悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全

文字の大きさ
上 下
50 / 89
第一章

第50話:秘密調査・クレマン視点

しおりを挟む
 私はクレマンという名のラゼル公爵家に仕える陪臣だった。
 公爵家で王都家老を任されるくらいだったから、公爵家の家臣の中では名門の出で能力もあると自負していた。
 だが先代ラゼル公爵は愚かにも嫡男のキャメロン様を怒らされてしまわれた。
 公爵家が名門に相応しい復活ができたのは、全てキャメロン様のお陰なのに。
 親兄弟といえども、家督を巡って血で血を洗う殺し合いをするのが普通の王侯貴族で、負けても幽閉ですませてもらえたのはキャメロン様の優しさだ。

 そんなキャメロン様が無条件で溺愛されているのがリアナ様だ。
 その溺愛ぶりは、一国を切り取ってリアナ様を女王に戴冠させるほどだ。
 そんなリアナ女王陛下の呼び出しなら、妻子が死にかけていても直ぐに駆けつけなければいけない。
 リアナ女王陛下に真摯に仕えたのと運がよかったお陰で、陪臣だった私が一国の筆頭重臣になれたのだから。

「クレマン、よく来てくれました、貴男にどうしても聞きたい事があるの」

「何でございましょうか、女王陛下」

「私の本当の父親は誰なのか、それを教えて欲しいの」

 頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けました。
 リアナ女王陛下はいったい何を言っておられるのでしょうか。
 血統がとても重視される大陸の王侯貴族は、見届け人制度を取り入れてでも、家と家の繋がりを大切にしています。
 いえ、もっと露骨な言い方をすれば、高貴な貴族の血と下賤な平民の血が交わらないようにしています。
 そんな状態で、ミネバ様がモーガン様以外の子を生めるわけがないのです。

 いえ、今の言い方は少し間違っています。
 ミネバ様がモーガン様以外の男性の子を生む事はできます。
 不義の避妊に失敗した夫人や令嬢が、密かに腹の子を水に流す事があります。
 病気と称して領地に籠り、密かに生んだ子を修道院に預ける事もあります。
 ですが、見届け人が確認していない子をモーガン様の子供として生むことは不可能なのです、いえ、限りなく不可能に近いのです。

「それは、いったいどういう事でございますか。
 リアナ女王陛下がモーガン様とミネバ様の御子であることは、見届け人の記録でも確かな事でございます。
 リアナ女王陛下が不義の子供である事など絶対にありません」

「わらわもそう思っていたのですが、少々嫌な噂を耳にしたのです。
 ミネバ母上が愛人の子をラゼル公爵家の子供とするために、モーガン父上を騙して同時期に愛人と情を通じていたという噂を。
 この噂を放置していては、私の名誉にかかわります。
 早急に徹底的な調査をお願いしたいのよ、クレマン。
 ただ覚えておいて欲しいのだけれど、私はこの国の結婚制度で、父親や母親が違う兄弟姉妹の結婚を認める心算なのよ。
 結婚が禁止される関係は、父親と母親が同じ兄弟姉妹だけにする心算なの。
 その意味は、賢明なクレマンなら理解できるわね」

 私は、リアナ女王陛下に何を求められているのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...