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第一章

第26話:王家の悪足搔き

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 マライーニ王家が、治癒魔術の使い手であるクルー男爵家のルナネを聖女として認定し、カミーユ王太子との婚約を大々的に発表した。
 俺を怒らせてラゼル公爵家を離反させてしまった政治的失敗を、聖女を王家に取り込んだことで取り戻そうとしたのだ。
 可哀想だが、そんなんことをしても全く役に立っていない。
 今の王都には貧民が存在せず、ルナネ聖女が名声を得る機会がないのだ。

 王侯貴族や大金持ちの大病を治して、少数の特権階級から名声は得たようだ。
 だが大多数の民の印象では、貧民に炊き出しを行い土地や職を与えて救った俺やリアナの方が、聖者や聖女としての印象が強いのだ。
 しかも今は悪徳大商人の買い占めで王都の物価が高騰している。
 以前は楽に生活する事が可能だった民が、食糧を買えずに飢え始めている。
 それに対してマライーニ王家は無策だった。
 それどころか悪徳大商人から賄賂をもらって見逃していた。

「またキャメロン様とリアナ様が炊き出しを行ってくださらないかねぇ」

「そりゃぁいくらなんでも無理だよ。
 リアナ様に婚約を辞退するように圧力をかけたり、王妃の実家の性悪女を無理矢理キャメロン様の正室に押し付けようとしたりした、マライーニ王家のために貴重な食糧を放出してくださるはずがないじゃないか」

「本当に王家の連中ときたら税をむしり取りだけで何にもしてくれないね。
 キャメロン様とリアナ様の領民が羨ましいよ」

「本当だよ、それなりの商家だったうちや、稼ぎのいい職人を旦那に持つアンタが、物乞いのように炊き出しに期待しなきゃいけないなんてね」

「いっそキャメロン様が王様になってくださればいいのにね」

「しぃいいい、口は禍の元とだよ、迂闊な事を喋ったいたら首が飛んじまうよ」

 俺の仕込んだ密偵達が、王都中にマライーニ王家の悪評を広めてくれる。
 同時にリアナの評判を高めるように誘導してくれる。
 俺の評判まで上げる心算はなかったのだが、どうしても俺の名前も出てしまう。
 無理に抑える事もできないの、仕方なく自然に任せている。
 この状況をマライーニ王家が真剣に受け止めて、足元にいる王都の民に救いの手を差し伸べれば、王家の評判も回復するだろう。

「兄上様、宝石オークションの売り上げを食糧購入に使わないのですか」

 リアナは目先の食糧高騰に惑わされているが、実際に不作や凶作になっているわけではなく、悪徳商人の買い占めと売り惜しみが原因なのだ。
 辺境とはいえ俺が領地で食糧を大量に買ってしまったら、食糧の高騰に拍車がかかってしまう。
 他国から金に飽かせ買い集めたら、その国で食糧が高騰してしまい、俺の行動が原因で餓死者を大量に出てしまう可能性すらある。
 その事はしっかりとリアナに教えなければいけない。
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