ開放してもらえるなら、金片級程度のドロップなら簡単に手に入ります。
迷惑をかけた子爵に渡すくらいの余裕はありますよ」
「いや、いや、いや、これほどの物を頂けるような迷惑など受けていませんよ。
それに、体調が悪いならしかたがありません。
侯爵閣下だけでも城砦都市の中に入って頂ければよかったのですが……」
手のひらを返したように、子爵がペコペコと詫びるが、これはしかたがない事だ。
地下四階層程度の浅く狭いダンジョンしかない領地では、養える領民の数は千前後が精々で、そんな所に二万を越える騎獣を入れられるわけがない。
俺自身も、少数の護衛だけで城塞都市に入った前例を作りたくない。
今の所は、サクラと俺が揃ってさえいれば、何の不安もないのだが、これからどうなるかは分からなないので、不利な前例は作らない方が良いのだ。
市場価格千五百万円程度のドロップ一つでは、とても灰魔小馬三百三十六頭分にならないので、刃金が魔鉄の剣、鉄小盾、毛皮も渡しておいた。
子爵領を守らなければいけない立場なら、喉から手が出そうになるくらい欲し物なのだろう、驚きと感謝の表情をしていた。
子爵の好感情をドロップで買えたので、安心して次の領地に行けた。
少し期待していたのだが、残念ながら欲しい魔獣はいなかった。
騎獣のできる犬狼系魔獣は魅了できたが、本当に欲しい魔獣はいなかった。
だから滞在は普通に二日間だけだった。
犬狼系を根こそぎ魅了する気がないのなら、その程度で充分だった。
だが、その次の領地ではそうはいかなかった。
ロベール伯爵領での事件が瞬く間に伝わったからだ。
誰だって、態度が悪いだけで今の地位から引きずり下ろされたくはない。
「よくぞ我が領地を行程に選んでくださいました。
本来なら城に招待して歓待させていただかなければいけないのですが、防衛上の問題で、王家王国から許可を受けた方しか城に入ってもらえないのです。
城塞都市の方に宿を用意させていただきましたので、そちらでお休みください」
全ての貴族が城どころか城塞都市から出て挨拶してくれる。
そして判で押したように同じ口上だった。
「わざわざの御出迎え感謝の言葉もありません。
城に入れられない事情はよく分かっておりますので、お気になさらずに。
城塞都市に用意してくださった宿ですが、謹んで遠慮させていただきます。
俺達は魔獣を連れていますので、民が怖がってしまいます。
城塞都市の外で野営させていただきますので、お気になさらずに」
俺も判で押したように同じ言葉で押し通した。
そして決して急がず、じっくりと魔境や森を探した。
乳牛や乳山羊として飼える魔獣や猛獣がいないか探しまくった。
「ミャアアアアオン」
ロベール伯爵領から四つ目の子爵領に隣接している魔境で、ようやく見つけた!
