上 下
1 / 82
第一章

第1話:プロローグ1・死と交渉と転生転移

しおりを挟む
 ゴォオオオオ!
 目の前に迫ってくる大型トレーラー!
 前にいるクソガキ共の会話に怒りを感じ、注意力が散漫になっていた。

 同級生を虐め殺した話を自慢げにしていた連中がはねられていく。
 命懸けで天罰を下してやろうと思っていた男の頭が破裂した。

 虐め殺した同級生の死に様を嘲笑った女が、タイヤに踏み潰される。
 他の虐め連中も、1人残らずはね飛ばされ、ひき殺されていく。

 ざまあみさらせ、と大声で叫びたい。
 こんな連中に天罰を与える神様によくやったと言ってやりたいが、ダメだ。

 なんで何の関係もない俺を巻き込むな!
 いや、俺だけならまだ我慢してやる。
 俺も人間だから、無意識に誰かを傷つけているかもしれない。

 だが、何の罪もないサクラまで巻き込むとは何事か!
 すまん、サクラ、こんな事なら動物病院に連れて行かなければよかった。

★★★★★★

「高橋翔、起きてくれ」

「あ、はい!」

 俺は何事かと飛び起きた。
 起きた途端、大型トレーラーにはねられた事を思い出した。

「みゃあ!」

「おお、サクラ、生きていたのか?!
 あれは夢だったのか?」

 俺は、胸の上で香箱座りをしているサクラに話しかけた。

「すまぬがあれは現実だ」

 俺とサクラ以外に、誰かいるのに気がついたが飛び起きたりはしない。
 サクラが驚かないように、優しくゆっくりと胸の上から降ろしてからだ。

「うっわ!」

 思わず驚きの声をあげてしまった!
 俺とサクラから少し離れた場所に、恐ろしい顔の巨人達がいる!

「驚くのは無理もない、だが、落ち着いて話を聞いてほしい。
 高橋翔、君が死んだ事は間違いのない事実だ」

「……そうなのですか、それは仕方ありませんね。
 偶然の事故、運命ならどうしようもありません」

 俺がそう言うと、俺に話しかけていた巨人だけでなく、他の巨人達も苦虫を噛み潰したような表情になった。

 何かおかしい!
 ここが俺の知る死後の世界なら、最初に俺を裁くのは地獄の泰広王、不動明王だけのはずだ。

 一人二人三人……十人、これは明らかにおかしい。
 現世に伝えられている地獄の裁判は、通常七王だけで行われる。

 七回の審理で決められない難しいケースだけ、平等王、都市王、五道転輪王が加わって再審理が行われる。

 だが、再審理は救済措置として行われるだけで、普通は四十九日に行われる泰山王の審理が終わったら、どこかの地獄に送られるはずだ。

「高橋翔の考えている通りだ。
 普通なら、初七日に行われる我の審理に、十王が揃って加わるのは、今回の高橋翔の死が異常事態だからだ」

「……何か手違いがあって、死ぬはずのない俺が死んでしまったという事ですか?」

「よく分かったな」

「俺がよく読んでいたライトノベルでは定番ですから」

「現世の小説通りの事故が地獄で起きてしまったのだ、前代未聞の不祥事だ!」

 泰広王以外の王が吐き捨てるように言った。
 罰当たりな俺は、小説を書くための知識はあるが、信仰心は全くない。
 だから姿形で誰が何王なのかさっぱりわからない。

「我が誰なのかなどどうでもいい。
 問題はお前、高橋翔の処遇だ!」

 さっきから心の中まで覗いて返事しやがる。
 地獄の王なら、人間のプライバシーなど知った事ではないというのか!

