上 下
15 / 48
第一章

第15話:食欲

しおりを挟む
「グッエップ、喰った喰った、満足満足」

 ソフィアもグレアムも傭兵達もあまりの事にあっけにとられていた。
 本当にものの見事に小山のような地竜を一飲みにしてしまった。
 まあ、丸呑みだと腹から喰い破られてしまうので、ちゃんと殺してからだ。
 一噛みで顔の上半分かみ砕いで即死させた。
 後は蛇のように大口を開けて飲み込んでしまった。

「あ、おう、こら、魔宝石だ魔宝石。
 魔宝石があれば城砦に防御魔法を展開できる。
 魔宝石を吐きだすんだ、チビちゃん」

 茫然自失になっていたグレアムが我を取り戻し、チビちゃんにせっついた。
 魔獣は体内に魔力器官をもっている。
 魔獣の強さは魔力器官で創られる魔力量によって決まる。
 魔力器官は魔獣が死ぬと魔力を蓄えた状態で結晶化する。
 総じて魔核と呼ばれているが、その大きさと魔力容量によって魔石、魔晶石、魔宝石と呼び分けられている。

 低級の魔石でもそれなりの価格で取引されている。
 それが魔宝石と呼ばれるほどの魔力容量だととても高価に取引される。
 小山のような地竜から採取された魔力器官なら間違いなく魔宝石だ。
 グレアムでなくても確保したいと思うのは当然だった。
 だが、チビちゃんの返事はつれないモノだった。

「はっああああ、なんで一番美味しい魔核を他人にやらなきゃいけない。
 俺の成長に魔核は必要なんだよ。
 絶対に吐き出すもんか、それにもう消化しちまった」

 とんでもない話だった。
 さっき食べたばかりの巨大な地竜をもう消化してしまったという。
 それが嘘でない事は、あれほど膨らんでいたチビちゃんの腹がみるみる細くなっていくことで一目瞭然だった。

「とんでもない食欲だな。
 だが喰った分だけ強くなるというのなら、地竜一頭分強くなったんだな。
 聖女学園の聖女候補など簡単に負かせるんだな。
 いや、候補だけじゃない、現役も予備役もまとめて勝てるんだな」

 グレアムはとても重大な事を単刀直入に聞いた。
 グレアムにとって大切なのは国でも地位でもない。
 ソフィアが何より一番大切なのだ。
 チビちゃんが伝説の龍で、候補、現役、予備役全ての聖女を負かしたら、ソフィアが大聖女としてこの国に君臨することになる。

 ソフィアとの婚約を優先して勇者候補役も王子の地位も捨てたグレアムだが、ソフィアが大聖女に成れば間違いなく戴冠することになる。
 今さら第一王子や有力勇者候補がソフィアとの結婚を画策しても、女傑のシンシアがそんな身勝手を許すはずがない。
 だがグレアムはソフィアにぞっこんである。
 ソフィアが嫌がるなら無理に聖女候補に戻そうとは思っていない。

「一旦居城に帰ってシンシア様に報告しませんか、ソフィア嬢」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

処理中です...