上 下
73 / 89
第一章

第73話:治療と若返り

しおりを挟む
 最初に始めたのは普通に治癒魔術だ。
 はっきり言おう、手加減なしの全力治療だ。
 今まで聖女だけが使えると言われていた聖魔術だ。
 だが前世の知識がある俺には全然希少性もありがたさもない。
 魔力があって想像力があれば治癒は実現可能なのだ。
 俺から見ればルナネ嬢が使える聖治癒魔術はレベルが低すぎる。
 俺が全力で使えば身体の半分を失っていても治す事ができる。

「まずは手足の欠損や失明者から治療する。
 順番に治療室に入れろ。
 裕福な者からは相応の治療費を徴収しろ。
 貧しい者は移民の手続きをとれ」

「「「「「は」」」」」

 最初に事故や事件、あるいは狩りや戦争で障害が残った者の治療を始めた。
 遺伝障害のような難しい事をやる前の肩慣らしだ。
 貧しい者には無償で治療するが、金のある者からは頂く。
 その代わり貧しい者には移民して来てもらう。
 家族揃ってリアナと俺の為に働いてもらう。

 病気の者も同じだった。
 金持ちにはそれ相応の治療費を支払ってもらった。
 お金がなくて医者にかかれない者には家族揃って移民してもらう。
 ルナネ嬢にも治せなかった重病の王侯貴族も簡単に直してやった。
 だが事故事件の障害者と違って重病人を無理に移動させる訳にはいけない。
 ゴードン王国に来れるのは近隣国の人間に限られる。

 遺伝障害を持つ者とその家族には城で待ってもらう。
 少しの魔力で遺伝障害を治せると自分に思い込ませるためには、それなりの自信が必要になってくるからだ。

 俺に自信がついて遺伝治療に踏み切る前に、治療の評判が大陸中に広まった。
 もうルナネに聖女としての利用価値などほとんどない。
 俺より能力の低い治癒魔術の為に、マライーニ王家に借りを作りたいと考える王侯貴族など一家もいない。

 俺の力を恐れて、王侯貴族のプライドを捨て、平身低頭しなければいけないのだ。
 だったらせめて少しでも言い訳したいのが人間の心理だ。
 軍事力に恐れて平身低頭するのではない。
 聖なる奇跡の力、聖魔法の使い手である聖者に敬意を表している。
 そう自分を騙したいのが人情と言うものだ。

 その先鞭をつけてくれたのは大陸で長く王位に就いている某国王だった。
 歳を重ねても思慮に衰えはなかったのだろう。
 俺に若返りの魔術を試して欲しいとわざわざやって来て頭を下げた。
 臣下の礼を取る事なく俺に頭を下げるための方便だ。
 別に覇王に成りたい訳ではない。
 大陸中の人間の命と生活を預かるような重圧など御免被る。

 ただ俺も若返りの魔術は試してみたかった。
 しかし無差別に全人間に若返りの魔術を使ったら、この大陸は一気に人口爆発で食糧難になってしまう。
 だから王族だけと線引きして、某国王に試してみた。

 遺伝的に障害がなかったので、少しの魔力で簡単に若返らせる事ができた。
 単に俺に頭を下げる言い訳になればいいと、若返りを願った某国王は、齢七〇から三〇に若返れて狂喜乱舞していた。
 結局ベランジェ国王がルナネの聖魔術を使って手に入れようとしていた、大陸での影響力など足元にも及ばない影響力、いや、権力を手に入れる事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

失恋模様

霧雨 紫貴
恋愛
今まで内気だった男の子がとあるキッカケで自分を変える物語。 感想受け付けてます! コメントは1ヶ月以内には返信できると思います。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」 と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。 攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...