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第一章

第26話:納税と解体と買取

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「森で狩った獲物を持ってきた。
 持ち帰るか売るか決めたいから、急ぎで査定してくれ。
 これはエノー女伯爵閣下とネウストリア辺境伯閣下の紹介状だ」

 急いで関所砦の冒険者ギルドに来た俺は、順番を守らずに大声で話しかけた。

「え?!
 エノー女伯爵閣下の紹介状でございますか!?」

 それほど長くはないが、二つの受付には五人ずつの順番待ちができていた。
 日本の頃ならちゃんと順番を守った。
 だが、この世界で俺の立場だと、待つ方がおかしいのだ」

「そうだ、ネウストリア辺境伯閣下の依頼で、国王陛下への献上品を護衛している。
 同じ依頼を受けた荷役と、途中で襲ってきた連中に、最低限の飯を喰わせてやらないといけない。
 早く査定してくれ」

 半官半民の冒険者ギルドだ。
 天下りはもちろん、勉強のためにエノー伯爵家に縁のある奴がいるかもしれない。
 偉ぶり過ぎず、遜り過ぎず、微妙な言葉遣いが必要だ。

「分かりました、直ぐに見させていただきますので、そこに出してください」

「千二百キロくらいの灰魔牛が五頭あるのだが、ここで出していいのか?」

「えええええ?!
 灰魔牛ですって!?」

「何を驚いている?
 これでもエノー女伯爵閣下とネウストリア辺境伯閣下に白金級と認められている。
 灰魔牛くらい簡単に狩れるぞ」

「「「「「……」」」」」

 これからも待たせられないように、実力を披露しておくか。
 勘違いして絡んでくる奴を叩きのめす定番など時間の無駄だ。

「おい、こら、てめぇ、嘘を吐くのも大概にしろやぁ!
 ここで舐めたマネしてただですむとおもっとんのかぁ、われ!」

 グワッシャ!

 自動翻訳機能なのか、河内弁のような言葉を吐く大男を叩きのめした。
 もう二度とこの世界の肉を焼いて食べられないようにしてやった。
 これからは一昼夜煮込んで柔らかくした肉を食べるのだな。

「まだ文句のある奴はいるか?
 次からは手加減抜きで殺してやるぞ」

 一生後遺症で苦しむ事になった大男の、仲間らしい奴らを睨んでやった。

「「「「「ヒィイイイイイ」」」」」

 定番だが、五人全員が小便を漏らしやがった。

「申し訳ありません!
 白金級の方に因縁をつけさせるなんて、ギルドの失態でございます。
 全員に厳しい罰を与えさせていただきますので、なにとぞお許しください」

 なかなか機転の利く奴だ。
 白金級冒険者が現れたのだ。
 エノー女伯爵なら必ず唾をつけ、領地のために活用すると予測できたのだろう。

「そうしてくれるか。
 金ならあるんで、ギルドの都合と査定金額によって、物納するか税金を払うか、早急に決めたいのだ」

「承りました、直接解体場に行きましょう。
 査定させていただいた上で、最優先で解体させていただきます」

 俺は目端の利く美男子に案内されて解体場に向かった。
 身長は百八十センチ、体重は七十キロくらいだろう。
 茶髪で茶瞳、元の肌は白いのだろうが、少し陽に焼けている。

 歩きながらギルドの次席、デピュティマスターだと自己紹介してくれた。
 同時に、エノー女伯爵の遠縁だとも名乗りやがった。
 やはりこの世界では、できる限り自分を大きく見せた方が良いようだ。

「平均的な灰魔牛の買取価格は二十万セントになるのですが、これらの個体は全て丸々と太っているだけでなく、傷もほんの少しです。
 五頭という、物納するのに丁度いい頭数でもありますので、できることなら、二頭を物納していただければ助かります」

 デピュティマスターが探るような目で俺を見る。
 五頭以外に隠していると疑っているのだろう。

 その通りだが、一頭しか出さずに金で税金を払うのが一番得なのに、五頭だした俺を褒めて欲しい所だぞ。

「雄と雌で取れる素材が違うだろう?
 それによる価格差は無いのか?」

「確かに目立つ角の大きさによる違いもありますが、個体体重の方が大きな差になりますので、ギルドでの買い取り価格は体重が優先されます」

「そうか、だったら雌雄の差は考えないようにする。
 だが、ギルドが物納を望むのは分かったが、それも体重を優先するのか?
 それとも雄だけとか雌だけとかを望むのか?」

 重い順に二頭を物納させる気なのか?
 それとも売る時に高い方の性別二頭を物納させるのか?

「これは領主閣下に納める税金ですので、売る時に高いと思われる順に納めていただくのですが、今回は重い順に雌雄一頭ずつになります」

「それは、雌雄で使われ方が違うから、同じ性別よりも別々の性別の方が、高く売れるという事か?」

「はい、その通りです。
 皮にしても角にしても、買っていただける方によって雌雄の好みが有ります」

「肉が欲しいと言ったのは覚えているか?」

「はい、覚えています」

「物納した灰魔牛の食べられる部分、肉と内臓を全部買わせてもらう」

 残る三頭を解体してもらう方法も考えた。
 だが俺は、日本で聞いた嫌な話を覚えていたのでやめた。

 釣り師や魚屋から、素人が魚の捌きを依頼すると、金になる本当に美味しい部分を、素人には分からないように抜いて渡すというのだ!

