上 下
63 / 89
第一章

第63話:忠臣コーム

しおりを挟む
「国王陛下、各地の備蓄食糧の在庫量でございます」

 学生達を指導した後、休息がてら大臣達と政務をしていたら、各地の視察に行っていたコームが報告にやって来た。
 身長一八〇センチの筋肉質の身体を自然体にしている。
 最近は俺に怯える家臣が増えたので、このような態度で接してくれると嬉しい。
 譜代の家臣でも心にやましい所のある者は、どうしても俺の前にでると怯えた態度になるからな。

「うむ、コームが直接見て回ったのか」

「はい、配下の者や現地の者を疑っているわけではありませんが、人間の心はとても弱いモノだと国王陛下からお聞きしております。
 巡検する者が手を抜いて楽をするようになると、普通なら不正をしない者に悪心を生んでしまうから、上に立つ者こそ自分を律して手を抜くなと、国王陛下から教えていただいております」

 コームが百点満点の返事をしてくれた。
 この噂が国内に流れたら、同じように自分を律する家臣が増えるだろう。
 今大臣として働いている者達も再び心を引き締めるだろう。
 ここは心から称賛しておくべきだな。
 それにしても、俺は何を見ていたのだろう、こんな直ぐ側に漢がいたじゃないか。
 リアナ女王の王配にするのに問題があるとしたら、コームには既に婚約者がいるという事だな。

「うむ、よくやってくれた、そしてよくぞ言ってくれた。
 余の言葉をそこまで大切にして守ってくれている事、とてもうれしく思うぞ。
 これからも皆の手本になるように働いてくれ」

「は、有り難きお言葉をいただき、恐悦至極でございます」

「それでコーム、確か婚約していたと思ったが、結婚の日取りは決まったのか」

「私的な事を御心配していただき、まことに恐れ入ります。
 まだ正式な日取りは決まっておりませんが、早ければ年内に、遅くても来年には式を挙げたいと思っております」

「そうか、そうか、それは目出度い事だな。
 正式な日取りが決まった教えてくれ。
 コームも大切な家臣だが、父親のブノワには私の大臣を、祖父のクレマンにはリアナ女王の筆頭大臣を務めてもらっている。
 よほどのことがない限り、余もリアナ女王も結婚式には出席させてもらう心算だ。
 なあ、リアナ女王」

「はい、その通りですわ、兄上様。
 よほどの行事がない限り、参加させてもらいたいと思っているわ、コーム」

「両陛下にそのように言った頂けるとは、私もコリンヌも果報者でございます。
 祖父と父、コリンヌと義父となるタイラー殿と相談の上、早急に日時を決めさせていただき、ご報告させていただきます」

 そうだった、コームの婚約者はタイラーの娘コリンヌだったな。
 タイラーも長年ラゼル公爵家に仕えてくれている家老格だった。
 陪臣の重臣同士の家で政略結婚だから、家格に応じた良縁だ。
 無理矢理引き裂くわけにはいかないし、リアナ女王が好きになるかもわからない。
 さて、どうしたものだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

処理中です...