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第一章

第68話:視線

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 今日も朝から視線が熱い。
 リアナの視線はいつも通り残念な熱さだが、正直嬉しくもある。
 他にも立身出世を目指す者達の視線も熱い。
 強欲な野望の視線なら叩き潰すのだが、理想を達成するための熱視線の場合は、聖者の大欲という事もあるので判断に困るのだ。

 ただ問題はいつもと違う視線を向けてきたクレマンだ。
 リアナ付の家老、いや、筆頭大臣に据えたクレマンが私利私欲に走ると困る。
 俺の大臣なら限界ギリギリまで待って処罰することができる。
 だがリアナの大臣だと、おかしな振舞いをしたとたんにバロンやズメイが処罰してしまう可能性がある。

 クレマンを信じて、処罰時期を遅らせるようにバロンやズメイに命じる事はできるが、それではリアナに危険が及ぶ可能性がある。
 よく仕えてくれる譜代家臣のクレマンとはいえ、リアナとは比較にもならない。
 さっさと詰問して全てを自白させるべきだな。

「リアナ女王、クレマンが何か思い悩んでいるようだから、ちょっと二人きりで話し合いたいと思うから、後の事は頼むよ」

 俺が二カ国の政務を執る部屋でそう言うと、その部屋にいる全員が凍り付いた。
 理由は分からなくても、重大な事が起こったと分かったのだろう。
 リアナですら一瞬固まってしまったくらいだ。
 だが直ぐにクレマンを殺したり処分したるするわけではない。

 それくらいの事は分かっていると思っていたのだが、自分で思っている以上に俺は恐怖の対象になっているのだろうか。
 確かに敵対する者には恐れられるようとしていたから、その影響が味方にまで大きく影響していたという事か。
 味方の恐怖感を払拭しておくべきか、それともこのまま放置しておくべきか。

「処罰ではないよ、悩みを聞くだけだよ、なあ、クレマン」

 俺がそう言ったのだが、クレマンは真っ青な顔で固まっている。
 どう考えてもただ事ではない。
 もしかして本気で謀叛や汚職を考えていたのだろうか。
 自白の魔術を使えば簡単に全てを知ることができるが、それではあまりに独裁的過ぎると思うのだ。

「申し訳ありませんでした、キャメロン陛下。
 私はただリアナ陛下に想いを遂げていただきたかっただけなのです。
 リアナ陛下とキャメロン陛下に結ばれていただきたかっただけなのです。 
 それ以外の叛意など全くございません。
 キャメロン陛下から悩んでいるように見えたのは、どのように言葉を尽くせばキャメロン陛下にお聞き届けいただけるか、真剣に考えていたからです」

 完全に不意討ちされてしまった。
 リアナだけでなくクレマンまでそんな風に考えているとは思ってもいなかった。
 まさかとは思うが、他の家臣達も同じなのだろうか。
 徐々に外堀を埋められているのだろうか。
 とても不安になって来たぞ。
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