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第一章

第67話:恐怖・クレマン視点

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 両陛下には本当に困る。
 リアナ女王陛下の兄好きにも困らされたが、キャメロン陛下の往生際の悪さにも困らされる。
 あれだけリアナ女王陛下を溺愛しておいて、今更結婚に二の足を踏むなど、根性がなさすぎると思う。
 
 そんな思いは口にも表情にもできないが、それが本音だ。
 家臣としてやれることは精一杯やった。
 愚かとはいえ先代と先代夫人の秘め事を露わにしたのだ。
 本来なら家臣として許されない事だ。
 それなのに、その成果を活用しないのは主君としてどうかと思う。
 
 主家の意見がまとまらず、夫婦や親子で違う命令を下すことほど家臣を困らせる事はないのだ。
 リアナ女王陛下の命令に従ったらキャメロン陛下に睨まれる。
 キャメロン陛下の命令に従ったらリアナ女王陛下に睨まれる。
 心優しい両陛下が、自分の命令に従わないからと家臣を処罰するとは本気で思っていないが、もしかしたらという恐怖は常につきまとうのだ。

 主君たるもの常に一族の序列はキッチリと決めておいてもらいたい。
 本来ならキャメロン陛下が絶対的な権限を有して命令を下して欲しい。
 そうしてくれれば家臣は安心して仕える事ができる。
 それをリアナ様も女王に戴冠させて同じ権力を与えるなど、家臣としたらたまったものではないのだ。

 まあ、家臣達もリアナ女王陛下があのような暴走をされるとは思ってもいなかったから、それはキャメロン陛下も同じだったのだろう。
 あの大人しかったリアナ女王陛下が、キャメロン陛下との結婚を画策するなど、家臣達の誰も思わなかった。

 だがその気持ちも分からないではない。
 キャメロン陛下ほどの英傑は大陸中探しても他には見つからない。
 並みの英雄豪傑や賢者では足元にも及ばない。
 我ら家臣一同自慢の主君なのだから。
 普通の男が塵芥に見えるという意味ではリアナ女王陛下は御不幸な方とも言える。

 そう考えるとキャメロン陛下が間違っている気がしてくる。
 両親ともに同じだったら流石にまずいが、先代夫人の不義が確かめられたのだ。
 国の法律は両陛下のお力だったらどうにでもできるのだ。
 ここは、ここまでリアナ女王陛下に恋心を抱かせた責任をとって、男らしくプロポーズすべきなのだ。

 毒を食らわば皿までではないが、先代夫人の不義を暴きたてラゼル公爵家の恥部を露わにした以上、最後までやるべきだという気持ちになってきた。
 キャメロン陛下を本気で怒らせることになろうとも、キャメロン陛下にリアナ女王陛下へプロポーズしていただきたくなってきた。
 だが流石に一人で全責任を背負うのは怖いから、まだだれかを巻き込んでやろう。
 卑怯と言われようが知った事ではない、家臣一同一蓮托生だ。
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