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征夷大将軍

第234話：一八四七年・清国崩壊の序曲

　イギリスはもう清国どころか東南アジアにも手出しできない。
　ここで俺が手出ししなければ清国の崩壊は歴史よりも遅れるかもしれない。
　その崩壊が徳川家に、いや、日本に都合がいいとは限らない。
　ここまで色々非道な真似をやってきた。
　今更善人ぶる気など毛頭ない。

　ただどうしても前世の記憶や思いに引きずられてしまうのだ。
　そもそも最初に黒船対策として色々始めたのも前世の想いからだ。
　だから前世で日本が大東亜戦争の事で色々叩かれた事が忘れられない。
　あんな思いを後世の日本人にさせたくない。
　だから直接清国に攻め込む策は行わない。

　もし後世に非難される場合は日本ではなく俺個人に向けさせる。
　徳川家という組織団体が非難されるところでとめるのだ。
　ドイツが、国民や欧州人の本音をくみ取って行ったナチスのユダヤ人虐待虐殺を、ナチスという組織だけの罪にすり替えたように。

　以前から清国で行っている郷党や少数民族に対する武器輸出をそのまま続ける。
　清国民が民族や郷党の違いによって憎しみ殺し合うように仕向ける。
　特に重点を置いているのが、初期から傭兵として協力してくれていた蒙古族と沿海州やアムール州にいる少数民族だ。
　彼らは根拠地となる安全な領地を手に入れた上で、清国内に略奪に攻め込んでる。
　
　沿海州とアムール州の少数民族は、満州地方に攻め込んでいる。
　外蒙古では建前上清国皇帝がモンゴル帝国の皇帝でもあるのだが、それが清国皇帝に近くて得をする部族と、清国皇帝に疎まれて損をしていた部族を生んでいた。
　徳川家に協力してくれていた蒙古族は、清国皇帝に疎まれて放牧地を失った部族なので、力を得たら元の放牧地を奪還しようと考えて当然なのだ。

　歴戦の騎馬民族がエミエー銃を装備して、皇帝の威光を借りていただけで、実戦経験もなければ最新の武器も持っていない部族に襲いかかる。
　どちらが勝つかなど誰にでもわかる話だ。
　外蒙古では、徳川家に臣従を誓った歴戦の蒙古族が、清国皇帝に臣従している部族を駆逐した。
　その勢いのまま内蒙古にも攻め込んで版図を広げている。

　ウイグル、西蔵、青梅では既に清国の勢力は追放していたが、彼らは清国領内に攻め込むよりも奪還した土地を確保する事を優先していた。
　同時に部族ごとの領界を決めて内輪で争わないようにする事に注力した。
　徳川家が派遣した目付け役もその事を最優先していた。
　せっかく故郷を自分達の手に取り戻したのに、内輪で争って再奪還されるなんて悪夢以外の何物でもないからな。

　だがウイグル、西蔵、青梅から清国勢力を追放した事は、清国に支配されている少数民族に大きな勇気を与えていた。
　壮族や回族といった少数民族が、徳川家から武器弾薬を購入して清国相手に独立闘争を始めたのだ。