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第一章

第31話:ローマ軍司令官の次男・マリア視点

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「ローマ帝国から参りました、ヤコポと申します。
 以後宜しくお願い申し上げます、マリア公太女殿下」

 金髪碧眼でお兄様以上の体格を誇る美丈夫が挨拶をしてくれます。
 ローマ帝国貴族以外は人と認めない、我々を見下す者が殆どのローマ貴族とは思えない、丁寧で優雅な挨拶です。
 ですが見た目や態度に騙されてはいけません。
 お兄様はつけてくださった侍女や戦闘侍女が調べてくれた情報では、油断のならない策士だという話しです。

「よく公国においでくださいました、ヤコポ・ルピリウス・ロッシ卿。
 心から歓迎させていただきます」

 初めての挨拶から直ぐに、結婚や婚約の話をしてくるかもしれないと身構えていましたが、本当に挨拶だけして下がってくれました。
 ソフィアから交渉術が上手いと聞いてはいましたが、ローマ帝国の軍事力を背景に強引な交渉をするのではなく、利益で釣ったり隙をついたりするのでしょう。
 こういう相手の方が交渉が難しい事が多いです。

「ソフィア、ヤコポ殿だけでなく、ロッシ家の弱点は調べられていますか」

「ある程度の情報は集まっていますが、完璧ではありません。
 今も情報を集めていますが、ロッシ家もルピリウス氏族も、明らかな弱点はございません」

「そうですか、直ぐに使える弱みはないのですね。
 ではヤコポ殿の狙いは何なのですか。
 わたくしとの婚姻を望むのは手段であって、目的ではないはずです」

 わたくしとの婚姻を望む殿方は、公国の、いえ、王国の配偶者になりたい者ばかりで、本当にわたくしを愛しているわけではありません。
 公爵令嬢の頃から、婚姻は政略で結ばれるものでした。
 これはわたくしだけではなく、全ての貴族士族の令嬢に当てはめられる事です。
 本当に好きな殿方結ばれる令嬢など滅多にいないのです。

 だからこそ、あらゆる障害を乗り越えて愛する人と結ばれた令嬢が、貴婦人や令嬢から羨ましがられるのです。
 ヤコポ殿にも目的があるはずです。
 ローマ帝国貴族の中でも、父親が総督に任じられている有力家だと聞いています。
 ヤコポ殿は次男にもかかわらず、独自で総督候補になるほど優秀だとソフィアが言っていましたから、命懸けで公国に来た以上、必ず野望があるはずです。

 ヤコポ殿の野望が分かれば、それを利用して交渉する事が可能です。
 単に総督になるための後ろ盾が欲しいのなら、結婚も婚約も不要です。
 エドアルドお義兄様に相談して、余剰戦力を援軍に回せば済みます。
 王家の直轄領以外は、全て併呑しかねない勢いで侵攻されておられるお義兄様ならば、あと半年もあれば王国貴族を全て討伐される事でしょう。

「ソフィア、再度お義兄様に確認してください。
 ローマ帝国と戦う心算でおられるのかどうかを。
 戦う気でおられるのでしたら、一日でも早くヤコポ殿を殺してしまわなかればいけませんよね、違いますか」

「ローマ帝国は強大な国でございます。
 確実に勝つためには、内部に味方を作る必要がございます。
 味方を作らない場合でも、内部で争わせるかもしれません。
 方針が決まるまでは、同盟相手の後継者として遇してくださいませ。
 いえ、ルピリウス氏族を分裂させる場合は、ヤコポ殿が直接の同盟者になる可能性もございます」

 エドアルドお義兄様、まさかとは思いますが、わたくしをヤコポと結婚させる気ではありませんよね。
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