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第二章

第73話:新城塞都市カルカッソンヌ

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「すごい、凄いです。
 これで魔蟲や魔鳥に邪魔されずに麦や野草を作れます」

 農業好きな百長が歓喜の声をあげている。
 俺の留守中に、何度も露地栽培ができないか試したそうだが、何度種を蒔いても魔蟲や魔鳥に八割の種が食べられてしまったそうだ。

 何とか芽を出した二割の種も、新芽のうちに魔蟲や魔鳥に食べられてしまい、五センチも育たなかったそうだ。

 この世界の樹木の種はとんでもなく硬く、蟲や鳥に食べられ難いそうだ。
 土に落ちてから芽を出すのも早く、成長も早い。

 食べ尽くされないくらい早く成長する樹木だけが生き残る、過酷な生存競争に勝ったモノだけが残る、それがこの世界のようだ。

 それにこの世界の樹木は、種で子孫を増やすだけでないそうだ。
 竹のように地下茎でも増える樹木も多いと教わった。

 そんなこの世界の樹木と比べると、地球の野菜は繁殖力が極端に劣る。
 とてもではないが、露地栽培など不可能だ。

 だが、完全室内栽培ができるのなら話しが変わる。
 ダンジョンの階段と同じように、天敵を恐れずに栽培できる。

 いや、ダンジョンの階段のように狭く限られた場所ではない。
 俺の魔力で一度地下迷宮を創れば、半永久的に使える農地になる。

 外壁の圧縮強化岩盤と柱の部分を除き、農地として使える迷宮一階層当たりの面積、二五〇ヘクタール。

 これは地下迷宮を創り出すにあたり、二重の城壁を高さ百メートルの高層マンション城壁に造り替えてしまった影響で、城域が広がってしまったからだ。
 最初思っていた城塞都市カルカッソンヌとは随分と違ってしまった。

