32 / 37
第一章
第26話:土瓶蒸し
しおりを挟む
帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年9月30日・ロディー視点
ロディー15歳
「黙って聞いていれば付け上がりおって!
人間の分際でエンシェントドラゴンの俺様に逆らうとだと!?
ガタガタ言わずに命じた通りにしろ。
さもないと村ごと焼き滅ぼすぞ!
ギャアアアアア!」
先に喧嘩を売ってきたのは緑竜の方だ。
俺は売られた喧嘩をしかたなく買っただけだ。
自分の命を奪われると言われたら、自衛行為をとるのは当然の事だ。
まして地主農民が小作人のために戦うのは、責任ある立場の人間の義務だ。
だから俺は机ごと緑竜の下半身を耕してやった。
「これは正当防衛ですよ、皆さん。
貴方方が先に私を殺すと言ったのです。
それも、この地に住む全ての人まで巻き込んで。
ジェイミー、緑竜と聳孤は俺が耕して土に返します。
ドワーフたちにはドライアドとワーウッドの皆殺しを任せます」
「承りました、騎士殿。
エンシェントドワーフの誇りにかけて、ドライアドとワーウッドはゴブリンと同じように皆殺しにさせて頂きます」
「待ってくれ、お願いだ、待ってくれ」
「俺たちは関係ない、緑竜が勝手にやった事だ」
「話を、話しを聞いて……ギャアアアアア」
俺は問答無用で聳孤の下半身も耕してやった。
「お前たちは緑竜が俺を脅迫するのを黙って見ていた。
止める事なく脅迫させ続けていた。
それは、緑竜に脅迫させて、俺に言う事を聞かせようとしていたのだろう。
それを共犯と言わずになんと言うのだ。
恥知らずが!
自分のやった事は、自分で責任をとるものだ。
まあ、巻き込まれる女子供はかわいそうだと思うが、ここで手心を加えたら、俺たちを舐めて同じことをする奴が現れるのは確実だからな」
「おのれ、死、ギャアアアアア」
さすがドラゴンだ、恐ろしくしぶとい。
下半身を耕されても、一瞬反応できなかっただけで、平気で攻撃しようとする。
こうなると分かっていたからこそ情け容赦なく攻撃できたのだ。
首から下、ほぼ全身を耕すのも躊躇わずにできる。
爬虫類の生命力の強さは半端じゃない。
まして異世界魔獣の頂点ともいえるエンシェントドラゴンだ。
頭しか残っていなくても死なないだろうことは容易に想像できた。
四霊の一角である聳孤もエンシェントドラゴンに準ずる大魔獣だ。
頭さえ残しておけば死なないだろう。
「聳孤、謝るか死ぬか選ばせてやる」
「申し訳ありませんでした。
さもしい事を考えて、緑竜のやる事を黙認してしまいました。
全て私が卑怯で下劣だからです。
もう2度とご領主様と領民の方々に迷惑をかけたりしません。
大森林から退去させていただきます。
それで許して頂けませんでしょうか?」
「心から謝ってくれているようなので、聳孤殿が大森林から退去してくれるというのなら、一族一門を滅ぼすのは許しましょう。
それで、緑竜殿。
エンシェントドラゴンの習性は知らないが、自分や家族の命を賭けてまで世界樹の頼みを聞かなければいけない、そんなしがらみがあるのか?」
「……そこまでの義理はない。
それに、俺を負かすほどの強者に無礼なマネはできない。
エンシェントドラゴンは誇り高いのだ。
完璧に負けたのに、惨めになるような悪足搔きはしない」
「ご領主様、我らも許して頂けませんか?」
「我らドライアド族もご領主様の言う通りにします」
「ジェイミー、この2人を叩きだせ。
1日だけ大森林から逃げる猶予を与える。
明日、まだこの時間に大森林にいるドライアドとワーウッドを滅ぼせ」
「はっ!」
「「ご領主様!」」
ドライアドとワーウッドの代表は、まだ何か色々と言っていたようだが、頭にも心にも届かない。
「緑竜殿、俺や俺の領民を害さないと誓うなら、少しでも早く回復するように魔力を分けさせてもらうが、どうする?」
「もう順位付けは終わっているのだ。
ボスが下位の者に優しくしろというのなら、その通りにするだけだ」
「そうか、では群れを護るために働いてくれ」
俺はそう言いながら残された緑竜の頭をなでた。
早く治るようにと願いながら、緑竜の頭に魔力を注いだ。
緑竜自身も頭部に残った魔力器官の魔力で身体の再生をしていたが、首から下に分散していた他の魔力器官を失った影響で、再生に時間がかかっていた。
「これは、何という魔力だ!」
普通種の人間から見れば無限ともいえる魔力量を誇るエンシェントドラゴンでも、亜空間化した魔力器官に蓄えている俺の魔力には及ばない。
しかも前世で読んだラノベの知識をこの世界に合わせて応用して、魔力を圧縮強化しているから、エンシェントドラゴンよりも濃密な魔力になっているのだ。
俺の魔力を分け与えた緑竜の身体が一気に再生されていく。
最初は蛇のように手足のない胴体が徐々に長く太くなっているだけだ。
本気で魔力を与えれば、直ぐに完全再生されるだろうが……
「俺には領民を護らなければいけない責任がある。
これ以降は自分の力で治してくれ」
「……分かった、当然の警戒だ」
「聳孤、お前はどうする?
