侯爵令嬢はデビュタントで婚約破棄され報復を決意する。

２章

３７話

「摂政殿下。
　この度は王宮に招いて頂き光栄に存じます」

　メイソン元第二王子が、王宮に招いた事の礼を言ってくれます。
　内心は屈辱と怨念が渦巻いているのかもしれませんが、表には出しません。
　それくらいの事が出来ないとないと、敗戦して貴族に落とされた元王族が、新たな王家の下で生き延びるのは難しいのです。

「よく来てくれました、メイソン殿。
　ホワイト領では不足など有りませんか？」

「何の不足もありません。
　むしろ思っていた以上に厚遇して頂いています。
　兄と父があれほど愚かな行いをしたのです。
　族滅されても仕方がない所でした。
　それを助命して頂き、貴族として遇して頂けたのです。
　不平不満を口にするなど、絶対に許されない事です。
　もし一族にそのような恩知らずが現れたら、私が責任を持って処分いたします。
　御心配も御気遣いも不要でございます」

　メイソン殿は慎重です。
　そして頭も悪くない。
　いえ、賢明と言っていいくらいです。
　長幼がリアムと逆で、メイソン殿が王太子であったら、ホワイト侯爵家とベイリー王家は結ばれ、ホワイト王国は盤石な国家体制となっていたでしょう。
　残念な事です。
　いえ、既に過去の事です。
　父王陛下も私も、過去ではなく未来に責任があるのです。

「今日の晩餐会に来て頂いた理由は、既に手紙で御報せていていますが、メイソン殿に疑念や問題はありませんか？
　あれば率直に言って頂きたいのです。
　この問題は国家の存続に係わる大問題なのです。
　いったん決まったら、誠意をもって履行していただかねばなりません」

　晩餐会に集まっている重臣や国内貴族はもちろん、各国の大使としてこの晩餐会に招待されている外国貴族も、私とメイソン殿の会話に注目しています。
　それは当然の事でしょう。
　この会話次第で、ホワイ王家とベイリー旧王家の命運だけでなく、大陸の生末まで決まってしまうのです。

「一切の疑念も問題もありません。
　摂政殿下はもちろん、ホワイト王家に対しても恐れ多い事ながら、私は第二王子として生まれ育ちました。
　国のため王家のため、政略結婚を誠意をもって履行する事は当然の事と、厳しく教育されてきました。
　どのような条件の結婚であろうと、国のため王家のため一族のため、誠心誠意妻と暮らし、一族と王家と王国の役に立つ事を、ここに誓います」

　立派な覚悟です。
　固唾を飲んでみていた、重臣・国内貴族・外国貴族も感心しています。
　これでメイソン殿は大勢を味方につける事に成功しました。
　予定通りですが、正直安心しました。
　私の予測よりもメイソン殿は愚かな可能性もあったのです。
　さて、次はミルドレッド王国との交渉ですね！