 これは仕方がないのだ。
 八万の家臣だけでなく、増えるであろう家族。
 領民も全て匿える都市にしなければいけないと思ってしまった。

 最悪、俺が何時ものように嫌気がさして、家臣領民を見捨てたくなっても大丈夫なように、完璧な城を目指してしまったのだ。

 1ヘクタールは1町で、10反になる。
 1反で1石の米が取れて、中世の日本人は1年で1石の米を食べた。
 二五〇ヘクタールの農地で取れる米は二五〇〇石になる。

 二五〇〇石で養える人間は二五〇〇人
 農地階層が十二階層あるから、三万人の人間を養えることになる。
 農地の上にある居住階層には二五〇〇人が住む事になる。

 地下二〇〇メートルでは全然足りない!
 八万人、いや二〇万人分は必要だから、一六〇階層分、地下一二〇〇メートルも深く地下迷宮を造らなければいけなくなる。

 とてもではないが、こんな地下迷宮は現実的ではない。
 エレベーターもエスカレーターもないのだ、使い勝手が悪過ぎる。

 防衛のために仕方なく造ったとはいえ、既にある高層マンション城壁も使い勝手が悪いのだ。

 今の所、地下に住む獣や魔獣には出会っていないから、深くするよりも周囲に広げるべきだ。

 どうせ地下を広げるなら、城塞都市カルカッソンヌ自体を広げるべきだろう。
 最初からカルカッソンヌの部分は本丸とする心算だったのだ。

 江戸城総構えの周囲一五七〇〇メートルよりも広くする。
 江戸城の総構えの面積は、千代田区と中央区を合わせたくらいだ。

 千代田区の面積が一一六六ヘクタール。
 中央区の面積が一〇二一ヘクタール。
 合わせて二一八七ヘクタールもある。

 外側を護る圧縮強化岩盤の内側を、頑丈な柱を除いて二二〇〇ヘクタールにする。
 二二〇〇ヘクタールあれば、二万二〇〇〇石の米が取れる。

 飲用や水田用の水場を設ける必要がありますし、できれば魚の養殖もしたいので、水田は一万六〇〇〇石の米が取れる広さにしよう。

 総構えの周囲を守る高層マンション城壁だけでも五十万人は住める。
 地下の居住用階層は最低限でいいよな。

 地下迷宮の外壁用圧縮強化岩盤の内側を、二階建ての住居にすればいい。
 その方が、外壁を攻撃された時に素早く対応できる。

 総延長一万六〇〇〇メートルの外壁だから、内側に一万六〇〇〇人分の住居くらい簡単に確保できる。

 二ノ丸地下の迷宮は、厚み十メートルの生産階層だけにする。
 地下二〇〇メートルで地下二〇階層の迷宮にする。
 これで三二万〇〇〇〇人を養える地下迷宮が造れた。

「すごい、すごい、凄いですショウ様!
 はるか遠くにそびえるような城壁が見えます。
 カルカッソンヌを護る城壁がまた一つ増えたのですね?!
 これで空を飛ぶ魔蟲や魔鳥以外恐れるものがなくなりました」

 主に警備を担当する百長が飛び跳ねるかと思うほど喜んでいる。
 彼にしてみれば、担当する城壁の外に何時魔獣が現れるか分からないよりは、遠くに見える城壁が破壊されない限り大丈夫と思える方が良い。

「魔獣や魔鳥が現れたら戦う必要などない。
 鎧戸を閉めて護りに徹するのだ。
 攻撃するのは狭間からだけにしろ。
 生きている限り必ず助けに戻る。
 だから無理をするな」

「ありがとうございます、部下や同僚を危険に巻き込んだりはしません」

 俺は、連れてきた四万の軍勢とカルカッソンヌで留守番していた者達の融和を進めようとしたが、その必要はなかった。

 四万の軍勢の中には、留守番をしていた者達の家族がいる。
 家族は俺の御率いてきた軍勢の一員で戦友なのだ。
 今更俺が手を貸す必要もなかった。

 俺は彼らを統合した新たな部隊編成をした。
 まずは生産に慣れた留守部隊に家族を合流させた。
 その上で生産に携わりたいと言った者達を見習いとして配属させた。

 そもそも彼らの大半が、俺が叩きのめして捕虜や人質にした者達だ。
 半数以上、いや、八割が強制徴募された平民だ。
 安全な城の中で農業、養魚、養鳥に携わる方が良いに決まっている。

 冒険者をしていた連中も、好きでやっていた者は少なかった。
 その方が金になり、家族を養えるからやっていただけだ。
 そういう考えの者は、少数だが騎士や兵士の中にもいた。

 だから、心から騎士や兵士、冒険者を続けたい者だけで純戦闘部隊を編成した。
 王都に向かうのは彼らだけになるかもしれない。
 全ては王家王国と辺境伯の交渉次第だ。

 辺境伯が俺の要求通りにしてくれたら、可哀想だが、農業部隊などからも従軍してもらわなければいけなくなる。

 純戦闘部隊だけだと二〇〇〇人くらいしか残らない。
 騎士や兵士の妻子は城に残すのだから、それくらいになるのはしかたがない。

 それも考えて、幼い子供のいる者だけを集めた部隊を作った。
 彼らは優先的に留守部隊にする予定だ。
 生産部隊で従軍させるのは成人独身舞台にする予定だが……

 まあ、今は子供がいなくても、俺が与えた環境が安全だと思ったら、積極的に子作りをする家族やカップルもいるだろう。

 新たに結婚して農業に専念したいと思う者も現れるだろう。
 そんな家族をどうしようかと考えると、少々頭が痛い。
 
 少々遠回りになってもいいから、王都に行く道順にホラント伯爵領とナミュール侯爵領を加えて、駐屯させている四万から引っ張ってくるべきだろう。

 可哀想だが、彼らはまだ新生カルカッソンヌを見たことも聞いた事もない。
 一度ここを見てしまったら、他の領地のために戦いたいとは思わないだろう。
 しかたがない、馬だけでなく騎士や兵士も金で掻き集めるか?
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