大森林を出て新たな縄張りを確保するためには元の身体が必要だろう」
俺は失われた下半身の傷口を自力で塞ぎ終わった聳孤に聞いてみた。
「ご領主様が許してくださるのでしたら、下半身が再生するまで捕虜としてここに住ませていただきたい」
「それは他の土地で生き残るためか?
それとも世界樹に対するしがらみなのか?」
「このままでは他の地の強者に喰われる恐れがあるのは確かです。
同時に、世界樹に対するしがらみでもあります。
世界樹はあれでも全ての樹木を統べる神です。
身勝手な神が味方する可能性があります」
「ここで人質にされている間は、家族が身勝手な神に襲われないと言いたいのか?」
「はい、神の中にはとんでもなく身勝手なモノもいますから」
「そうか、だったら好きなだけ滞在してくれて構わない。
緑竜のように誓ってくれるのなら、大森林に残ってくれて構わない」
「ありがとうございます」
このようなやり取りがあって、緑竜と聳孤は1の城に住む事になった。
野生動物で言えば、群れの中に入った強い新入りだ。
普通なら序列争いが勃発するのだろうが、今回は行われなかった。
普通の精霊や妖精、魔族や亜人相手なら圧倒的な強さを誇るエンシェントドワーフでも、エンシェントドラゴンや四霊には敵わない。
「我の事はジュダックと呼んでくれ」
数日して、ある程度俺たちとの生活に慣れた緑竜が個人名を名乗ってくれた。
確かに何時までも種族名の緑竜と呼ぶのは失礼だ。
「そうか、だったら俺の事もロディーと呼んでくれ」
「それは絶対にできない。
ボスの名前を呼び捨てにするなど絶対に許されない。
今まで通り騎士殿か領主殿と呼ばせてもらう」
「群れの序列が大切なのは分かる。
ジュダックの好きに呼んでくれていい」
「では私も名乗らせてもらった方がいいでしょう。
私の名前はハワードと言います。
どうかボスとしてハワードと呼び捨てにしてください」
「そうか、では遠慮なくハワードと呼ばせてもらおう。
俺の事はすきに呼んでくれていい」
「では私も騎士殿か領主殿と呼ばせていただきましょう」
新たな序列を全領民が理解するのは直ぐだった。
首から下を失っていようと、緑竜ジュダックの強さはエンシェントドワーフ以上でだし、下半身を失っていても聳孤ハワードの方がエンシェントドワーフよりも強い。
2人が1の城を護ってくれているから、エンシェントドワーフは全力でドライアドとワーウッドを滅ぼす事ができる。
「ドライアドとワーウッドは戦うことなく逃げました。
大森林の南の端まで追いかけたのですが、最後は人族の領域に逃げ込みました」
ドワーフたちの指揮は、何時も通りジェイミーが行った。
俺の命令を守って24時間後に大森林に攻め込んだ。
ゴブリン族の件があったので、和平を取り持とうとする部族はいなかった。
里に籠って戦おうとするドライアドもワーウッドもいなかった。
全てを捨てて一目散に逃げだしていた。
「そうか、無用な殺戮がしたいわけではないからな。
逃げ出してくれるのならそれが1番だ」
俺は料理を作りながら報告してくれるジェイミーに答えた。
新たに建てた俺の居館には広いLDKがある。
そこに多くの人が集まっている。
緑竜ジュダックと聳孤ハワードに38人のエンシェントドワーフ。
更に俺の料理を覚えようとする寡婦53人の93人だ。
それだけの人数が余裕で居られるほど広いLDKなのだ。
「これが茶碗蒸しなのですね?」
俺に1番慣れている寡婦が他の寡婦達の為に質問してくれる。
「そうだが、家で作る時は、茶碗をもっと小さい物にする方がいい。
これほど大きな茶碗にしたのは、中にうどんを入れたからだ。
