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2章

31話

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「私の婚約相手はマイヤー王国に限りません。
 ドレイク王国でもミルドレッド王国でも構わないのです。
 レイスリーは担当貴族と密偵を呼んできてください」

「承りました」

 レイスリーは全く表情を変えず、余計な事も言わず下がりました。
 何か思惑があるのか分かりません。
 ベイリー王家時代からの密偵の半数は、レイスリーが掌握しています。
 情報戦を制さないと、私は傀儡になってしまいます。
 だからと言って、今の状況で有能な家臣を粛清する事などできません。

「トビアス、よく来てくれました。
 単刀直入に聞きますが、ミルドレッド王国は私に婚約者を送り、縁を結ぶ気があるのですか?」

 フィンチ伯爵家の当主トビアスは、ベイリー王家時代からミルドレッド王国の担当貴族として、長年西の国境を安定させてきた有能な貴族です。
 密偵の情報では、ベイリー王家に忠誠を尽くすというよりは、フィンチ伯爵家の繁栄と平和を願っているという事ですが、油断はできません。

「姫様が単刀直入に聞かれましたので、私も単刀直入に答えさせていただきます。
 条件次第でございます。
 王配になるのに必要な持参金の金額と、台所領の金高によって、姫様の王配争奪戦への参加不参加が決まります。
 私見を述べさせていただきますと、追い詰められたマイヤー王国や、最初から守る心算のないゲラン王国と同じ条件は、参加しないと思います」

 本当に単刀直入に答えてくれましたね。
 こればホワイト王家に対する忠誠心から来ているのか、逆に反感から来ているのか、今は判断するだけの情報がありません。

「トビアスはゲラン王国は約束を守る気がないと思っているのですね?」

「はい。
 貿易の約束すら守る気のない国です。
 弱肉強食の領地争いで約束を守るはずがありません。
 一方敗戦危機のマイヤー王国との約束も、守られる可能性は低いでしょう。
 我が国が戦勝国相手に台所領だと言い張っても、開戦の口実にされるだけです」

 なるほど、ミルドレッド王国の担当貴族らしい視点です。
 条件が悪くてもミルドレッド王国と縁を結べと言いたいのでしょう。
 ですが、冷静な判断とも言えます。
 危険は大きいけれど、勝った時の利が多いマイヤー王国と縁を結ぶか、ゲラン王国と戦争になった時に背後の安全を確保する為に、利は少ないけれどミルドレッド王国と縁を結ぶか、王位継承権者として冷静に選べと言いたいのでしょうね。

 ですが、ゲラン王国がマイヤー王国を破った時に、ミルドレッド王国が我が国に攻め込まない保証などありません。
 ミルドレッド王国がゲラン王国と同盟して、我が国を攻め国可能性もあるのです。
 それくらいの事をしなければ、国を保つ事などできないのです。
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