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2話
しおりを挟む「やり過ぎだと?」
魔獣はいぶかしむように首をかしげた。
でも、リオンのときのような楚々とした可愛らしさなどは全然ない。
「リオンがやろうとしていたのは、ワタシのあの技だぞ?
しかも、ワタシはちゃんと加減はした」
「あれでかっ!?」
叫ぶ俺を魔獣はフフンと見下した。
「あの魔炎を使って『何故あの規模の破壊』なのか、全然分かってないのだなァ?
熱気が城や他の地域に及ばぬよう、ワタシはちゃんと細工をしてやった。
そもそもアースラは、そうやってワタシを使っていたからなァ。
しかし、未熟なオマエの弟が術を成功させたとて、アースラのようにはいくものか。
奴の潜在能力は多分糞アースラ以上。今の時点でも、やりようによっては術を発動させられたかもしれない。
でも、ろくに修行をしていなかったのか、制御する力はあまりにも未熟。
成功していたとしても……まあ、オマエ一人ぐらいは守れたかもしれないが、他は到底無理だなァ。
術を上手く扱えず、国の半分ぐらいはアレス兵ごと吹き飛ばしていたことだろうよ。もちろん、ここにいる他の奴らも巻き込んでなッ!」
魔獣は意地悪く笑うと再び食事をかき込んだ。
俺は魔獣の言葉に呆然としていた。
リオンは『そのこと』を知っていて、あの術を放っていたのだろうか?
そんなはずはないと思いながらも『あるいは』と思ってしまう自分がいる。
いや、違う。
皆が助かるには『あの方法』しかなかった。
だからリオンは危険を承知で挑んだのだ。
そして『技』は魔獣の放ったものに比べれば、小規模にしか発動していなかった。
リオンなりにコントロールしようとしていたからだったに違いない。
国の大半を吹き飛ばすつもりなど…………あるわけがない。
しかし、他の皆は魔獣の言葉を真に受けたのか、黙り込んだ。
「ち……違う。リオンはそんなつもりではやっていない……!!
弟は大人でさえ逃げ出すような荒事も、進んで引受ていた。
国民を守るために頑張っていた!!
そして……アレス帝国が攻めて来るまでは、自分の部下を誰一人死なせず、体を張って戦っていたんだ!!」
言いながら、涙が落ちた。
そうだ。リオンは暗殺隊の皆を逃がし、自分は盾となって炎の中に残ったことすらあったではないか。
一瞬でもリオンを疑って揺らいだ自分が情けない。
そして、あんなにも頑張ったリオンを悪く言う、この魔獣が憎くてたまらない。
「お前がっ……リオンの『何』を知っているというのだっ……!!
この、クソ魔獣ッ!!!」
激昂して立ち上がった俺を、王が手で制した。
「申し訳ありません、ヴァティール殿。
この者は今、身内を失って気が動転しているのです。
アリシア、エルを別室に」
「俺は……!!」
なおも言い募ろうとした俺に、アリシアが首を振った。
とても悲しげに。
そうだった……。
この国の危機は、まだ終わったわけではない。
魔獣と契約したのは『俺』なので、まだ『魔縛』の術はいくらかかかったままのようではある。しかし契約を補助したリオンの死で、かなりの部分が解けてしまっている。
課せられた制約は『主を傷つけないこと』『主から遠く離れないこと』それのみ。
以前と違って『俺の許可無く魔の力を振るうこと』は可能。そう魔獣は言っていた。
アレス兵十数万を焼き溶かすほどの力を持つヴァティール。
奴の機嫌を損なえば、この国は瞬時に滅ぶ。
俺の身さえ傷つけなければ、魔獣は他の人間を『生かすも殺すも』自由なのだから。
魔獣はいぶかしむように首をかしげた。
でも、リオンのときのような楚々とした可愛らしさなどは全然ない。
「リオンがやろうとしていたのは、ワタシのあの技だぞ?
しかも、ワタシはちゃんと加減はした」
「あれでかっ!?」
叫ぶ俺を魔獣はフフンと見下した。
「あの魔炎を使って『何故あの規模の破壊』なのか、全然分かってないのだなァ?
熱気が城や他の地域に及ばぬよう、ワタシはちゃんと細工をしてやった。
そもそもアースラは、そうやってワタシを使っていたからなァ。
しかし、未熟なオマエの弟が術を成功させたとて、アースラのようにはいくものか。
奴の潜在能力は多分糞アースラ以上。今の時点でも、やりようによっては術を発動させられたかもしれない。
でも、ろくに修行をしていなかったのか、制御する力はあまりにも未熟。
成功していたとしても……まあ、オマエ一人ぐらいは守れたかもしれないが、他は到底無理だなァ。
術を上手く扱えず、国の半分ぐらいはアレス兵ごと吹き飛ばしていたことだろうよ。もちろん、ここにいる他の奴らも巻き込んでなッ!」
魔獣は意地悪く笑うと再び食事をかき込んだ。
俺は魔獣の言葉に呆然としていた。
リオンは『そのこと』を知っていて、あの術を放っていたのだろうか?
そんなはずはないと思いながらも『あるいは』と思ってしまう自分がいる。
いや、違う。
皆が助かるには『あの方法』しかなかった。
だからリオンは危険を承知で挑んだのだ。
そして『技』は魔獣の放ったものに比べれば、小規模にしか発動していなかった。
リオンなりにコントロールしようとしていたからだったに違いない。
国の大半を吹き飛ばすつもりなど…………あるわけがない。
しかし、他の皆は魔獣の言葉を真に受けたのか、黙り込んだ。
「ち……違う。リオンはそんなつもりではやっていない……!!
弟は大人でさえ逃げ出すような荒事も、進んで引受ていた。
国民を守るために頑張っていた!!
そして……アレス帝国が攻めて来るまでは、自分の部下を誰一人死なせず、体を張って戦っていたんだ!!」
言いながら、涙が落ちた。
そうだ。リオンは暗殺隊の皆を逃がし、自分は盾となって炎の中に残ったことすらあったではないか。
一瞬でもリオンを疑って揺らいだ自分が情けない。
そして、あんなにも頑張ったリオンを悪く言う、この魔獣が憎くてたまらない。
「お前がっ……リオンの『何』を知っているというのだっ……!!
この、クソ魔獣ッ!!!」
激昂して立ち上がった俺を、王が手で制した。
「申し訳ありません、ヴァティール殿。
この者は今、身内を失って気が動転しているのです。
アリシア、エルを別室に」
「俺は……!!」
なおも言い募ろうとした俺に、アリシアが首を振った。
とても悲しげに。
そうだった……。
この国の危機は、まだ終わったわけではない。
魔獣と契約したのは『俺』なので、まだ『魔縛』の術はいくらかかかったままのようではある。しかし契約を補助したリオンの死で、かなりの部分が解けてしまっている。
課せられた制約は『主を傷つけないこと』『主から遠く離れないこと』それのみ。
以前と違って『俺の許可無く魔の力を振るうこと』は可能。そう魔獣は言っていた。
アレス兵十数万を焼き溶かすほどの力を持つヴァティール。
奴の機嫌を損なえば、この国は瞬時に滅ぶ。
俺の身さえ傷つけなければ、魔獣は他の人間を『生かすも殺すも』自由なのだから。
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