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4話

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「話してやってもいいが、これ以上は飲み食いじゃたらん。
 情報料をもらわなけりゃ離せないレベルだ」

「へええ、親父さん情報屋も兼ねているんだ、凄いね。
 ただ金銀はあまり持っていないのよ。
 魔核や魔石ならあるんだけど、ここは魔石で支払えるの?」

「ああ、大丈夫だ。
 魔核でも魔石でも魔晶石でも、正規の比率で受け取ってやる。
 今から話す情報なら、並の魔石なら十個で受けてやろう」

 並魔石十個ね、大銀貨一枚とは吹っかけてくれるわね。
 ひとり暮らしの女なら、ひと月以上楽に暮らせる金額。
 でも、この親父さんなら、どうでもいい情報を高値で売りつけたりしない。
 そう信じられるだけの気配と目の輝きを持っているわ。

「分かったわ。
 でも、できれば、魔核で受け取ってもらえれば助かるわ。
 ここに来るまでに狩りをしたんだけど、まだ換金できてないのよ」

「低級とはいえ、ひとりで魔獣千頭を斃したというのか?」

「ええ、そうよ。
 これでもそれなりの狩人なのよ」

「分かった、並魔核で受けよう」

 私の言葉が本当か確かめたいのね。
 いいでしょう。
 しっかりと確認してもらいましょう。

「なるほど、腕利きの狩人だというのは嘘ではないようだ。
 だったらなおさらこの情報には価値がある。
 獲物が多いからといって、フィッツジェラルド王国領に入るな。
 今あの国は生贄を集めている」

「どういう事よ!
 ヨトゥン神が人間の生贄を求めているというの?!」

「ああ、その通りだ。
 フィッツジェラルドの国王は冷酷だ。
 国の利益になるのなら、情け容赦しない。
 そのためなら、守護神を乗り換える事も平気なんだ。
 アース神族とヨトゥン神族を比べて、自国の利益になる方に切り替えたというのが、各国の指導者層の結論だ」

「なに言っているのよ!
 自分の国の人間を生贄にして、どこが国の利益になるのよ!」

「冷静に聞きな。
 王侯貴族から見れば、平民など財産でしかないんだ。
 財産は上手く使って増やさないといけない」

「だったら生贄にしちゃいけないでしょ!
 殺しちゃいけないでしょう!」

「同じ人間の値打ちが、条件によって違ってくるんだ。
 エイル神の守護を受けていた時は平民の価値が低くて、ヨトゥン神の守護を受けている時は平民の価値が高い。
 単純にそういう話だ」

「分からないわ!
 全然分からない!
 なぜ慈愛と治療の神、エイル神の守護を受けている時の平民の価値が低いのよ!
 エイル神は死んだ者まで蘇らせてくれるのよ。
 その人間が働けば、国は豊かになるじゃないの。
 全然分からないわよ!」

「それがフィッツジェラルドの国王には損失になったんだ。
 人がなかなか死なず、限られた国土の中では養いきれなくなったんだ」
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