 この世界は、生き馬の目を抜くような、弱肉強食だと分かっている。
 騙されて損をしないようにするには、売り方も税の治め方も考えた方が良いのだ。

「全ての内臓を食べられるのですか?!
 内臓によっては、猛獣や魔獣の糞尿が混じっているのですよ!?」

 なるほど、内臓でも処理しやすい部分だけが高級食材なのだな。
 時間をかけた丁寧な下処理が必要な内臓は食べられていないのだ。

 あるいは、本当に美味しい内臓の下拵え方法は高位貴族の秘伝なのかもしれない。
 あ、それに、簡単に狩れるような獣の内臓は不味いのかもしれない。
 日本でも内臓が美味しい家畜は限られていたからな。

「さっきの話を覚えていないのか?
 ナミュール侯爵の手先と思われる連中を捕らえて犯罪者奴隷にしたのだ。
 金になる物を喰わせてやる必要などない!」

「……なるほど、そういう事でしたら、捨てていた内臓も全てお渡しします」

「最優先でやってくれるのだな?」

「はい」

「だったら、そのまま受け取っていくから、目の前で解体してくれ。
 アイテムボックスに入れて持ち帰る。
 あ、それと、売れないのなら骨や蹄もくれ。
 尻尾は骨付きでそのままくれればいい、煮込むと美味いんだ」

 内臓、ホルモンを美味しく食べるためには鮮度を保たなければいけない。
 それは正肉も同じなのだが、正肉以上に条件が厳しくなる。
 皮を剝ぐ前に内臓を取り出すから、それを直接持ち帰りたかった。

「帰りもここで狩りをして頂けると助かります」

 急いでやって来たギルドマスター以下、多くのギルド職員に見送られた。
 ギルドの利益によってボーナスでもあるのか?
 もしかして歩合制なのか?

 駐屯場所に戻ると、女子供も犯罪者奴隷達も一生懸命働いていた。
 薪代わりに使う枯れ枝を集める者もいるが、一番多いのは料理している女子供と玉ねぎをスライスしている犯罪者奴隷達だ。

「そのまま続けろ」

 戻った俺に挨拶しようとするのを止めさせて、仕事に集中させた。
 俺は内臓を美味しく食べるために必要な物を買う。

 もし俺が一人なら、太陽光発電セットと蓄電池を買った。
 川の近くに定住するのなら、水力発電セットと蓄電池を買った。
 何故なら、ホルモンを美味しく食べるためには洗濯機が必要だからだ。

 俺が時々通っていた鶴橋の某焼肉屋は、ホルモンが美味しい事で有名だった。
 常に超満員で、大量のホルモンを下拵えしなければいけなかった。
 そのために活用していたのが、二層式洗濯機だった。

 某焼肉屋では、ホルモンの臭みを取るのに洗濯機で洗っていたのだ。
 洗浄と脱水、美味しくするには強さと時間に絶妙のコツがあるそうだ。
 ホルモンの美味しさ、脂を失わずに臭みだけを取らなければいけない。

 だが今の俺ならば、洗濯機を使わなくても犯罪者奴隷達がいる。
 彼らに内臓を洗わせればいい。

 そのために必要なのは……大量の塩と浴槽だ!
 大盥でもいいのだが、それだと中に入って洗えないし、排水の度に水の入った重い大盥をひっくり返さないといけないので、ぎっくり腰の危険がある。

 並塩25kg1200円×10袋=1万2000円

 浴槽、普通の家でつかう浴槽の方が良いか?
 それとも、ジャグジーなんかで使う奴の方が使い勝手がいいか?

 FRPポリエック浴槽1000サイズ=2万8480円
 外寸法:1000×720×660mm
 内寸法:890×610×610mm
 満水量:300L

 FRPだと、中に入って作業すると直ぐに壊れてしまうか?
 一番丈夫なのはステンレスよりもホーローか?

 広い方が良いのか、少し段差があって座って作業できる方が良いのか?
 直火焚ができると書いてある方が丈夫そうだな。

 直焚き鋳物ホーローバス=15万7880円
 サイズ:1100×770×580mm
 満水容量:250L
 排水仕様:両排水
 付属品:排水パイプ・風呂底付

 浴槽を見ていたら風呂に入りたくなってきた!
 どうせ風呂に入るのなら、でかい方が良い。

 丈夫なのは鋳物が一番だろうから、ステンレス浴槽までは確認しなくてもいい。
 でかい浴槽なら、献策はジャグジーで調べるべきだろう。

 水流プール・ジャグジー・ジェットバス=589万6395円
 幅:2250 mm    奥行:7450 mm    高さ:1480 mm
 水量:9296リトル
 重量(空):1240kg
 重量(水を入れた状態):10509kg
 腰掛:8箇所
 電気系統:200V/50Hz, 25A Max.・200V/50Hz, 56A Max.

 ……これを十分使いこなそうと思ったら、電気が必要になる。
 それも、200Ⅴになるようにしなければいけない。
 設置工事なんて、俺にできるのか?

 下手すると感電してしまう。
 何よりそんな面倒なしてまでジャグジーが使いたいか?
 大きな浴槽としてだけなら設置工事なしで使う事もできるが……

FRPポリエック浴槽1000サイズ=2万8480円×20=56万9600円購入
直焚き鋳物ホーローバス=15万7880円×5=78万9400円購入

 あ?!
 やめ、キャンセル、キャンセルお願い!
 よく考えたら、浴槽くらい俺の魔術で創り出せた!
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