上 下
170 / 238
征東大将軍

第170話:一八三八年、蝦夷新田藩の松平胤昌視点

しおりを挟む
 同じ大名家の養嗣子に出られた事はとても運がよかった。
 最悪なら子供を作ることも許されない部屋住みに留められる可能性もあった。
 だが養父が優秀過ぎて中々家督を継げなかった。
 しかも正妻である養父の娘との間にはなかなか子供ができなかった。
 このままだと家督も継げず子供も残せないかもしれないと不安だった

 だが甥が巫覡になった事で運命が激変した。
 万石待遇の陣代として松前藩に迎えたいと言ってもらえた。
 最初は養父も大名として礼に失すると余を松平に戻す事を渋っていた。
 だが甥の、いや、上様から実子が生まれると予言されて翻意した。
 誰だって養子よりも実子に家を継がせたいのだ。

 松前藩に迎えられて七年、信じられないほどの厚遇を受けている。
 蝦夷新田藩として五万石で分家させてもらるなど、近年全く聞かない事だ。
 だがその分働かなければいけない。
 本当ならば叔父の余よりは実子や弟に領地を分け与えたいはずなのだ。
 だが実子や弟は幼過ぎて実戦を任せる事ができない。
 だから成人している余に大領を与え、優秀な家臣寄騎力同心を付けてくれている。
 だから家臣寄騎同心の手前やれることを全力でやらなければいけない。

「火車放て」

 ロシア軍に向かって大量の火車が降っている。
 竹の中の火薬が破裂し、中に詰められた鉛玉が四方に飛び散る。
 上様が清国で大量に作らせた火車がロシア軍を大混乱させている。
 兵だけでなく馬も恐慌状態になっている。
 もう戦える状況ではない

「突撃、余に続け」

 絶対に臆病な所を見せる訳にはいかない。
 敵はもちろん味方の将兵や大名にもだ。
 特に島津家の者達には絶対に臆病な所は見せられない。
 余は東照神君の巫覡である上様の叔父なのだから。

「何としてもヴォルガ川の向うまでロシア軍を追い落とすぞ。
 ヴォルガ川まで確保できれば上様が最上と言われた所まで占領できる。
 我が軍が高須一門最強の軍なのだ」

 負けられない、まだ元服したばかりの甥などには負けられない。
 一門の成人男子として期待されているのは余だ。
 上様の長弟、徳川秀之助殿が尾張徳川家の跡継ぎとして一万兵を率いて北米に向かったと聞く、絶対に負ける訳にはいかないのだ。

 今の石高は五万石だが、家臣寄騎同心、島津家、モンゴルの傭兵などを含めれば五万の兵を上様から預けていただいている。
 もちろん上様が付けてくれた軍師役が実際の指揮を取っている。
 だが上様が言って下さっているように「神輿になりきるには才覚も胆力も必要」なのだ。

 ここで才覚と胆力を証明して実力で褒美を勝ち取る。
 ここに旗頭を置いて、知行地を貰う島津家などの大名家や寄騎同心、上様に臣従を誓うモンゴル傭兵を束ねると上様から聞いている。
 俺がその旗頭になって見せる。
 後から来るだろう上様の弟達には絶対に負けない。

火槍 :竹に火薬を詰めた長い柄の先に取り付けた物
飛火槍:火槍を花火のように飛ばす物
火車 :飛火槍をカチューシャ式ロケット砲の様に多段式にした物
火竜槍:青銅製火縄銃
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

処理中です...