転生 徳川慶勝 日露開戦 日米開戦

家督継承前

第8話一八二三年、運上金利益四割制度

　俺の願いは全て聞き入れられた。
　徳川家斉はほとんど半狂乱になっていた。
　まあ、それも仕方がない事だろう。
　長年に渡って罪の意識に苛まれ続けていたのだ。
　父親が大逆を犯し主君の子供を殺し、それを見て見ぬ振りして、子供を殺された主君の養嗣子となり、将軍位を盗んだのだ。

　長年に渡って徳川家基公の命日に参拝し、自ら参拝出来ない時は必ず代参の者に参拝させるほど、強い罪の意識を持っていたのだ。
　その場にいない徳川家基公と徳川家治公に泣き叫びながら詫び、父親の罪を許して欲しいと畳に額を擦り付けるさまは、とても将軍とは思えないものだった。

　だが、そこまで俺の言う事を信じ恐怖したのは、俺が時期を待ったからでもある。
　千代田城での刃傷事件を予言したのが的中している。
　更に大地震を事前に予測し、それが的中するまで待ったことで、単に病気の治療法を東照神君から告げられる存在ではなく、神罰を下せると誤解させたからだ。
　この時代の人間は総じてとても信心深いのだ。
　迷信であろうと深く信じているのだ。
　だからこそ徳川家斉は、長年徳川家基公の命日に参拝し続けていたのだ。

　御陰で、俺の大嫌いな一橋治済はその影響力を完全に失った。
　半ば常軌を失った徳川家斉が、今迄の孝行息子の仮面をかなぐり捨てて、一橋治済は軟禁状態にしたのだ。
　まだかろうじて実の父親を殺さないだけの理性は残っていた。
　だがその分、老中の水野忠成に対する叱責は激烈だった。
　その常軌を逸した叱責は、水野忠成が腹を切ろうと思い詰めるほどのものだったが、水野忠成を使い潰す心算だった俺が取りなして事なきを得た。

　俺に対して恐怖と恩を感じた水野忠成が、賄賂を受け取って蝦夷地抜け荷を見逃した商人を、掌を返して情け容赦なく取り締まった。
　北前船の船主は悉く捕らえられ、闕所処分となり家財の全てを没収された。
　その現金は三百万両にも及び、家屋敷や一七四隻の北前船も没収された。
　家屋敷は幕府の利益として競売にかけてもらい、俺は現金と北前船を手に入れた。

　手に入れた三百万両は、反射高炉と西洋帆船の建造費に充てる事にした。
　北前船は船頭に任せてそのまま運用することにした。
　蝦夷地と樺太の現状を調べるためと、蝦夷地と樺太を直接統治するために、高須松平家の士分・陪臣・武家奉公人併せて六百人ほどから、松前藩の藩士を選抜した。
　渡り中間などの短期雇用の家臣もいるが、隠居や部屋住みを加えれば、それなりの人数は確保できる。

　そんな部屋住や一度は武士を捨てた子弟を動員し、手に入れた北前船一七四隻に目付け役として乗り込ませ、操船と航海術を学ばせた。
　西洋帆船で海軍を創設するには、熟練の艦長や海尉、水兵がどうしても必要だ。
　だから今の内から訓練しておくのだ。

一七四隻×千両＝十七万四千両。