「ライトノベルによくあるパターンだと、俺の身体はもう焼かれてしまっていて、生き返らせる訳にはいかないのですね」

「その通りである!」

 名前の分からない王が答えてくれる。
 生き返らせてもらえないのなら他の保証をしてもらうべきだ。
 だが、この様子だと一筋縄ではいかないのだろうな。

「その通りだ、こちらの手違いで死なせてしまったとはいえ、倶生神からの獄録を見れば、天国に送るわけにもいかぬ。
 かと言って、地獄に送るわけにもいかないから困っておるのだ!」

「ラノベによくあるのは、チートを与えて異世界に転生させる、ですが?」

「この世界の輪廻転生から外れてもいいというのか?」

「異世界で死んでから、もう一度審理する、ではいけないのですか?」

「ちょっと待っておれ」

「ああ、もう一つ、小野篁のように地獄で働かせてもらってもいいのですよ?」

「高橋翔が小野篁のように優秀ならその方法もあった。
 だが、高橋翔の能力では下級極卒も務めさせられぬ。
 今回の失態も、人手不足を解消しようと、能力のない者に役目を任せた事が原因なのだ!」

 初七日担当の泰広王が答えてくれた。

「審理に時間が掛かるようでしたら、転生させてもらえた後の事を考えて、勉強をしたり身体を鍛えたりしたいのですが、駄目ですか?」

「もう転生する事が前提なのか?」

「いえ、そんな事はありませんが、今回は地獄の失態ですから、何らかの補填くらいはしてくれると思っているだけです。
 多くの人間を裁いて地獄に送っておられる王の方々が、自分達の失敗を棚に上げて、これからも人間を地獄の送り続けるとは思えませんから」

「……言うのう、我らが怖くないのか?」

「公明正大な方々だから、地獄の審理を任されておられるのでしょう?
 少なくとも、俺が全うするはずだった寿命分は、現世で仏になる機会を与えてくださるはずです。
 現世で得られるはずだった生活レベル、衣食住を保証してくださるはずです。
 俺だけではなく、サクラにもね」

「異世界での行動次第では、今地獄に落ちるよりも長く苦しい地獄生活になるかもしれないが、それでもいいのか?」

「記憶と知識を残して転生や転移をさせてもらえたら、特に今回の件を覚えていたら、お天道様に恥ずかしくない生き方をします」

「その言葉、忘れるではないぞ」

「はい」

 俺を前にして地獄の十王が頭を寄せて話し合っている。
 中には俺に事を見ながら怒っている王もいるが、それは一人だ。
 ほとんどの王は苦しそうな表情をしている。

 地獄の十王といえば、尊格の本地は六菩薩と三如来に不動明王だ。
 少々文句を言っても大丈夫だと思ったのだが……
 地獄の王としての振る舞いが優先されるのだろうか?

「審理が定まるまで、等活地獄で戦いの鍛錬をするがいい。
 異世界に転生する事に成ったら役に立つ。
 極卒に技を教えるように命じておく」

  泰広王こと不動明王が、十王を代表して話してくれる。

「等活地獄にいる日数は、次に地獄の落ちる時の前払いにしてください」

「抜け目ないな、よろしい、前払い扱いにしてやる。
 ならば他の七地獄も回るか?
 死傷に対する痛み耐性が得られるだけでなく、素早さも得られるぞ」

「痛みに対する耐性だけでなく、異世界で受ける攻撃をものともしない防御力が得られるのなら、前払い扱いで巡らせていただきます」

「十王だけでなく、十三王全員が協議する場合は、三十三回忌32年かかる。
 それだけの長さに渡って地獄を巡る事になるが、それでもいいのか?」

「構いません。
 清廉潔白に生きてきたとは言い切れない身です。
 黒縄地獄だけで1000年。
 大叫喚地獄の8000年と灼熱地獄の6000年が加わったら、三つの地獄だけで1万5000年も苦しむ事になるのです。
 32年くらいなら、前払いしておいても損にはなりません」

「できるだけ早く結論を出すが、悪いようにはしないと約束しよう」

 泰広王は俺に同情してくれているようだ。
 だったら、一番大切なお願いを頼む相手は泰広王しかいない。

「お願いいたします。
 できれば、サクラの言い分も聞いてやってください。
 俺は一緒に転生したいですが、サクラに無理強いする気はありませんので」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...