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第一章

第75話:ダウン症候群

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「キャメロン国王、この子を治すことはできないだろうか。
 我が国にいる全ての医師と薬師に診せたが、治療できなかった。
 聖女ルナネにも奇跡の力を使ってもらったが、治療できかなった。
 だが聖者キャメロン国王なら治療して頂けるのではないか」

 初めてリアナと一緒に訪れた国は後回しのするつもりだった所だ。
 以前から王の末娘が先天障害があると言う噂を聞いていたからだ。
 自分に自信がつくまではここに来る気はなかった。
 だから王家の中では最後にするつもりだった。
 しかし合併症の心不全が悪化していると聞き、来るしかなかった。

 この国王は王妃を深く愛していた。
 だから高齢で子供ができた。
 だが高齢出産では障害を持つ子が生まれる確率が跳ね上がる。
 二〇歳の母親からダウン症児が生まれる確率は一六六七分の一。
 二五歳の母親からダウン症児が生まれる確率は一二〇〇分の一。
 四〇歳の母親からダウン症児が生まれる確率は一〇〇分の一。

 そもそも四〇歳の母親が流産する確率が二分の一もあるのだ。
 金と権力のある王侯貴族以外が、障害のある子を育てられる世界じゃない。
 厳しく冷たい事を言うようだが、この世界はそれほど豊かではない。
 だから遺伝子異常でも、心臓の変形などの重い障害を伴い生後一年で九割の子が亡くなる、エドワーズ症候群やパトー症候群の子供はまだ見たことがない。

 前世の知識で知っているのは、ダウン症の子が生まれえる確率は三〇歳以上で多くなるという厳然たる事実だ。
 その時に思いだしたのが江戸時代に徳川将軍のお手付き中臈となった女性だ。
 彼女達は三〇歳になるとお褥御免をすることになっていた。
 医療の遅れていた江戸時代の事だ、高齢出産で母親に死の危険を与えない事と同時に、経験的に子供に障害が出る事も分かっていたのだろう。

 他の遺伝障害ならともかく、ダウン症なら俺も原因を知っている。
 その程度の事は東洋医学が専門でも知っている。
 人間の持つ二二の染色体のうち、二一個目の染色体が正常な二本ではなく一本多い三本あるのだ。
 それを正常な二本になれと念じて魔力を送ればいい。

 俺には少ない魔力で遺伝子を書き替えられる。
 二一本目の染色体を二本に修正して、その遺伝子情報を元に身体中の細胞を書き変える事ができると信じ込むのだ。
 
 染色体さえ正常にできるのなら、知的障害、先天性心疾患、低身長、肥満、低筋力、不安定頚椎、鎖肛、先天性食道閉鎖症、白血病、円錐角膜、斜視、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、閉塞性睡眠時無呼吸、耳の感染症、先天性白内障、眼振、斜視、屈折異常、難聴、手の猿線、耳介低位、翼状頚の全てを治す事ができる。

 治療に成功したら、今までとは全く印象が違ってしまう。
 姿形が今までとは全く変わってしまうのだ。
 その事を事前に言っておかないと、人間を入れ替えたと思われてしまう。
 俺がチェンジリングであると言う噂と、転移魔術を使っている事実があるから、眼の前で治療していても疑われる可能性があるからな。
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