上 下
55 / 82
第一章

第55話:真実

しおりを挟む
 俺はギルドマスターに辺境伯の所まで案内された。
 子供じゃないから、案内されなくても自分で行けると言ったのだが。

 辺境伯家であっても馬鹿な家臣はいる、たまたまそんな奴に当たって、俺が辺境伯家と争う事がないようにしているのだと説明された。

「おお、よく来てくれた、先日国王陛下からの使者が来たのだ。
 豚騎士の件とナミュール侯爵の件は陛下のあずかり知らぬ事。
 全て豚騎士とナミュール侯爵が勝手にやった事だそうだ」

「それを受け入れるのかい?」

「ああ、ここで陛下と喧嘩しても意味がない。
 それよりは陛下と交渉してナミュール侯爵領、ホラント伯爵領、ゼーラント伯爵領の切り取り勝手を認めてもらう方がいい」

「その辺は辺境伯の好きにすればいい。
 だが、間にエノー伯爵領があるから、何所を切り取ったとしても飛び地になってしまうのではないか?」

「ああ、飛び地になるな」

「心から信用できる身内か家臣でないと、せっかく手に入れた飛び地を奪われてしまうのではないか?」

「そうだな、よほど忠誠心の強い者でないと、必ず裏切るだろう」

「そんな事に人手や資金を使うよりは、登り調子の領内に使った方がいいぞ」

「普通ならそうだが、今はショウがいる。
 ショウが味方してくれる間に、エノー伯爵領に蓋をされている状況を打破する」

「エノー伯爵領を併呑するとは言わないのだな」

「そんな事には手を貸してくれないだろう?」

「ああ、貸さん」

「それくらいの事は分かっている」

「だが、エノー伯爵領に他領との交流を邪魔されている現状は変わらないぞ。
 共通の敵だったナミュール侯爵家が没落寸前なのだろう?
 エノー女伯爵がゼーラント伯爵領を併呑し、更にホラント伯爵領ナミュール侯爵領に触手を伸ばす可能性があるだろう?」

「エノー女伯爵とは話がついている。
 私がホラント伯爵領、エノー女伯爵がゼーラント伯爵領を切り取る」

「完全にこの辺の地理を理解しているとは言わないが、その方法だと、エノー女伯爵はナミュール侯爵領に手出しできないのではないか?」

「その通りだ」

 ここまで聞けば大体の事は理解できる。
 辺境伯は俺と先に知り合っている事を最大限に利用したのだ。

 俺と契約を継続中だから、一方的に同盟を破棄するようなら、俺を先頭にエノー伯爵領を併呑するとでも言ったのだろう。

 エノー女伯爵も一方的に負けるような性格ではないので、同じ様に同盟を盾に最大限の利益を確保したのだろう。

 問題は辺境伯が俺をどの程度利用する気かだ。
 エノー伯爵領を併呑することなく、ホラント伯爵領を切り取ってから辺境伯本領と地続きにする気なら……

「魔境を切り開いて、辺境伯領とホラント伯爵領の間に街道を造れと言うのか?」

「流石だな、何も言わなくても分かってくれる」

「確かに俺の力なら魔境を切り開いて街道を造る事など簡単だ。
 だが、エノー伯爵領と同じように俺の国が間に入るだけだぞ」

「確かに、間に強力な領地が入るのは同じだ。
 だが、一つの街道を他家に押さえられているのと、二つ街道があってそれぞれ押さえている家が違うのでは、全く状況が違う。
 ましてその一家が濃い血で結ばれているとしたら、状況が一変する」

「おい、おい」

「ショウ、カミーユと結婚して義兄弟にならないか?」

「おい、おい、オセール伯爵が女なのは秘密だったのではないのか?」

「やはり知っていたのか?」

「一緒に旅をしたのだ、言動でそれくらいの事は分かる」

「だったら話が早い。
 ショウもそれなりの立場で育ったのだろう?
 将来政略結婚するのは当然の立場だったのだろう?
 創り出したと言う城塞都市の後継者は、カミーユとの間に生まれた子供にしてくれないか?」

 う~ん、結婚、結婚かぁ~
 生まれ変わったら結婚してみてもいいとは思っていたが……

 前世では結婚しなかったから、生まれ変わって経験するのも悪くはない。
 少しはそう考えたが、やはり記憶を残したままでは難しい。

 女を抱きたい、という性欲は普通にある。
 だが、特定の誰かが恋しくて狂おしいという経験は一度もない。
 小説や映画で描かれているような、恋する思いになった事がないのだ。

 誰もが恋愛結婚するのではない事は知っている。
 前世でも多くの時代や国で、政略結婚や見合い結婚が主流だった。
 今の俺の力なら、政略結婚を持ち込まれて当然なのだろう。

 う~ん、だかなぁ、結婚、政略結婚、カミーユと政略結婚かぁ~
 俺はカミーユを愛せるのか?
 カミーユは俺の事を愛せるのか?

