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第一章

第41話:魔力

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 この世界の常識から逸脱しないように力を抑えてきたが、マリアお嬢様と結婚するのなら話しは違ってくる。
 力を制限していては、マリアお嬢様を完璧に守り切れると断言できない。
 俺の想像力の及ぶ範囲で創り出してきた魔術はもちろん、自分の魔力量を左右する魔力圧縮も一段階引き上げて公開する必要が出てきた。
 もちろん公開する相手は、絶対の信用信頼ができる孤児院の幼馴染や、肩を並べ背中を任せて戦ってきた戦友に限る。

 だがこの世界の魔力や魔術にはとても大きな制限があった。
 前世の知識と創造力を持った俺でも、放出系の魔術は一切使えなかった。
 基本使えるのは身体強化系の魔力だけだった。
 想像して創り上げた魔術に名前を付けて呪文とすれば、俺以外の他人でも同じ効果が現れる事は、孤児仲間で戦友でもある連中に試してもらった。
 だから彼らは、この世界の一般的な騎士や兵士とは隔絶した戦闘力を持っている。
 仲間達と互角に戦わるのは、無意識に身体強化ができるようになった奴らだけだ。

 そんな連中は、イスラム帝国の十大将軍や強国の大将軍、あるいは勇名をはせている騎士団長や傭兵団長になって名を揚げているから、比較的備えやすい。
 今直接領地を接しているフランク王国やアヴァール可汗国、外交問題で敵対しているローマ帝国にはいないはずだ。
 だが、油断する気はないので、今回は第三段階までは仲間達に公開する。
 俺は彼らより飛び抜けた、独自に区分した十段階まで達しているから、万が一仲間に裏切られることがあろうと、マリアお嬢様を護れると思う。

 だが今回第三段階まで魔力を公開する理由は、武力が一番の問題ではない。
 一番の理由は、食糧不足を解消するためだ。
 前世の六圃輪栽式農法と麦翁の技術を導入する事で、以前の十五倍の収穫量を確保する事ができている。
 しかし新たに獲得した領地で知識や収穫量が安定するまでには数年かかる。
 少なくとも次の収穫には間に合わない。
 備蓄してきた食糧があるから、難民や農民を飢えさせることはないが、非常時を考えれば備蓄食糧は多ければ多いほどいい。

 だから、収穫量を増やすために魔力を農地に薄く広く流すのだ。
 特に俺の直轄領となった場所は、前領主の悪政で農地も民も疲弊している。
 六圃輪栽式農法と麦翁の技術を導入しても、根本的に痩せてしまっている農地では、直ぐに効果が現れない。
 土地を肥やす肥料をまかなければ元の十五倍もの収穫量を得る事など不可能だ。
 だが直ぐに効果的な肥料を手にいれることは事実上不可能だ。
 数年かけて必要な肥料を作っていく事になる。

 だから、その肥料を確保できるようになるまでは、魔力を使うのだ。
 第三段階まで魔力が増えた仲間達を直轄領の代官にして、管理している農地に薄く広く魔力をまいてもらう。
 俺の計算通りいくと、例年の五倍の収穫量を確保する事ができるだろう。
 そうなれば食糧に困る事はないと思われる。
 周辺国が連合を組んで攻め込んできたとしても、兵糧不足にはならない。
 問題があるとすれば、重要な指揮官を失った軍をどうするかだ……
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