茶碗蒸しでもうどんを入れた物は、小田巻とか省略してマキとか呼ぶ」
「そうなのですね。
プリンと同じ作り方のように思われますが、違うのですよね?」
「作り方は同じ蒸し料理だが、入れる具で違う。
特に砂糖を入れた物はデザートになる。
俺は甘いデザートのプリンよりも食事で食べる茶碗蒸しの方が好きだ」
「覚えておきます、ご領主様」
俺がこうして自ら料理をしているのは、戦勝祝いだからだ。
緑竜ジュダックと聳孤ハワードが加わった事で、城の体制が完全に変わった。
ドワーフたちにも人間の領民を護れと命じている。
4種族の融和の為にも、ドワーフたちだけの戦勝祝いはやらせられない。
見張り役以外の全住民参加の戦勝祝いにしなければいけない。
幹部級は俺自ら作った料理を振舞うのだが、特に俺が好きな卵料理にしたのだ。
今までは鶏卵の数が限られていたから、領民一緒に卵料理を食べる事ができなかったが、今回の遠征でドワーフ族が巨大な卵を産む家畜を確保してくれた。
ドライアドとワーウッドが飼っていた家畜は、ダチョウよりも巨大なのに、鶏と同じように卵を産んでくれる走鳥だった。
家畜の大きさは全長4メートル体重600kg。
鶏卵計算で270個分、重さ15kgの巨大卵をほぼ毎日産んでくれる。
鶏卵よりも淡白だが、領民全員で卵料理を食べるのなら巨大卵が必要だ。
巨大卵で卵液を作って茶碗に注ぎ俺が育てたトリュフを大量に入れて蒸しあげた。
だが俺はトリュフを美味しいと思えないので、別の物にした。
「ウォオオオオ、何だこれは、こんな美味しい料理食べた事ないぞ!」
「ああ、この村の人質になって本当によかった」
「こんな濃厚な香りのトリュフは食べた事がない」
緑竜ジュダックと聳孤ハワードとジェイミーが絶賛してくれている。
「香りだけで言うのなら、茶碗蒸しよりも土瓶蒸しの方がいいぞ」
お吸い物の代わりに小さな土瓶に多くの具材を入れて蒸した。
この世界でも超高級品であるトリュフを大量に入れて。
過熱して香りを引き出した土瓶蒸しは、卵液に香りが封じられる茶碗蒸しよりも濃厚な香りを楽しむ事ができる。
だが俺はトリュフよりもマツタケの香りの方が好きだ。
鶏肉と椎茸の出汁、ミツバとギンナンのアクセント。
出汁の美味しさとマツタケの香りを楽しみながら土瓶蒸しを試食する。
俺が前世で食べていた土瓶蒸しには、更に大正海老と鱧と蒲鉾が入っていた。
もっと濃厚な出汁だったのだが、そこまで言うのは贅沢だな。
「君たちにも作ってもらうようになるから、試食して味を覚えてくれ」
「「「「「はい、試食させていただきます」」」」」
この1カ月の努力の結果、遠慮せずに試食してくれるようになった。
「ジュダック殿、トリュフにはワインだと思っていましたが、この10年エイジングの清酒もイモ焼酎も捨てがたいですな」
「そうだな、確かにワイン以上にトリュフに合う気がする」
「いや、いや、この苦みを利かせたロディー殿のビールも負けていませんぞ。
ジュダック殿、ジェイミー殿」
少なくともジュダック、ハワード、ジェイミーの間は上手くいっているようだ。
美味い酒と料理を提供できる限り、2人とドワーフたちの仲は取り持てるだろう。
それに、他の部屋で戦勝祝いをしているドワーフと人族の声を聞いている限りでは、ドワーフたちと人族が敵対している様子はない。
このまま領民が仲良くやってくれればいいのだが……
『ロディー騎士領』
領主:ロディー
家臣:エンシェントドワーフ・38人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)
:ハイドワーフ ・74人
