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第一章

9話

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 村人は直ぐに襲われると思っていた。
 だが何故が襲われなかった。
 夜には襲われると考えた。
 だが何故か襲われなかった。
 しかし朝になって分かった。
 簡単に殺してももらえないのだと。

 村の入り口には、五人の男達の骸が捨ててあった。
 恐怖に歪み、余にも恐ろしい形相の骸だった。
 身体も無残なモノだった。
 身体中の骨と言う骨が砕けていた。 
 身体中の至る所が陥没していた。
 顔だけが何の傷もなかった。

 その分、苦痛と恐怖に歪んだ死に顔がよく分かった。
 そして何故顔が無事なのかも分かった。
 恨みを晴らすと言う通告だった。
 ただの獣ではない証拠だった。
 獣が遊びで人を殺したりしない。
 獣は喰うためにしか殺さない。

 骸を見た気の弱い村人は、狂気が限界を超えた。
 泣き喚きながら、家から飛び出し、村から逃げようとした。
 だが逃げられるわけがないのだ。
 我に返った家族が、急いで追いかけようとした。
 だが、その足がパタリと止まった。

「ウォォォォン。
 グギャォォォォ。
 ガァォォォォォ。
 キィィィン。
 キャゴォォォ」

 村の周囲から、幾種もの魔獣の雄叫びが聞こえたのだ。
 聞いただけで分かった。
 魔獣が喜んでいる事を。
 新たな獲物を得て、復讐が果たせると喜んでいる事を。
 村人達は恐怖に震えるしか出来なかった。

 だが、五人の骸を捨てておくことは出来なかった。
 埋葬しなければ、疫病の原因になってしまう。
 神官に祈ってもらわなければ、怨念によってアンデットになってしまう。
 本当は火葬にしたかったが、薪の補充もままならない。
 神官を呼びに行くことも出来ない。
 仕方なく男手を総動員して土葬した。

 村人達は魔獣の雄叫びを聞きながら、恐怖に震えた。
 埋葬が終ると、急いで家に閉じこもって震えた。
 一晩中魔獣の雄叫びが聞こえて、まんじりとも出来なかった。
 恐怖で眠れなかったが、余りの寝不足にわずかに気絶した。
 朝になって、更なる恐怖が村人を待ち受けていた。

 前日土葬したはずの五人の骸が、村の中に置かれていた。
 しかも、腹が食い破られ、内臓が喰い散らかされていた。
 普通の獣は内臓を丁寧に食べる。
 食べずにバラ撒いたりはしない。
 明らかに意図的だった。
 恐怖を与える為に、わざと内臓をまき散らしたのだ。

 村人は恐怖におののいた。
 地に伏し、額を地に押しつけて祈った。
 許して欲しい。
 勘弁して欲しい。
 オリヴィアの家族を追い出した事を詫びた。
 畑の家も返すと祈った。

 だが返事などなかった。
 ただ魔獣の雄叫びが聞こえるだけだった。
 朝から晩まで。
 晩から朝まで。
 高く低く、哀しく恐ろしく、村中を恐怖に陥れた。
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