ダンジョンに現れるから、この世界のどこかに必ずいるとは思っていたが、こんなに早く見つけられるとは思ってもいなかった。
見つけられたのは体重が四百キロくらいの灰魔小馬だった。
灰魔小馬は一頭だけで暮らしているのではなかった。
五頭から十頭の群れを作って生きていた。
バッファローの群れのように、数百頭が集まる事はないようだ。
山羊や羊だと、少なければ五頭ほどだが、多いと百頭を超える群れになる。
だが今回発見した灰魔小馬は、五頭から十頭で群れを作っていた。
俺は夢中になって灰魔小馬を魅了した。
根こそぎ野生の灰魔小馬を集めるのは罪悪かもしれない。
地獄の十王に罰せられる悪行かもしれない。
だが、魔境に住む他の魔獣の強さを考えると、保護しない方が絶滅につながる可能性が高いと判断した。
今回入った魔境は、俺の本拠地がある魔境とは繋がっていないようだった。
森林部や丘陵部、草原分もあるそれなり広い魔境なのだが、魔境とは言えない人間領域に周囲を囲まれていた。
もしかしたら、この国で王侯貴族に飼われている馬の多くが、ここにいる灰魔小馬の子孫なのかもしれない。
魔境と人間の住める領域を出入りする事で、強力な魔獣に絶滅させられないようにしてきたが、その分人間に狩られたり捕らわれたりしたのかもしれない。
「部隊の一部を本拠地に戻す」
俺は騎士百人、魔獣千頭を護衛に選び、捕らえた灰魔小馬を本拠地まで送らせる事にした。
魔獣は毎日のように魅了できるので、少々本拠地に戻しても痛くも痒くもない。
灰魔小馬も魅了してあるので、勝手に逃げたりしない。
俺が集めた灰魔小馬は、雄八十九頭、雌二百四十七頭だ。
この程度の数なら本拠地の地下迷宮で軽く飼える。
だから護衛をつけて本拠地に送ったのだ。
ただ、この辺りにいる灰魔小馬を全て集めようとしたから、二十日間も子爵領に野営する事になってしまった。
可哀想な子爵は何度も俺の所にやって来て理由を訊ねたが、本当の事は言えないので、熱が出たので安静にしていると言って追い返した。
もう近くに灰魔小馬がいないと判断して王都に向かう事にしたが、迷惑をかけた子爵にはちゃんと詫びた。
「体調を崩してしまったとはいえ、長々と野営してしまって申し訳なかった。
大したものではないが、これはお詫びの品だ」
俺の魔力が膨大で、とんでもない収納能力がある事は知れ渡っている。
そうれなければ『野営の間に食糧や燃料をどうしたのだ、野営の間に狩りをしていたのだろう』と詰問されていただろう。
いや、子爵は間違いなく狩りをしていると思っているだろう。
本当は詰問どころか面罵したいのだろう。
だが、俺を怒らす事は滅亡につながるので、必死で我慢しているのだ。
俺にも不完全だが良心くらいある、功徳を積むという目的もある。
子爵家では絶対に捕らえられないから、本当なら何も与えなくてもいいのだが、不完全な良心が疼かないように、地獄の十王に文句を言われないようする。
「おおおおお、これは、まさか、噂の灰魔熊ですか?!」
子爵がのけぞるように驚いている。
地下四階層のダンジョンしかない子爵家では、絶対に手に入れられない高価なドロップなのだから、驚くのは当然だ。
「俺は白金片級冒険者でもあるので、ダンジョンさえ開放してもらえるなら、金片級程度のドロップなら簡単に手に入ります。
迷惑をかけた子爵に渡すくらいの余裕はありますよ」
「いや、いや、いや、これほどの物を頂けるような迷惑など受けていませんよ。
それに、体調が悪いならしかたがありません。
侯爵閣下だけでも城砦都市の中に入って頂ければよかったのですが……」
手のひらを返したように、子爵がペコペコと詫びるが、これはしかたがない事だ。
地下四階層程度の浅く狭いダンジョンしかない領地では、養える領民の数は千前後が精々で、そんな所に二万を越える騎獣を入れられるわけがない。
俺自身も、少数の護衛だけで城塞都市に入った前例を作りたくない。
今の所は、サクラと俺が揃ってさえいれば、何の不安もないのだが、これからどうなるかは分からなないので、不利な前例は作らない方が良いのだ。
市場価格千五百万円程度のドロップ一つでは、とても灰魔小馬三百三十六頭分にならないので、刃金が魔鉄の剣、鉄小盾、毛皮も渡しておいた。
子爵領を守らなければいけない立場なら、喉から手が出そうになるくらい欲し物なのだろう、驚きと感謝の表情をしていた。
子爵の好感情をドロップで買えたので、安心して次の領地に行けた。
少し期待していたのだが、残念ながら欲しい魔獣はいなかった。
騎獣のできる犬狼系魔獣は魅了できたが、本当に欲しい魔獣はいなかった。
だから滞在は普通に二日間だけだった。
犬狼系を根こそぎ魅了する気がないのなら、その程度で充分だった。
だが、その次の領地ではそうはいかなかった。
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