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第4章

第100話:家臣の献策

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「嫌です、絶対に嫌です!
 私だけ安全な後方でサクラに守られて、リドワーン様が少ない戦力で教都に行くなど、絶対に認められません。
 これは王太女としての命令です。
 私と一緒にいなさい!
 私と一緒にいられる作戦を考えなさい。
 私と一緒にいては教都遠征ができないと言うのなら、遠征を中止しなさい!」

 カチュアが本気で怒って無理難題を言ってくる。
 俺の側を離れたくないという本心が剥き出しになっていて、無理難題を言われているのに嬉しくなってしまう。

 俺の安全を最優先にするために、恐妻を演じようとしてくれているのも嬉しい。
 戦略や戦術として迂遠になってしまうが、大戦略としてはわるくない。
 カチュアを主君女王として立てる大戦略に合致しているから、望むところだ。

「承りました、王太女殿下の思し召しのままに」

 そう答えたからには、カチュアの側を離れるわけにはいけなくなった。
 だが一緒に教都に行くのは危険過ぎる。
 普通に考えれば絶対に負けないが、向こうにも隠し玉があるかもしれないのだ。

 そうでなければ教団もあれほどの無謀な真似は絶対にしないはずだ。
 俺なら何か秘策が無ければこれほど無謀な事はしない。
 まあ、想像もできないくらい狂信的な馬鹿なら別だけどね。

「カチュア王太女殿下、リドワーン様、ひと言宜しいでしょうか」

 俺が作戦を考えようとしていると、カチュアの軍師役を務めるフェリシティが話しかけてきた。

「何だい、何か策を思いついたのなら遠慮なく言ってくれ」

 俺は素直にフェリシティの献策を聞くことにした。
 恋の病とカチュアの妊娠で舞い上がっている俺は、先を冷静に見通せなくなっているし、情に流されて歪んだ思考になっているかもしれないのだ。

「はい、ありがとうございます、シャルマン公爵閣下。
 まず最初にサクラの中が一番安全という事は間違いありません。
 カチュア王太女殿下が妊娠されましたから、それこそ教皇と枢機卿団が何を仕掛けてくるか分かりません」

 確かにフェリシティの言う通りだ。
 俺を確実に捕らえることができるのならなおさらだ。
 教皇と枢機卿団の目的は俺を聖女の配偶者にする事だ。
 隙があれば必ずカチュアを狙ってくる。

「確かにその通りだな、で、こちらはどうする方がいいと考えているんだ」

「待ち構えていては教団が何を仕掛けてくるか分かりません。
 王都の民を巻き込み、王太女殿下のお優しい心を傷つけ、こちらの失敗を誘ってくるかもしれません。
 私達は王都に戻るのではなく、教都に近づいて教団の攻撃を誘うのです。
 その方が王太女殿下の負担を少なくすることができます。
 民が巻き込まれて死ぬようなことがあれば、心労を受けた王太女殿下が流産されてしまわれるかもしれません。
 ここは派手に動いて教団の目をこちらに引き付けましょう」

 これは俺が迂闊で愚かだった。
 カチュアの優しい心を忘れてしまっていた。

 確かに王都の民が巻き込まれるような事があれば、カチュアは心を痛める。
 ここは派手に動いて教団の攻撃をこちらに誘おう。
 だが、本当に大丈夫だろうか、サクラが負ける事など考えられないが、不安だ。
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