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第一章

第57話:脅迫

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 俺はアヴァール可汗国の支配域である草原に侵攻した。
 既にウァレリウス・ウディネ伯爵家のカルロが大勝利を収めているので、無人の野を往くが如く支配域を広げることができた。
 直ぐにアヴァール可汗国から使者が現われ、大義のない侵略は止めて欲しいと言ってきたが、そんな事は最初から分かってやっている事だ。

 カルロは脳筋だが、グレタが軍師としてついていたので、アヴァール可汗国は既に多くの賠償金を要求して分捕っているから、今は支払い能力が低くなっている。
 遊牧で生きている者が多いアヴァール可汗国は、完全に滅ぼす事が難しい。
 絶対に勝てないと思ったら、全ての財産を持って土地を捨てて逃げてしまう。
 だが同時に、できる事なら肥沃な草原地帯を失いたくないと思っている。
 だからこそ、こちらにも向こうにも交渉の余地があるというものだ。

「よく言ってくれるな、使者殿よ。
 先年貴国が攻めてきた時に、どのような大義名分があったと言うのだ。
 ローマ帝国だけでなく、スラヴ族連合やドイル連合王国と徒党を組んで、アウレリウス・ヴェネツィア王国に宣戦布告もなく攻め込んできたではないか。
 少なくとも余は、他国と語らうことなく単独で戦いを挑んでいる。
 宣戦布告をして、正々堂々と戦っているではないか。
 卑怯下劣な国の使者に非難されるいわれは毛ほどもない。
 使者殿こそ、そのような言葉を口にして恥ずかしくないのか、卑怯者が」

「エドアルド公王陛下の御言葉には返す言葉もございません。
 ですが私も国の命運を託されて使者に参ったのでございます。
 どうか弱者に情けをおかけください」

「少しでも不利になれば、何時襲いかかって来るか分からない、卑怯下劣な国と境地を接する事などできない。
 情けをかけても全く恩に感じない者に、情けをかける気はない。
 そもそも、本当に自分達がやった卑怯下劣な奇襲を詫びる気があるのなら、国王自らが余の前に来て頭を下げて詫びるべきであろう。
 それを、大した地位も得ていない家臣を寄こして済まそうとするなど、余を馬鹿にするにも程がある。
 その無礼、王の首を胴から斬り飛ばして思い知らせてやる」

「どうか、どうか、どうかしばしお待ちください。
 私が直ぐに王都に戻り、王に詫びるように進言いたします。
 陛下に頭を下げて謝るように王を説得いたしますので、どうか、どうか、どうかしばし御猶予ください」

「余を馬鹿にしているのか、叛意を隠して、形だけ詫びられても何の意味もない。
 それよりは、大半の遊牧民は取り逃がしても、王族を皆殺しにして、王都を占領した方が簡単だし、我が国の安全も確保できる。
 お前はさっさと一族を連れて逃げるがいい、余は王都に向けて進軍を再開する」
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