:エルダードワーフ ・115人
:ドワーフ ・513人
家臣:人間 ・1人(アルフィン)
小作:人間男 ・24人
:人間女 ・24人
:人間子供 ・35人
:人間寡婦 ・53人
:人間孤児 ・59人
馬 :軍馬 ・1頭
:輓馬 ・10頭
:牛 ・38頭
:山羊 ・35頭
:羊 ・14頭
:豚 ・25頭
:鶏 ・200羽
『ロディー』
種族:ホモサピエンス
神与スキル:農民 ・レベル8187
:自作農民・レベル7833
:開拓農民・レベル66397
:地主農民・レベル8779
:武装農民・レベル8187
付属スキル:耕種農業レベル8187
耕作 レベル2918
種蒔き レベル2319
品種改良レベル2319
農薬生産レベル3416
農薬散布レベル3416
選定 レベル4912
収穫 レベル 896
剣鉈術 レベル8187
戦斧術 レベル8187
:工芸農業レベル212
木工 レベル212
紡績 レベル212
織物 レベル322
:自作 レベル7833
燻製 レベル68
酒造 レベル7833
発酵 レベル7833
陶芸 レベル225
料理 レベル2429
:開拓 レベル66397
伐採 レベル5327
建築 レベル1293
石工 レベル 21
魔力生産レベル66397
魔力増幅レベル66397
:地主農民レベル8779
領民指導レベル8779
:武装農民レベル8187
剣術 レベル8187
槍術 レベル96
戦斧術 レベル8187
弓術 レベル195
石弓術 レベル9
拳術 レベル9
脚術 レベル9
柔術 レベル9
戦術 レベル9
馬術 レベル706
調教術 レベル706
一般スキル:生産術レベル2429
木工 レベル1293
絵画 レベル9
習字 レベル9
算術 レベル9
料理 レベル2429
刺繍 レベル9
裁縫 レベル32
大工 レベル1293
石工 レベル21
「基本能力」
HP:24332758
魔力:22619456
命力:16834007
筋力:1377714
体力:1240555
知性:1169752
精神:1169733
速力:1068569
器用:829990
運 :829990
魅力:993830
ロディー15歳
「黙って聞いていれば付け上がりおって!
人間の分際でエンシェントドラゴンの俺様に逆らうとだと!?
ガタガタ言わずに命じた通りにしろ。
さもないと村ごと焼き滅ぼすぞ!
ギャアアアアア!」
先に喧嘩を売ってきたのは緑竜の方だ。
俺は売られた喧嘩をしかたなく買っただけだ。
自分の命を奪われると言われたら、自衛行為をとるのは当然の事だ。
まして地主農民が小作人のために戦うのは、責任ある立場の人間の義務だ。
だから俺は机ごと緑竜の下半身を耕してやった。
「これは正当防衛ですよ、皆さん。
貴方方が先に私を殺すと言ったのです。
それも、この地に住む全ての人まで巻き込んで。
ジェイミー、緑竜と聳孤は俺が耕して土に返します。
ドワーフたちにはドライアドとワーウッドの皆殺しを任せます」
「承りました、騎士殿。
エンシェントドワーフの誇りにかけて、ドライアドとワーウッドはゴブリンと同じように皆殺しにさせて頂きます」
「待ってくれ、お願いだ、待ってくれ」
「俺たちは関係ない、緑竜が勝手にやった事だ」
「話を、話しを聞いて……ギャアアアアア」
俺は問答無用で聳孤の下半身も耕してやった。
「お前たちは緑竜が俺を脅迫するのを黙って見ていた。
止める事なく脅迫させ続けていた。
それは、緑竜に脅迫させて、俺に言う事を聞かせようとしていたのだろう。
それを共犯と言わずになんと言うのだ。
恥知らずが!
