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第一章

第86話:家臣

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「国王陛下の御尊顔を拝し奉り、恐悦至極でございます。
 我らのような才無き者を家臣に加えてくださり、感謝の言葉もございません。
 身命として忠義を尽くさせていただきます。
 先輩の諸侯にも宜しくお引き立て願います」

 眼の前に這い蹲っているのは元マライーニ王国の貴族達だ。
 正直あまり家臣に迎えたい連中ではない。
 だがこのまま放置していたら領民が苦しむことになる。
 俺を恐れるあまり重税を課して軍備を増強したり、俺との間を取り持ってくれと方々に賄賂を贈ることだろう。

 だから家臣に迎えたが、勘違いしないように釘をさしておく。
 生きの頃るためにマライーニ王家を滅ぼした分家の連中は大嫌いだった。
 だが彼らの気持ちが全く分からなかったわけではない。
 同時に分家連中を責め殺して生き残ろうとしたこいつらの気持ちも分かる。
 分かるが好きにはなれないのだ。

「最初にハッキリ言っておくが、余はお前達の事が嫌いだ。
 家を残すために必死だったのは分かる。
 弱小貴族が有力貴族に媚び諂わなければいけないのも分かる。
 だが元の主筋を攻め滅ぼした事は気分が悪い。
 それは余とリアナが落ち目になった時には牙を向くと言う事だからな」

「「「「「それは違います」」」」」

「まあ、待て、最後まで聞け。
 さっきも口にしたが理解はできるのだよ。
 だから臣従を拒むとは言っていない。
 虐める気もなければ領地を削る気もない。
 だが褒める気もなければ褒美を与える気もない。
 それともお前達は元の主筋を攻め滅ぼした功を誇りたいのか」

「「「「「滅相もございません」」」」」

「臣従を受け入れてくださっただけでも十分感謝しております。
 陛下のお力ならば、我ら全員を攻め滅ぼして領地を直轄領にする事など容易い事。
 それなのに領主の地位を保証してくださいました。
 恩に感じこそすれ功を誇り不満を持つなど毛頭ございません」

 本気で恩に感じて感謝しているかどうかは分からない。
 だが全員が同じように返事している。
 代表する者も誓っている。
 だがそれを鵜呑みにするほど俺は馬鹿じゃない。
 彼らは家を護り領民を護るためなら何でもするだろう。
 そんな事は分かり切った事なのだ。

「ふむ、あい分かった。
 功を誇らず褒美もいらぬというのは殊勝な心掛けだ。
 だがそれでは今回の戦で手柄を立てた者への褒美に困るだろう。
 戦費を補うために領民にさらなる重税を課すことになるだろう。
 それでは余の名に泥を塗ることになる。
 領地を褒美に与える事はできないが、金銀財宝なら与えることができる。
 その金銀財宝を家臣への褒美と戦費を賄うがいい。
 そこ代わり絶対に税を上げる事は許さんぞ。
 もし税を上げたり上げた税を元に戻さなかったら、一族皆殺しにするからな」
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