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2章

27話

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「姫様はとても御美しい。
 まるで夜空に輝く月のようだ。
 私は一目で恋に落ちてしまいました」

 ライアン王子が歯の浮くような陳腐な口説き文句を口にします。
 正直吐き気がします。
 もう多くの報告が密偵からあがってきていて、ライアン王子の母国ゲランでの行状を知っているのです。

 ライアン王子は女誑しです。
 それもすこぶる癖の悪い女誑しで、人妻や婚約者のいる女性を口説くのが大好きなのです。
 ジョセフ王はライアン王子の悪癖を知った上で、私を騙せると考えて、ライアン王子を我が国に送り込んできたそうです。

 馬鹿にするにも程があります!
 私を小娘だと思って侮っているのです!
 この屈辱は絶対に忘れません。
 このような心ない手を使って来るジョセフ王も、それを諫めない重臣も、全く信用できません。
 ゲラン王国とは常に戦闘を想定した国交を行う必要があります。

「音楽が変わりましたね。
 丁度踊るのにいい曲に変わりました。
 私と踊って頂けませんか?」

 黙っている私に畳みかける心算なのでしょう。
 笑顔でダンスを誘ってきます。
 自分では極上の笑みを浮かべているのでしょが、私には下劣な品性が浮かんで見えます。
 こんな男の手に触れるなど虫唾が走ります。
 腰に手をやられたりすると、無意識に殴ってしまう事でしょう。

「あら?
 ライアン王子は人妻が好きだと、ガブリエル王子から御聞きしていましたが、違うのでしょうか?
 噂の真偽を確かめるまでは、私、ライアン王子と踊りたくありませんわ。
 だって、評判が地に落ちてしまいますもの!」

 いい気味だ。
 屈辱で顔を真っ赤にしています。
 こんな男とは絶対に踊りません。
 それに、恨みを私に向けられないように、密偵の動きを悟られないようにしなければいけません。
 つい、密偵からの情報を口にしてしまったけれど、恨みの矛先を別に向けないと。

「ガブリエル王子とグレイソン王弟が色々と教えてくれましたの。
 他の王子達の事も、ジョセフ国王陛下の事も。
 余りにライアン王子やセオドア王弟の話と違うので、他の国の方からも話を聞いて、本当の事を知りたいと思っていますの」

「それは全て真っ赤な嘘です。
 マイヤー王国の連中は嘘つきばかりです。
 あいつらの言う事を聞くと痛い目に会いますよ。
 私は嘘は言いません。
 私を信じる方が姫のためです!」

「あら、そうですか?
 でもおかしいですね。
 今まで色々と交易していましたが、マイヤー王国の商人が約束を破った事は一度もありませんよ。
 でも、それに比べてゲラン王国の商人は、何度も何度も約束を破ってきました。
 その度にライアン王子とセオドア王弟に苦情の手紙を送らせて頂いてますよね?
 もしかして、全権大使のライアン王子はそれを一度も読まず、全てセオドア王弟に任せきりと言う事はありませんよね?
 それとも、セオドア王弟も見ておらず、全て家臣任せという事ですか?
 そんな我が国を愚弄するような事はしていおられませんよね?
 だったら、それでよくマイヤー王国が嘘つきで、ゲラン王国は嘘をつかないと口にできますね!」
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