自分のやった事は、自分で責任をとるものだ。
まあ、巻き込まれる女子供はかわいそうだと思うが、ここで手心を加えたら、俺たちを舐めて同じことをする奴が現れるのは確実だからな」
「おのれ、死、ギャアアアアア」
さすがドラゴンだ、恐ろしくしぶとい。
下半身を耕されても、一瞬反応できなかっただけで、平気で攻撃しようとする。
こうなると分かっていたからこそ情け容赦なく攻撃できたのだ。
首から下、ほぼ全身を耕すのも躊躇わずにできる。
爬虫類の生命力の強さは半端じゃない。
まして異世界魔獣の頂点ともいえるエンシェントドラゴンだ。
頭しか残っていなくても死なないだろうことは容易に想像できた。
四霊の一角である聳孤もエンシェントドラゴンに準ずる大魔獣だ。
頭さえ残しておけば死なないだろう。
「聳孤、謝るか死ぬか選ばせてやる」
「申し訳ありませんでした。
さもしい事を考えて、緑竜のやる事を黙認してしまいました。
全て私が卑怯で下劣だからです。
もう2度とご領主様と領民の方々に迷惑をかけたりしません。
大森林から退去させていただきます。
それで許して頂けませんでしょうか?」
「心から謝ってくれているようなので、聳孤殿が大森林から退去してくれるというのなら、一族一門を滅ぼすのは許しましょう。
それで、緑竜殿。
エンシェントドラゴンの習性は知らないが、自分や家族の命を賭けてまで世界樹の頼みを聞かなければいけない、そんなしがらみがあるのか?」
「……そこまでの義理はない。
それに、俺を負かすほどの強者に無礼なマネはできない。
エンシェントドラゴンは誇り高いのだ。
完璧に負けたのに、惨めになるような悪足搔きはしない」
「ご領主様、我らも許して頂けませんか?」
「我らドライアド族もご領主様の言う通りにします」
「ジェイミー、この2人を叩きだせ。
1日だけ大森林から逃げる猶予を与える。
明日、まだこの時間に大森林にいるドライアドとワーウッドを滅ぼせ」
「はっ!」
「「ご領主様!」」
ドライアドとワーウッドの代表は、まだ何か色々と言っていたようだが、頭にも心にも届かない。
「緑竜殿、俺や俺の領民を害さないと誓うなら、少しでも早く回復するように魔力を分けさせてもらうが、どうする?」
「もう順位付けは終わっているのだ。
ボスが下位の者に優しくしろというのなら、その通りにするだけだ」
「そうか、では群れを護るために働いてくれ」
俺はそう言いながら残された緑竜の頭をなでた。
早く治るようにと願いながら、緑竜の頭に魔力を注いだ。
緑竜自身も頭部に残った魔力器官の魔力で身体の再生をしていたが、首から下に分散していた他の魔力器官を失った影響で、再生に時間がかかっていた。
「これは、何という魔力だ!」
普通種の人間から見れば無限ともいえる魔力量を誇るエンシェントドラゴンでも、亜空間化した魔力器官に蓄えている俺の魔力には及ばない。
しかも前世で読んだラノベの知識をこの世界に合わせて応用して、魔力を圧縮強化しているから、エンシェントドラゴンよりも濃密な魔力になっているのだ。
俺の魔力を分け与えた緑竜の身体が一気に再生されていく。
最初は蛇のように手足のない胴体が徐々に長く太くなっているだけだ。
本気で魔力を与えれば、直ぐに完全再生されるだろうが……
「俺には領民を護らなければいけない責任がある。
これ以降は自分の力で治してくれ」
「……分かった、当然の警戒だ」
「聳孤、お前はどうする?
大森林を出て新たな縄張りを確保するためには元の身体が必要だろう」
俺は失われた下半身の傷口を自力で塞ぎ終わった聳孤に聞いてみた。
「ご領主様が許してくださるのでしたら、下半身が再生するまで捕虜としてここに住ませていただきたい」
「それは他の土地で生き残るためか?
