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第一章

第78話:聖者聖王

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「聖王陛下、決済お願い致します」

 不本意である、本当に不本意である。
 グラハム王家のモーガン王女を治療して以降、家臣達が俺の事を聖王と呼ぶ。
 明らかにリアナが呼ばせているのが分かるから、怒る事もできない。
 怒ったらリアナが哀しむか落ち込む。
 俺が何時までも決断しないせいか、リアナの感情の起伏が激しくなっている。
 悪役令嬢落ちのスイッチが入ってしまったのかと心底心配になる。

 しかもリアナは王宮内だけでなく、領内でも聖王の称号を広めようとしている。
 密偵を使って酒場などで俺の事を聖王と呼ばせている。
 全部護衛のズメイやバロンを通じて俺に筒抜けだ。
 そんな事はリアナも理解しているはずなのだが、堂々とやっている。
 それに無理に民に命令して呼ばせているわけではないので注意もできない。

 まあ、タイミングも悪かったし、俺の自業自得な面もある。
 リアナが噂を流し出したのと同じタイミングで、遺伝子異常の治療を始めた。
 それが終わってもそのまま周産期治療を行った。
 民から見れば聖女ができなかった事、聖女が絶対に治療しなかった平民、王家や貴族を通じて何とか治療してもらえたとしても、莫大な礼金が必要だった事だ。

 それなのに収入に応じた支払える額で聖魔術の治療が受けられる。
 それも相手は聖女どころか国王の俺なのだ。
 建国国王が自ら聖魔術を駆使して治療してくれるのだ。
 民が褒め称えるのは当然の事だろう。
 だから俺が文句を言えることではない、完全な自業自得だ。

 だが事は自国内だけではすまなかった。
 モーガン王女治療の件が大陸中に広まったのだろう。
 各国王家から治療依頼が跡を絶たなくなっている。
 教会の教えに従順な一部の国を除いて、多くの国では近親婚が繰り返されている。
 どの王家も神聖な王家の血が薄まることを極端に嫌ったのだ。

 例えば建国王と平民が恋に落ちて生まれた子供が二代王となると、建国王の血は二分の一になってしまう。
 二代王が平民と恋に落ちて生まれた子供が三代王となると、建国王の血は四分の一になってしまう。
 王家の血を神聖なものだと考える国であるほど、建国王の血が薄まる事を極端に嫌い、結果として近親婚が繰り返されていた

 だからどの王家にも先天障害を有した子供がたくさんいた。
 子孫を残すことができなかったり、知的障害を有する一族がたくさんいた。
 それでも本家は近親婚を繰り返さずにはいられなかった。
 だからこそ俺のモーガン王女治療成功の情報は、福音以外の何物でもなかった。
 彼らを俺に縋って王家の純血性を残したまま障害を排除しようとしたのだ。
 その結果として大陸中の王家の大半が俺を聖王と奉ることになった。
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