20 / 48
第一章
第20話:時間稼ぎ
しおりを挟む
「おい、グレアム。
縄張りを主張するのなら、ガッツリ魔獣を喰った方がいい。
それもそれなりに強い魔獣を喰わなきゃならない。
少々時間がかかるぞ」
チビちゃんが自分の背中に騎乗しているグレアムとソフィアに言い放つ。
ソフィアは気がつかなかったが、グレアムは直ぐに気がついた。
直ぐに助けに行くのが気に喰わないのだと。
グレアムはその理由を考えてみた。
グレアムとチビちゃんには相通ずるものがある。
それはソフィアを虐めた連中など死んだ方がいいという気持ちだ。
「そうだな、王都に助けに行って領民が殺されては意味がない。
意味がないどころか次期領主候補としても聖女候補としても失格だ。
今目の前にいる人を助けないで何が聖女候補だ」
グレアムは背後に騎乗するソフィアに聞かせるように大きな声で話す。
何度も同じ事を言うのは恥ずかしい。
だがソフィアが暴走しないようにするためなら恥も外聞もない。
チビちゃんと一緒に大嘘をつくことも平気だった。
チビちゃんに魔獣や聖女の魔力や気配を察する力が本当にあるのなら、腐れ外道共が魔獣に皆殺しにされてから助けに行く心算なのだろうと考えたのだ。
「分かっているわ、グレアム。
母上様にも言われて目が覚めたわ。
追放された私は聖女候補として働くのではなく、次期領主として働くわ」
ソフィアも領民優先には納得しているようなので、グレアムとチビちゃんはじっくり時間をかけて縄張りを主張した。
魔境側の境界線は当然だが、ハミルトン王国との境界線もカーク王国側の境界線も、竜クラスの魔獣でも恐れるくらい強く縄張りを主張した。
その副産物として、シンシアの台所領に接している両王国領で暴れ回っていた魔獣が、一斉に逃げ散ってしまった。
「これだけ強く縄張りを主張したらもう大丈夫だぞ。
これで一カ月くらいは古竜や古代竜でも近寄ってこない。
安心して王国領に遠征できるぞ」
チビちゃんが偉そうに万全だと口にする。
ソフィアはこれでようやく王都の民を助けに行けると安堵していた。
恨み辛みしかないものの、旧友達を助けに行けると思っていた。
自分自身は何もせず、チビちゃんが魔獣を喰い散らかしてマーキングする姿を見ているだけなのは、精神的に辛いモノがあったのだ。
だがグレアムは暗い喜びを感じていた。
ソフィアを虐めた連中が皆殺しになったのだと。
もし助けたとしても助けてもらったことに感謝などせず、むしろ虐められていたのに助けに来る馬鹿だと、ソフィアをあざ笑うであろう連中を助けなくていいのだと。
もうこれでソフィアがあの連中を助ける姿を見なければいけないと言う、苦行に耐えなくてもいいのだと安堵していた。
縄張りを主張するのなら、ガッツリ魔獣を喰った方がいい。
それもそれなりに強い魔獣を喰わなきゃならない。
少々時間がかかるぞ」
チビちゃんが自分の背中に騎乗しているグレアムとソフィアに言い放つ。
ソフィアは気がつかなかったが、グレアムは直ぐに気がついた。
直ぐに助けに行くのが気に喰わないのだと。
グレアムはその理由を考えてみた。
グレアムとチビちゃんには相通ずるものがある。
それはソフィアを虐めた連中など死んだ方がいいという気持ちだ。
「そうだな、王都に助けに行って領民が殺されては意味がない。
意味がないどころか次期領主候補としても聖女候補としても失格だ。
今目の前にいる人を助けないで何が聖女候補だ」
グレアムは背後に騎乗するソフィアに聞かせるように大きな声で話す。
何度も同じ事を言うのは恥ずかしい。
だがソフィアが暴走しないようにするためなら恥も外聞もない。
チビちゃんと一緒に大嘘をつくことも平気だった。
チビちゃんに魔獣や聖女の魔力や気配を察する力が本当にあるのなら、腐れ外道共が魔獣に皆殺しにされてから助けに行く心算なのだろうと考えたのだ。
「分かっているわ、グレアム。
母上様にも言われて目が覚めたわ。
追放された私は聖女候補として働くのではなく、次期領主として働くわ」