それとも世界樹に対するしがらみなのか?」
「このままでは他の地の強者に喰われる恐れがあるのは確かです。
同時に、世界樹に対するしがらみでもあります。
世界樹はあれでも全ての樹木を統べる神です。
身勝手な神が味方する可能性があります」
「ここで人質にされている間は、家族が身勝手な神に襲われないと言いたいのか?」
「はい、神の中にはとんでもなく身勝手なモノもいますから」
「そうか、だったら好きなだけ滞在してくれて構わない。
緑竜のように誓ってくれるのなら、大森林に残ってくれて構わない」
「ありがとうございます」
このようなやり取りがあって、緑竜と聳孤は1の城に住む事になった。
野生動物で言えば、群れの中に入った強い新入りだ。
普通なら序列争いが勃発するのだろうが、今回は行われなかった。
普通の精霊や妖精、魔族や亜人相手なら圧倒的な強さを誇るエンシェントドワーフでも、エンシェントドラゴンや四霊には敵わない。
「我の事はジュダックと呼んでくれ」
数日して、ある程度俺たちとの生活に慣れた緑竜が個人名を名乗ってくれた。
確かに何時までも種族名の緑竜と呼ぶのは失礼だ。
「そうか、だったら俺の事もロディーと呼んでくれ」
「それは絶対にできない。
ボスの名前を呼び捨てにするなど絶対に許されない。
今まで通り騎士殿か領主殿と呼ばせてもらう」
「群れの序列が大切なのは分かる。
ジュダックの好きに呼んでくれていい」
「では私も名乗らせてもらった方がいいでしょう。
私の名前はハワードと言います。
どうかボスとしてハワードと呼び捨てにしてください」
「そうか、では遠慮なくハワードと呼ばせてもらおう。
俺の事はすきに呼んでくれていい」
「では私も騎士殿か領主殿と呼ばせていただきましょう」
新たな序列を全領民が理解するのは直ぐだった。
首から下を失っていようと、緑竜ジュダックの強さはエンシェントドワーフ以上でだし、下半身を失っていても聳孤ハワードの方がエンシェントドワーフよりも強い。
2人が1の城を護ってくれているから、エンシェントドワーフは全力でドライアドとワーウッドを滅ぼす事ができる。
「ドライアドとワーウッドは戦うことなく逃げました。
大森林の南の端まで追いかけたのですが、最後は人族の領域に逃げ込みました」
ドワーフたちの指揮は、何時も通りジェイミーが行った。
俺の命令を守って24時間後に大森林に攻め込んだ。
ゴブリン族の件があったので、和平を取り持とうとする部族はいなかった。
里に籠って戦おうとするドライアドもワーウッドもいなかった。
全てを捨てて一目散に逃げだしていた。
「そうか、無用な殺戮がしたいわけではないからな。
逃げ出してくれるのならそれが1番だ」
俺は料理を作りながら報告してくれるジェイミーに答えた。
新たに建てた俺の居館には広いLDKがある。
そこに多くの人が集まっている。
緑竜ジュダックと聳孤ハワードに38人のエンシェントドワーフ。
更に俺の料理を覚えようとする寡婦53人の93人だ。
それだけの人数が余裕で居られるほど広いLDKなのだ。
「これが茶碗蒸しなのですね?」
俺に1番慣れている寡婦が他の寡婦達の為に質問してくれる。
「そうだが、家で作る時は、茶碗をもっと小さい物にする方がいい。
これほど大きな茶碗にしたのは、中にうどんを入れたからだ。
茶碗蒸しでもうどんを入れた物は、小田巻とか省略してマキとか呼ぶ」
「そうなのですね。
プリンと同じ作り方のように思われますが、違うのですよね?」
「作り方は同じ蒸し料理だが、入れる具で違う。
特に砂糖を入れた物はデザートになる。
俺は甘いデザートのプリンよりも食事で食べる茶碗蒸しの方が好きだ」
「覚えておきます、ご領主様」
俺がこうして自ら料理をしているのは、戦勝祝いだからだ。
緑竜ジュダックと聳孤ハワードが加わった事で、城の体制が完全に変わった。
ドワーフたちにも人間の領民を護れと命じている。
4種族の融和の為にも、ドワーフたちだけの戦勝祝いはやらせられない。
見張り役以外の全住民参加の戦勝祝いにしなければいけない。
幹部級は俺自ら作った料理を振舞うのだが、特に俺が好きな卵料理にしたのだ。
今までは鶏卵の数が限られていたから、領民一緒に卵料理を食べる事ができなかったが、今回の遠征でドワーフ族が巨大な卵を産む家畜を確保してくれた。
ドライアドとワーウッドが飼っていた家畜は、ダチョウよりも巨大なのに、鶏と同じように卵を産んでくれる走鳥だった。
家畜の大きさは全長4メートル体重600kg。
鶏卵計算で270個分、重さ15kgの巨大卵をほぼ毎日産んでくれる。
鶏卵よりも淡白だが、領民全員で卵料理を食べるのなら巨大卵が必要だ。
