悪役令嬢の兄に転生しました。

克全

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第一章

第3話:格付け

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 眼の前に憎たらしい王太子レオンがいる。
 俺の可愛い可愛いサンドラを婚約破棄して殺した極悪人だ。
 今直ぐこの手でぶち殺したいが、そうもいかない。
 決してこいつだけが悪い訳ではなく、あの頃のサンドラはオイタが過ぎた。
 それに、全てはゲームの製作者が悪いのであって、演じさせられている俺達が悪いわけではないと、頭では分かっているのだ。 

「王太子殿下、私ごときに遅れをとってどうなされるつもりですか?!
 殿下は王国を背負うお立場なのですぞ!」

 まさか稽古でレオンを殺すわけにはいかないから、いや、跡が残るケガもさせる事もできないから、湧き上がる怒りを抑えて痛いだけの攻撃をする。
 その方が悪質だという者がいるかもしれないが、高貴な立場にはそれに伴う責任というモノがあるのだ。
 公爵令息に過ぎない俺に、剣技で足元にも及ばない王太子では威厳がなさすぎる。

「うぎゃ、痛い、おのれ、今一度だ!」

 思わず痛いと泣き言を口にしたのが、恥ずかしく悔しかったのだろう。
 顔を真っ赤にして再び俺に向かってきた。
 だが物心つく前、生まれた瞬間から鍛錬してきた俺にかなうはずもない。
 物理的な体力体術訓練は、身体が動くようになってから始めたが、魔力的な訓練は生まれて直ぐに始めている。

「国王陛下、クリスティアン殿は千年に一人の天才でございます。
 もうあの歳で身体強化の技を会得しておられます」

 王国筆頭魔導士が俺の事をほめているが、要注意だ。
 王にとって才能の有り過ぎる家臣は、王権を奪うかもしれない危険人物だ。
 今日王太子を叩きのめして、格の違いを思い知らしたら、しばらく隠棲しよう。
 目立ち過ぎないのも処世術の一つだからな。

「それだけではありませんぞ、国王陛下。
 クリスティアン殿の足裁きと剣筋は、今まで王国になかった技術です。
 恐らく独自に編み出したのでしょうが、末恐ろしい天才です」

 こら、こら、大将軍、俺を追い込むんじゃない。
 王の目が更に危険人物を見る眼に変わったじゃないか。
 俺は妹のサンドラを助けたいだけで、弑逆や簒奪など考えていないぞ。
 しかたがない、ここは忠誠心を持っているフリをしなければいけない。
 レオンを持ち上げるのは嫌だが、サンドラを助けるためには、自分自身が盤石な地位を確保しなければいけないからな。

「王太子殿下、才能も磨かなければ輝きませんぞ!
 私以上の才能を持っておられても、努力しなければ宝の持ち腐れです。
 もっと真剣に努力されて、私の忠誠心に見合うだけの君主になっていただきます。
 王太子殿下の才能を光り輝かすためなら、いくらでも稽古にお付き合いしますぞ」

 口が腐りそうな見え見えのおべっかだが、どうやら騙せたようだ。
 元々の設定では、輝く光の王太子と呼ばれるほど高スペックなのが王太子だ。
 俺の方がはるかにに低スペックの公爵令息だったんだから、鍛えればそこそこの能力にはなるはずなんだ。
 王や重臣達もその設定で性格も好感度も決められている。
 言葉一つで俺への警戒感は低下させられるはずだ。
 頼むからこのまま何事もなく断罪回避ができますように。
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