「カミーユはこの話に納得しているのか?」

「正直に話そう、最初は凄く戸惑っていた。
 カミーユは亡父の方針で、生まれた時から男として育てられてきた。
 私の影武者として生き、影武者として死んでいく運命だった。
 だが、私はそんなカミーユが不憫でならなかった。
 だから父上が亡くなられた時に、女として生きるように言ったのだが……」

「生まれてからずって男として育てられたから、今更女としては生きていけないと言ったのか?」

「ああ、そうだ、だから女に戻すのは諦めたが、せめて実の兄弟として公表する事にしたのだ」

「突っ込んだ事を聞くが、他に兄弟姉妹はいないのか?」

「いたが、こんな時代だ、想像がつくだろう」

「辺境伯の地位を巡って血肉の争いか?」

「ああ、そうだ、独力で俺を排除しようとする奴はまだましで、多くの連中は家臣に担がれたり、他領に操られたりしていた」

「どこの家も似たり寄ったりなのか?」

「ああ、エノー伯爵家を女のアデライード殿が継いでいるのも、骨肉の争いで男性継承者が死に絶えたからだ。
 ナミュール侯爵家は六男のコントが、兄弟姉妹ばかりか実の父を含めた一族一門を皆殺しにして跡継ぎになった」

「一日も安心して眠れないな」

「後継争いが始まったらそうなる。
 だが、ある程度権力が安定したらそこまでではなくなる。
 それに、ショウなら何の心配もないだろう」

 辺境伯はそう言って、俺の横で香箱を作るサクラに視線を向けた。
 確かに、権力争いで俺が殺される事だけはないだろう。

「そうだな、俺が殺される事はないだろう。
 だが、あくまでも仮定の話だが、子供達が殺し合いをするのは嫌だね」

「そうだな、俺もそれが嫌だから、なかなか結婚の決断ができずにいる」

「親戚は跡目争いで死に絶えているかもしれないが、家臣がよく許しているな」

「許してくれないから、毎日五月蠅く子供を作るように言われ続けている。
 カミーユがいなかったら、逃げきれていなかった」

「そんな生活は絶対に嫌だ。
 このまま気ままに暮らしたいから、さっきの話は無だ」

「ショウはこれまで通り気ままに生きてくれればいい。
 形だけカミーユと結婚して子供さえ作ってくれればいい」

「子供を作れと言うのは、形だけの結婚とは言わん!」

「ショウは男が好きなのか?
 それとも、カミーユが趣味ではないのか?」

「女が好きだし、カミーユは可愛いと思う。
 だが性欲よりも面倒の方が好かん。
 面倒事を抱え込むくらいなら、売春宿で済ます。
 男も女も割り切った関係の方が楽だ」

「だったら大丈夫だ。
 カミーユとも割り切った関係でいい。
 ネウストリア家の後継者さえ作ってくれればいい。
 俺とカミーユが、高位貴族の後継者に相応しい人間に育てる」

「……怒らすような事を聞いいてもいいか?」

「……いや、聞かなくてもいい、何が言いたいか分かった。
 それはない、そっちではなくて、もう一つの方だ」

「なるほど、そっちか、それでカミーユに後継者を生ませたいのか」

「そうだ、だが、これまではカミーユの結婚相手に相応しい人間がいなかった。
 だが、運命の神は我が家を見捨てなかった。
 ショウと言う絶好の結婚相手を寄こしてくださった」

「俺はまだ認めていないぞ」

「だったらショウが創った城や女子供はどうするのだ?
 ショウが死んだ後はどうなのるのだ?
 城は破壊すると言うかもしれないが、子供達はまだ生きているぞ。
 女達の子供や孫の将来はどうなる?
 安心して任せられる後継者がいた方がいいのではないか?」

「辺境伯、お前に言われたくはないぞ!」

「だからこうしてショウと交渉している。
 忘れているかもしれないが、女子供だけでなく、一万を超える捕虜がいて、このままならショウの奴隷になるのだぞ。
 連中にも故郷に妻子がいて、その運命もショウの考え一つなのだぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
【書籍発売後はレンタルに移行します。詳しくは近況ボードにて】 「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

処理中です...