巨大卵で卵液を作って茶碗に注ぎ俺が育てたトリュフを大量に入れて蒸しあげた。
だが俺はトリュフを美味しいと思えないので、別の物にした。
「ウォオオオオ、何だこれは、こんな美味しい料理食べた事ないぞ!」
「ああ、この村の人質になって本当によかった」
「こんな濃厚な香りのトリュフは食べた事がない」
緑竜ジュダックと聳孤ハワードとジェイミーが絶賛してくれている。
「香りだけで言うのなら、茶碗蒸しよりも土瓶蒸しの方がいいぞ」
お吸い物の代わりに小さな土瓶に多くの具材を入れて蒸した。
この世界でも超高級品であるトリュフを大量に入れて。
過熱して香りを引き出した土瓶蒸しは、卵液に香りが封じられる茶碗蒸しよりも濃厚な香りを楽しむ事ができる。
だが俺はトリュフよりもマツタケの香りの方が好きだ。
鶏肉と椎茸の出汁、ミツバとギンナンのアクセント。
出汁の美味しさとマツタケの香りを楽しみながら土瓶蒸しを試食する。
俺が前世で食べていた土瓶蒸しには、更に大正海老と鱧と蒲鉾が入っていた。
もっと濃厚な出汁だったのだが、そこまで言うのは贅沢だな。
「君たちにも作ってもらうようになるから、試食して味を覚えてくれ」
「「「「「はい、試食させていただきます」」」」」
この1カ月の努力の結果、遠慮せずに試食してくれるようになった。
「ジュダック殿、トリュフにはワインだと思っていましたが、この10年エイジングの清酒もイモ焼酎も捨てがたいですな」
「そうだな、確かにワイン以上にトリュフに合う気がする」
「いや、いや、この苦みを利かせたロディー殿のビールも負けていませんぞ。
ジュダック殿、ジェイミー殿」
少なくともジュダック、ハワード、ジェイミーの間は上手くいっているようだ。
美味い酒と料理を提供できる限り、2人とドワーフたちの仲は取り持てるだろう。
それに、他の部屋で戦勝祝いをしているドワーフと人族の声を聞いている限りでは、ドワーフたちと人族が敵対している様子はない。
このまま領民が仲良くやってくれればいいのだが……
『ロディー騎士領』
領主:ロディー
家臣:エンシェントドワーフ・38人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)
:ハイドワーフ ・74人
:エルダードワーフ ・115人
:ドワーフ ・513人
家臣:人間 ・1人(アルフィン)
小作:人間男 ・24人
:人間女 ・24人
:人間子供 ・35人
:人間寡婦 ・53人
:人間孤児 ・59人
馬 :軍馬 ・1頭
:輓馬 ・10頭
:牛 ・38頭
:山羊 ・35頭
:羊 ・14頭
:豚 ・25頭
:鶏 ・200羽
『ロディー』
種族:ホモサピエンス
神与スキル:農民 ・レベル8187
:自作農民・レベル7833
:開拓農民・レベル66397
:地主農民・レベル8779
:武装農民・レベル8187
付属スキル:耕種農業レベル8187
耕作 レベル2918
種蒔き レベル2319
品種改良レベル2319
農薬生産レベル3416
農薬散布レベル3416
選定 レベル4912
収穫 レベル 896
剣鉈術 レベル8187
戦斧術 レベル8187
:工芸農業レベル212
木工 レベル212
紡績 レベル212
織物 レベル322
:自作 レベル7833
燻製 レベル68
酒造 レベル7833
発酵 レベル7833
陶芸 レベル225
料理 レベル2429
:開拓 レベル66397
伐採 レベル5327
建築 レベル1293
石工 レベル 21
魔力生産レベル66397
魔力増幅レベル66397
:地主農民レベル8779
領民指導レベル8779
:武装農民レベル8187
剣術 レベル8187
槍術 レベル96
戦斧術 レベル8187
弓術 レベル195
石弓術 レベル9
拳術 レベル9
脚術 レベル9
柔術 レベル9
戦術 レベル9
馬術 レベル706
調教術 レベル706
一般スキル:生産術レベル2429
木工 レベル1293
絵画 レベル9
習字 レベル9
算術 レベル9
料理 レベル2429
刺繍 レベル9
裁縫 レベル32
大工 レベル1293
石工 レベル21
「基本能力」
HP:24332758
魔力:22619456
命力:16834007
筋力:1377714
体力:1240555
知性:1169752
精神:1169733
速力:1068569
器用:829990
運 :829990
魅力:993830
0
お気に入りに追加
1,333
あなたにおすすめの小説
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる