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征夷副大将軍
第73話一八二七年、松平紀教(徳川斉昭)
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「叔父上、わざわざ御足労願って申し訳ない。
年少の私が叔父上を呼び出すのは失礼なのですが、どうしても内々で御願いしたいことがありまして、非礼を承知で御足労願いました」
「いえ、いえ、謝っていただくような事ではありません。
東照神君の巫覡であられ、従二位権大納言、征夷副大将軍、検非違使別当を務められる陸奥守殿に呼び出していただけるなど、無位無官の私ごときには望外の栄誉でございます」
やれ、やれ、困ったものだ。
口では遜っているが、腹の中ではかなり怒っている。
自分の才能に過剰な自信を持ち、自尊心も過大なのだろう。
こいつなら、偽の遺言を創ってでも、水戸徳川家を継ごうとするだろう。
ここは使い潰させてもらおう。
まあ、死地に追いやるのは、多少胸が痛む。
母上の弟で、母方の血統から言えば叔父なのだ。
父方の血統から言っても、叔従父となる。
だが結構近い血族だからこそ、妬み嫉みも強いのだろう。
史実では水戸徳川家を継いで当主となっているが、今はまだ単なる部屋住みにすぎず、無位無官の身だ。
それに比べて俺は、僅か八歳で従二位権大納言の征夷副大将軍だ。
そんな俺に呼びつけられるなんて、副将軍の呼称に拘る水戸徳川家の後継者を自認している男には、屈辱以外の何物でもないだろう。
「叔父上への願いは他でもありません。
異国に対する備えの件です。
一刻も早く軍備を整え、いかなる大軍が攻め寄せてきても、撃退できるようにしなければいけないのですが、昨今の武士の堕落は眼を覆うものがございます。
それを叔父上に正していただきたいのです」
「ほう、私に武士の綱紀粛正をいたせと申されるのか。
しかし私は無位無官の身で、何の力もありません。
それとも東照神君から何か御告げでもありましたか」
そんな粘着質な眼で見られても困るのだ、そもそも御告げなどないのだから。
お前に皇室に対する本当の忠誠心と武家の誇りがあるのなら、水戸徳川家の力に頼ることなく、自力でこの国を護る覚悟を証明してもらう。
「御告げはありませんが、やらねばならない事は分かっています。
異国の支配地に乗り込み、正しい情報を手に入れてくることです。
余人には任せられない大役です。
叔父上に御願いできないでしょうか」
「それは、私に異国に渡れと申されるのですか。
陸奥守殿は、私に死地に赴けと申されるのですか」
「叔父上が直接行かれることはありませんよ。
松前藩の家老となって、琉球から我が艦隊を指揮していただきたいのですよ。
早い話が、我が陣代となって欲しいのです」
さて、どう判断しますか、叔父上。
年少の私が叔父上を呼び出すのは失礼なのですが、どうしても内々で御願いしたいことがありまして、非礼を承知で御足労願いました」
「いえ、いえ、謝っていただくような事ではありません。
東照神君の巫覡であられ、従二位権大納言、征夷副大将軍、検非違使別当を務められる陸奥守殿に呼び出していただけるなど、無位無官の私ごときには望外の栄誉でございます」
やれ、やれ、困ったものだ。
口では遜っているが、腹の中ではかなり怒っている。
自分の才能に過剰な自信を持ち、自尊心も過大なのだろう。
こいつなら、偽の遺言を創ってでも、水戸徳川家を継ごうとするだろう。
ここは使い潰させてもらおう。
まあ、死地に追いやるのは、多少胸が痛む。
母上の弟で、母方の血統から言えば叔父なのだ。
父方の血統から言っても、叔従父となる。
だが結構近い血族だからこそ、妬み嫉みも強いのだろう。
史実では水戸徳川家を継いで当主となっているが、今はまだ単なる部屋住みにすぎず、無位無官の身だ。
それに比べて俺は、僅か八歳で従二位権大納言の征夷副大将軍だ。
そんな俺に呼びつけられるなんて、副将軍の呼称に拘る水戸徳川家の後継者を自認している男には、屈辱以外の何物でもないだろう。
「叔父上への願いは他でもありません。
異国に対する備えの件です。
一刻も早く軍備を整え、いかなる大軍が攻め寄せてきても、撃退できるようにしなければいけないのですが、昨今の武士の堕落は眼を覆うものがございます。
それを叔父上に正していただきたいのです」
「ほう、私に武士の綱紀粛正をいたせと申されるのか。
しかし私は無位無官の身で、何の力もありません。
それとも東照神君から何か御告げでもありましたか」
そんな粘着質な眼で見られても困るのだ、そもそも御告げなどないのだから。
お前に皇室に対する本当の忠誠心と武家の誇りがあるのなら、水戸徳川家の力に頼ることなく、自力でこの国を護る覚悟を証明してもらう。
「御告げはありませんが、やらねばならない事は分かっています。
異国の支配地に乗り込み、正しい情報を手に入れてくることです。
余人には任せられない大役です。
叔父上に御願いできないでしょうか」
「それは、私に異国に渡れと申されるのですか。
陸奥守殿は、私に死地に赴けと申されるのですか」
「叔父上が直接行かれることはありませんよ。
松前藩の家老となって、琉球から我が艦隊を指揮していただきたいのですよ。
早い話が、我が陣代となって欲しいのです」
さて、どう判断しますか、叔父上。
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