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第一章

第50話:秘密調査・クレマン視点

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 私はクレマンという名のラゼル公爵家に仕える陪臣だった。
 公爵家で王都家老を任されるくらいだったから、公爵家の家臣の中では名門の出で能力もあると自負していた。
 だが先代ラゼル公爵は愚かにも嫡男のキャメロン様を怒らされてしまわれた。
 公爵家が名門に相応しい復活ができたのは、全てキャメロン様のお陰なのに。
 親兄弟といえども、家督を巡って血で血を洗う殺し合いをするのが普通の王侯貴族で、負けても幽閉ですませてもらえたのはキャメロン様の優しさだ。

 そんなキャメロン様が無条件で溺愛されているのがリアナ様だ。
 その溺愛ぶりは、一国を切り取ってリアナ様を女王に戴冠させるほどだ。
 そんなリアナ女王陛下の呼び出しなら、妻子が死にかけていても直ぐに駆けつけなければいけない。
 リアナ女王陛下に真摯に仕えたのと運がよかったお陰で、陪臣だった私が一国の筆頭重臣になれたのだから。

「クレマン、よく来てくれました、貴男にどうしても聞きたい事があるの」

「何でございましょうか、女王陛下」

「私の本当の父親は誰なのか、それを教えて欲しいの」

 頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けました。
 リアナ女王陛下はいったい何を言っておられるのでしょうか。
 血統がとても重視される大陸の王侯貴族は、見届け人制度を取り入れてでも、家と家の繋がりを大切にしています。
 いえ、もっと露骨な言い方をすれば、高貴な貴族の血と下賤な平民の血が交わらないようにしています。
 そんな状態で、ミネバ様がモーガン様以外の子を生めるわけがないのです。

 いえ、今の言い方は少し間違っています。
 ミネバ様がモーガン様以外の男性の子を生む事はできます。
 不義の避妊に失敗した夫人や令嬢が、密かに腹の子を水に流す事があります。
 病気と称して領地に籠り、密かに生んだ子を修道院に預ける事もあります。
 ですが、見届け人が確認していない子をモーガン様の子供として生むことは不可能なのです、いえ、限りなく不可能に近いのです。

「それは、いったいどういう事でございますか。
 リアナ女王陛下がモーガン様とミネバ様の御子であることは、見届け人の記録でも確かな事でございます。
 リアナ女王陛下が不義の子供である事など絶対にありません」

「わらわもそう思っていたのですが、少々嫌な噂を耳にしたのです。
 ミネバ母上が愛人の子をラゼル公爵家の子供とするために、モーガン父上を騙して同時期に愛人と情を通じていたという噂を。
 この噂を放置していては、私の名誉にかかわります。
 早急に徹底的な調査をお願いしたいのよ、クレマン。
 ただ覚えておいて欲しいのだけれど、私はこの国の結婚制度で、父親や母親が違う兄弟姉妹の結婚を認める心算なのよ。
 結婚が禁止される関係は、父親と母親が同じ兄弟姉妹だけにする心算なの。
 その意味は、賢明なクレマンなら理解できるわね」

 私は、リアナ女王陛下に何を求められているのだ。
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