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34話

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「このような荒地を購入しても、役に立たないのではありませんか?」

「確かに他の者なら無意味だと思います。
 ですがノヴァ閣下なら上手く使えると思います。
 もちろん我がコーラル家が協力すればの話ですが」

 私がシャノン公爵家と領地の売買交渉をしていると、どこからその情報を聞きつけたのか、アーレンが直ぐに屋敷にやってきました。
 オウエンから斬りつけんばかりの殺気を放たれても、全く動じません。
 それどころか、嬉々として売買交渉に参加しようとするのです。
 正直どうすればいいのか迷ってしまいました。

 しかも、アーレンが購入を勧めた場所が予想外の場所でした。
 全く水源がなく、耕作に適さない荒地を購入しろというのです。
 しかも交渉の途中で、値引き交渉に行き詰まったように見せかけ、仕方なく荒地をおまけに付けさせるようにしろと言うのです。
 無理難題を言ってくれます。
 私は力不足ですし、オウエンは武闘派なのです。

 それに、荒地はあって邪魔になる事はありませんが、全く利用価値がありません。
 下手に欲をかいて開発に資金と投入してしまったら、ノドン男爵家の財政が傾いてしまいます。
 私とオウエンの代は大丈夫ですが、子孫が全員賢明な判断ができるとは限らないので、判断を誤まる可能性のある土地は不用なのです。

 ですが、全く利用価値のない土地を、アーレンが勧めてくることはありません。
 少なくともアーレンには利用価値があるのでしょう。
 それを白状させないで買うことなどできません。
 一番利の多い所は絶対に白状しないでしょうが、こちらにも利があり、私達が乗ってくると判断したからこその提案です。
 少なくとも、アーレンが私達に与えてもいいと考えている部分だけは、絶対に確保しなければいけません。

「アーレン。
 貴男には大きな利益があるのでしょうが、私達には何の利もありません。
 私達が得られる利を早く白状しなさい。
 私は細々とした駆け引きが苦手ですし、好きでもありません。
 さっさと私達に与えてもいい利を話しなさい」

「そのようなモノはありません。
 私が持っているカードは、薬造りための素材でございます。
 私が素材を売らないとなったら、ノヴァ閣下はお困りになるのではありませんか。
 別に閣下の損になる事ではありません。
 薬作りに貢献しているコーラル家にお慈悲を願います」

「アーレンは私との駆け引きを愉しみたいのでしょうが、初心者男爵の私には、そのような余裕はないのです。
 早々に手の内を明かしてくれませんか?」

「それはノヴァ閣下のお為になりません。
 閣下が自ら申されたように、初心者男爵の閣下には交渉の経験が必要です。
 私を相手にできないようでは、いつどこで罠に嵌められるか分かりませんよ。
 今しばらくお相手していただきましょう」

 やれやれ。
 アーレンは親切で私と交渉するつもりのようです。
 これではしばらく付き合うしかありません。
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