ソフィアも領民優先には納得しているようなので、グレアムとチビちゃんはじっくり時間をかけて縄張りを主張した。
魔境側の境界線は当然だが、ハミルトン王国との境界線もカーク王国側の境界線も、竜クラスの魔獣でも恐れるくらい強く縄張りを主張した。
その副産物として、シンシアの台所領に接している両王国領で暴れ回っていた魔獣が、一斉に逃げ散ってしまった。
「これだけ強く縄張りを主張したらもう大丈夫だぞ。
これで一カ月くらいは古竜や古代竜でも近寄ってこない。
安心して王国領に遠征できるぞ」
チビちゃんが偉そうに万全だと口にする。
ソフィアはこれでようやく王都の民を助けに行けると安堵していた。
恨み辛みしかないものの、旧友達を助けに行けると思っていた。
自分自身は何もせず、チビちゃんが魔獣を喰い散らかしてマーキングする姿を見ているだけなのは、精神的に辛いモノがあったのだ。
だがグレアムは暗い喜びを感じていた。
ソフィアを虐めた連中が皆殺しになったのだと。
もし助けたとしても助けてもらったことに感謝などせず、むしろ虐められていたのに助けに来る馬鹿だと、ソフィアをあざ笑うであろう連中を助けなくていいのだと。
もうこれでソフィアがあの連中を助ける姿を見なければいけないと言う、苦行に耐えなくてもいいのだと安堵していた。
0
お気に入りに追加
1,538
あなたにおすすめの小説
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
義妹に婚約者を奪われて国外追放された聖女は、国を守護する神獣様に溺愛されて幸せになる
アトハ
恋愛
◆ 国外追放された聖女が、国を守護する神獣に溺愛されて幸せになるお話
※ 他の小説投稿サイトにも投稿しています
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「伯爵令嬢ヒメリア・ルーイン。貴様はこの国の面汚し、婚約はもちろん破棄、死んで詫びるがいいっ断罪だっ!」
「そんなっ! 一体、どうしてそんな酷いことを? いやぁっ」
ザシュッ!
婚約者である【王太子クルスペーラ】と彼の新たな恋人【聖女フィオナ】に断罪されるという恐怖の夢、息苦しさを覚えてヒメリアが目覚めると……そこは見慣れた自室だった。
「まさか時間が巻き戻っているの。それとも同じ人生をもう一度繰り返してる……五回目よね」
これは清らかな伯爵令嬢ヒメリア・ルーインが、悲劇的なタイムリープの輪から抜け出すまでの物語。
* 2024年04月28日、第二部前日譚『赤い月の魔女達』更新。
* 次章は2024年05月下旬以降を予定しております。
* ショートショート作品として一度完結していましたが、長編版として連載再開です。ショート版の最終話の続きとしてクリスマスの幕間、前世のエピソード、初回のループからの伏線回収などを予定しております。
* アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しております。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
アヒル番令嬢と堅物王太子は呪われてしまうらしい
碧りいな
恋愛
誰にも望まれずに生まれ、虐げられながら閉じ込められるように育ったロジーナ。
婚約者と義母の浮気現場に遭遇したロジーナは紆余曲折の末婚約破棄され更には家を追い出され隣国に送られた。
女中として売られたのかと思いこんでいたが『養女のようなもの』と言われて大混乱するロジーナの世話人はなんとキラキラ輝く美形なのにちょっと残念な堅物王太子。
実は王太子とロジーナ呪われておりそれぞれの呪いを解くにはギブアンドテイクが必要なのだが……。
呪いを解くために頑張る二人のお話、ではありません。『呪われてしまうらしい』というタイトルだということにご留意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる