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第一章

第30話:名声

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 愛するリアナの名声が大陸中に広まった。
 もうルナネの話題など誰も取り上げていない。
 重病を治す力程度では、極一部のモノが利益を得るだけだ。
 だがリアナの力なら、百万の大軍を養えるようになる。
 野望を抱いている者なら、喉から手が出るほど欲しい存在だろう。
 だからこそ、大陸中の王侯貴族が縁を結ぼうと躍起になっている。
 リアナを褒め称えて歓心を引こうと必死なのだ。

「ゴードン侯爵閣下、またロスリン侯爵閣下への縁談申し込みの手紙でございます」

 王都家老だったクレマンが数十通の手紙を持ってくる。
 王都を引き払った事で、クレマンという有能な人間を活用できるようになった。
 他にも王都に詰めていた有能な家臣達を、領地の要所に配置できた。
 彼らが領地開拓を進めてくれているので、俺は安心して食糧生産に集中できる。
 今俺が気になっている問題は、リアナへの縁談だけだ。
 リアナが望まない縁談を進める気はないが、そもそも結婚願望すらなさそうだ。

「名前だけは覚えておかなければいけないから、全部おいていってくれ。
 ただ返事は全部断るだけだから、クレマンが適当な内容で書いてくれ」

「ゴードン侯爵閣下が直筆で書かれないのですか」

 本来王侯貴族の私信は直筆で書くべきものだ。
 そうしなければ失礼に当たり、弱い立場だと難癖をつけられてしまう。
 相手が手段を選ばない野心家だったら、戦争の言掛りに使われる可能性すらある。
 だから最初は全部俺自身が返事を書いていたのだが、毎日何十何百もの返事を書いてなどいられない。

「毎日何百通もリアナに結婚の申し込みがあって、とてもではないが直筆で返事をかけないので、申し訳ないが祐筆に代書させたと書いておいてくれ」

「承りました」

 クレマンがそれ以上は何も言わずに部屋から出て行った。
 俺の返事など推測していたのだろう。
 彼らに俺がどう見えているのか、少々気になる
 家臣におもねる気は毛頭ないが、心を踏み躙る気もない。
 家臣領民が幸せに暮らせるようにするのが俺の責務だ。
 上手くやれているとは思うのだが、一度変装して酒場の噂話を直接聞いてみよう。

 それに、俺が大陸中の王侯貴族からどう思われているかも気になる。
 リアナの名声が高まれば高まるほど、俺の存在感も強くなっている。
 最初は父に縁談話を持って行っていたようだが、塔に幽閉されている父や母には一切の情報が伝わっていないし、返事を書く事もできない。
 城代家老のセザールが病気療養中だと返事してくれていた。

 もしかしたら、俺が下克上をして父母を幽閉していると思っているかもしれない。
 愚かな父母を助け出す事で恩を着せて、リアナを手に入れようとする者が現れるかもしれないな、少しラゼル城に手を加えておこう。
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