上 下
60 / 89
第一章

第60話:我儘・リアナ視点

しおりを挟む
 兄上様が新しい事を始められました。
 ゴードン王国とロスリン王国を護る将兵を育てる軍学校を設立されました。
 大陸中の王侯貴族や平民の間に瞬く間に真実が広まりました。
 それもそうでしょう、王侯貴族には自分達の特権を否定される大問題です。
 そして平民には、今までにない絶好の機会なのですから。

 普通の軍は貴族がいて士族がいて最後に平民がいるのです。
 いえ、その平民の枠にすら、士族家を継げない子弟が殺到します。
 しかもその採用基準は個人の能力ではなく身分が優先です。
 まずあり得ない事ですが公爵家の子弟が応募してきた場合には、どれほど公爵家子弟が無能でも優先的に採用されます。
 それ以下の貴族が採用されるのは公爵家子弟の後になります。

 そんな事が延々と続けられたら、どれほど優秀な平民がいたとしても、平民が採用されることはありません。
 ただ実際には、読み書きや武芸を学ぶ機会があるのは王侯貴族と士族、それに豊かな平民に限られます。
 身分差別の激しい大陸各国の王国軍では、酷い扱いを受けると分かっているので、下級士族や平民が志願する事はまずありません。

 ですが今回兄上様が設立された軍学校は、身分制を完全に否定されておられます。
 例え王族であっても、軍学校内では平民と同等に扱うと断言されています。
 もし能力が劣るのに平民に差別的言動をすれば、問答無用でズメイ人が処罰すると宣言されているのです。
 兄上様が嘘や冗談を言うはずがないのは、大陸中の人間が知っています。
 兄上様に絶対服従のズメイ人は、相手が王子でも問答無用で殺します。

 大陸中の王侯貴族が、兄上様の身分制度破壊を恐れています。
 大陸中の平民が、兄上様の身分制度破壊に期待しています。
 ですが、兄上様の本当の目的が身分制度の破壊でない事は、妹である私が誰よりもよく知っています。

 兄上様の目的は、私の王配に相応しい漢を育てる事です。
 これはうかうかしていられません。
 兄上様が本気で平民を直接指導されたら、凡才も秀才になってしまいます。
 私のような愚かな妹を、聖女と呼ばれるまでに育て上げたのは兄上様です。
 いえ、聖女どころか女王に戴冠させてしまわれるほどなのです。
 ここは兄上様が平民を直接指導できないようにしなければいけません。

「兄上様、お願いしたい事があるのです」

「何だいリアナ、リアナのお願いなら何だって聞いてあげたいが、もう互いに戴冠した身だから、やれない事もあるかもしれないよ」

「その戴冠した身だからこそ、女王に相応しい立ち振る舞いが分からないのです。
 女王に相応しい立ち振る舞いを学びたいので、教えてくださいませ」

「いや、いや、いや、そんな事は俺にだって分からないよ。
 それに王権者に必要なのは表向きの立ち振る舞いじゃない。
 表向きどのような態度をとろうと関係ないよ。
 必要なのは民が平穏に暮らせる国にできるかどうかの政治力だよ」

「ですからそれを学びたいのです。
 兄上様の側にいて、どうすることが王権者に相応しいのか学びたいのです」

 こう言えば、兄上様は絶対に断ることなく私を側に置いてくださいます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが 抱き合う姿を目撃して倒れた後から。 私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。 のんびり更新。

処理中です...