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第一章
第65話:反省からの方針転換
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俺は自分がかなり焦っていたのだと思い知らされた。
リアナに結婚を迫られている事で平静を失っていたようだ。
近親婚の覚悟を決めている心算だったのだが、心理的障害があったのだ。
自分に前世のモラルが大きな影響を残している事がよく分かった。
この世界の王家のなかには、異母異父兄弟姉妹婚を認めているところもある。
だが俺にはどうしても受け入れられないのかもしれない。
自分の心理がよく分かったのは大きな前進だ。
だからとりあえず女王として考えるのを止めて、妹として考えるように戻す。
だがだったらどうすべきかという問題は全然解決されていない。
一つ一つの問題をもう一度考え直してく。
近親婚を避ける努力を続ける事は確かだが、コームは諦めるしかない。
確かにリアナの言う通り、政治的には完全な悪手だ。
俺の力なら敵意を抑え込むことも無視する事もできるが、リアナが良識的に許せないと言ったので、完全にやる気がなくなった。
「陛下、宝石売却益と税収の報告書を持ってまいりました」
俺が政務をしながらリアナの事を考えていると、リアナが女王に戴冠してから頭角を現してきた、若手の官僚が書類を持って入って来た。
整った顔立ちに透き通るような白い肌、整髪料で整えた緑の清潔な髪型。
身長一八〇センチの程度の身体に優雅な雰囲気をまとっている。
武芸の達人とは違うが、何かを極めたような雰囲気がある。
「ありがとう、そこに置いてちょうだい」
一緒に政務をしていたリアナが書類から視線をあげて返事をしている。
リアナの目には何の感情も込められていない。
路傍の石を見るようにとまでは言わないが、一家臣として何の意識もしていない。
だが若手官僚の方は、明らかにリアナを意識している。
単なる主君を見る眼ではなく、女神や憧れの女性を見るような眼つきだ。
イニス王国からロスリン王国になる時に粛清の嵐が吹き荒れた、貴族社会や官僚社会で生き延び頭角を現した男だ。
少なくとも不正に関与するような悪人でない事は確かだ。
武芸の方は分からないが、官僚としての才能も確かだろう。
少なくとも今までリアナに会わせてきた王侯貴族よりは見所がありそうだ。
「ああ、君、何という名前だね」
不意に俺から声をかけられた若手官僚は、雷に打たれたかのように凍り付いた。
俺には敵意も悪意もないのだが、若手官僚は死刑宣告を受けたような表情だ。
最初は何故そんな反応をするのか全く分からなかった。
だが直ぐにその理由に思い至り仕方ない事だと諦めた。
俺がリアナを溺愛している事は大陸中に知れ渡っている厳然たる事実だ。
そんな俺を前にして、リアナを憧憬したのだ。
俺がそれを見抜いて殺意を抱いたのだと勘違いしたのだろう。
さて、ここからどうやってこの若手官僚と親しくなればいいだろうか。
リアナに結婚を迫られている事で平静を失っていたようだ。
近親婚の覚悟を決めている心算だったのだが、心理的障害があったのだ。
自分に前世のモラルが大きな影響を残している事がよく分かった。
この世界の王家のなかには、異母異父兄弟姉妹婚を認めているところもある。
だが俺にはどうしても受け入れられないのかもしれない。
自分の心理がよく分かったのは大きな前進だ。
だからとりあえず女王として考えるのを止めて、妹として考えるように戻す。
だがだったらどうすべきかという問題は全然解決されていない。
一つ一つの問題をもう一度考え直してく。
近親婚を避ける努力を続ける事は確かだが、コームは諦めるしかない。
確かにリアナの言う通り、政治的には完全な悪手だ。
俺の力なら敵意を抑え込むことも無視する事もできるが、リアナが良識的に許せないと言ったので、完全にやる気がなくなった。
「陛下、宝石売却益と税収の報告書を持ってまいりました」
俺が政務をしながらリアナの事を考えていると、リアナが女王に戴冠してから頭角を現してきた、若手の官僚が書類を持って入って来た。
整った顔立ちに透き通るような白い肌、整髪料で整えた緑の清潔な髪型。
身長一八〇センチの程度の身体に優雅な雰囲気をまとっている。
武芸の達人とは違うが、何かを極めたような雰囲気がある。
「ありがとう、そこに置いてちょうだい」
一緒に政務をしていたリアナが書類から視線をあげて返事をしている。
リアナの目には何の感情も込められていない。
路傍の石を見るようにとまでは言わないが、一家臣として何の意識もしていない。
だが若手官僚の方は、明らかにリアナを意識している。
単なる主君を見る眼ではなく、女神や憧れの女性を見るような眼つきだ。
イニス王国からロスリン王国になる時に粛清の嵐が吹き荒れた、貴族社会や官僚社会で生き延び頭角を現した男だ。
少なくとも不正に関与するような悪人でない事は確かだ。
武芸の方は分からないが、官僚としての才能も確かだろう。
少なくとも今までリアナに会わせてきた王侯貴族よりは見所がありそうだ。
「ああ、君、何という名前だね」
不意に俺から声をかけられた若手官僚は、雷に打たれたかのように凍り付いた。
俺には敵意も悪意もないのだが、若手官僚は死刑宣告を受けたような表情だ。
最初は何故そんな反応をするのか全く分からなかった。
だが直ぐにその理由に思い至り仕方ない事だと諦めた。
俺がリアナを溺愛している事は大陸中に知れ渡っている厳然たる事実だ。
そんな俺を前にして、リアナを憧憬したのだ。
俺がそれを見抜いて殺意を抱いたのだと勘違いしたのだろう。
さて、ここからどうやってこの若手官僚と親しくなればいいだろうか。
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