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征東大将軍

第144話:一八三六年、予言ではなく打ち明け

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 今年も予言は何もなかった。
 俺の記憶にある前世の災害は一八三八年だから来年話せばいい。
 それよりも今年はもっと大事な事を三百諸侯に話さなければいけない。
 何より征夷大将軍の徳川家慶に今の世界情勢を話さなければいけない。

 病で昨年末に祖父が亡くなり、俺を護る大きな力が一つなくなった。
 それによって覚悟が定まったという点が大きい。
 祖父の晩年の暴走には色々と悩まされたが、そのお陰で思いがけない有利な状況が生まれているのは間違いない。
 亡き祖父の想いに応えるためにも、積極的に動くことにしたのだ。

「大樹殿、これが今私が占領もしくは同盟を組んでいる領域です」

 俺は徳川家慶に各国が支配下に置いている所を色分けした世界地図を見せながら、自分が支配下に置いている地域を示した。
 分かり易いようにサンソン図法で描いた畳四畳分の巨大地図だ。
 ただ平面図では本質的な状態が分からないので、地球儀も用意してある。
 両方を使えば距離と広さを理解し、補給の困難さも少しは分かってもらえるかもしれないと、事前に準備しておいたのだ。

「なんと、これほどの広大な領地を、こんな遠方まで攻め取ったと申されるか」

 徳川家慶が心から驚いているが、それも当然かもしれない。
 分かり易いように、畳四畳分の日本地図も用意してある。
 蝦夷と樺太と千島も描いて、幕府の直轄領と三百諸侯の領地もできるだけ詳しく描いてあるが、小さな飛び地までは描き切れていないのはご愛敬だ。
 だがこれで俺と幕府の実力差が一目瞭然となる。

「今戦場となっている場所は南蛮列強の一角なのですか、巫覡殿」

 俺もそうだが、徳川家慶も俺を呼びかける時には気を使う。
 ほぼ官位では同格の俺との敬称には互いに気を使ってしまうのだ。
 俺は年長で先任で一族の長者である徳川家慶を大樹と敬って呼んでいるが、徳川家慶は俺の事を東照神君の巫覡として敬ってくれている。
 征東大将軍として敬られると色々困るのだ。
 まだ幕臣の中には俺に反感を持つ者が少なからずいるから。

「はい、この辺りで戦いを激化させれば、南蛮列強が日ノ本に圧力をかける時期を遅らせる事が可能だと考え、新規召し抱えや陣借りを集めて戦っております。
 問題は、このままだとこの辺りの領地を得るのが、清国人や韃靼人ばかりになってしまうという事です。
 私としては、日ノ本の民にも大きな領地を与えたいのですが、松前藩だけでは人数兵力が足りなさすぎるのです。
 そこで三百諸侯と幕臣の中に、領地替えを受けてでもこの地に行こうとする者がいないか確かめたいのです、大樹殿は如何思われますか」
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