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第一章

第1話:嫌な予感がする

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 眼が覚めると記憶を残して転生していた。
 なぜ死んだのかは覚えていないが、それ以外の記憶は明確だった。
 せっかく記憶を残して転生できたので、それを利用して有利に生きて行こうと思ったのだが、どんな世界のどんな時代に転生したか分からないので、じっくり構えて安全第一で用心深く行動する事にした。

「ばあ、ばあ、ばあ、ぶう、ぶう、ぶう」

 直ぐに言葉をしゃべりたくても、舌が上手く動かない。
 舌だけではなく、身体が新生児仕様なのでお漏らしをしてしまう。
 人生六十年を生きて、運がいいのか悪いのか、成人用のオムツを使った記憶がないので、初めて成人の記憶を持ったままおもらしする事になる。
 あまりに情けなくて、不覚にも思いっきり泣いてしまったが、お陰で乳母が直ぐにオムツを変えてくれた。

「だぁ、だぁ、だぁ、ばふ、ばふ、ばふ」

 母親が全く俺の世話をせず、乳母が全てをやってくれる。
 見渡せる範囲の部屋はとても広く、部屋数も多そうだ。
 家というよりは屋敷といった方がいいくらいの場所に住んでいる。
 乳母だけではなく、多くの侍女や執事に加え、武装した家臣も多い。
 とても運のいい事に、かなり身分の高い家転生できたようだ。

「パパ、ママ、パパ、ママ、パパ、ママ」

「まあ、旦那様、お坊ちゃまは天才でございます。
 旦那様と奥方様の血筋が素晴らしいので、このように早く言葉を話されます」

 乳母は父と母におべっかを使っているな。
 この世界この時代の使用人というのは、大変な仕事なのかもしれない。

「ふむ、我がハカス公爵家とデール侯爵家の血が混じり合うと、天才が生まれるのかもしれないな、早く次の子供が欲しいな」

 父がおべっかに満更でもない返事をしているな。
 我が親としては残念だが、ちょろい男なのかもしれない。

「まあ、嫌でございますは、旦那様。
 立て続けに子供を生むのは大変なのですよ。
 二年は間を開けさせていただきたいですわ。
 でも、ハカス公爵家とデール侯爵家の間に生まれた子供が、天才だというのはうれしい話でございますわ。
 これで両家の絆が強くなるのはうれしい事でございます」

 母が意味深な言葉を口にしながら、探るような目で父を見ている。
 どう考えても深く愛し合う夫婦の眼つきではない。
 言葉の内容から判断すれば、父が公爵で、母が侯爵家から嫁いできているようだから、どう考えても政略結婚だとしか思えない。
 まあ、前世でもお見合い結婚の夫婦の間に生まれ、父と母は水と油のような性格だったから、この世界の父と母の仲が悪くても別に平気だ。

 問題なのはそんな事ではない。
 ハカス公爵家とデール侯爵家という言葉が、前世の記憶にあるのだ。
 しかもハカス公爵家の当主の名前も正室の名前も記憶通りなのだ。
 それが歴史に実在した夫婦なら、まだ逆行転生だと喜ぶことができた。
 そうではなく、ネット小説を書くために勉強した乙女ゲームの設定にあった名前だから大問題なのだ。

 もし本当に乙女ゲームの世界に入り込んでしまっているのなら、それこそネット小説やアニメと同じ状況という事になる。
 しかも主役のヒロインでもなければ、相手役の王太子でもない。
 まあ、性転換させられてヒロインになるのは真っ平御免だが。
 それにしても、悪役令嬢の兄というのは困った立場だと思う。
 乙女ゲームを成立させるには、妹が自滅するのを見て見ぬふりしなければいけないのだが、そんな非情で不実な真似が俺にできるだろうか?
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