侯爵令嬢はデビュタントで婚約破棄され報復を決意する。

克全

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2章

20話

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「アルフィンはどうすればいいと思う」

 私室に二人きりになると、父上様の御顔に疲れが浮かびます。
 貴族や家臣がいる執務室では、気を張り詰めて表情を作っておられたのでしょう。
 あの場での二度の失敗が、父上様を傷つけてしまったのです。
 全ては私の責任です。
 父上様に戴冠して頂いたのは私の決断です。
 あの時、メイソン殿を王に据える覚悟をしていたら、ここまで父上様を追い込まなかったでしょう。

 無能で無責任な人間ならば、王位は愉悦に満ちた地位でしょう。
 しかし有能で責任感のある人間には、王位は苦痛に満ちた地位なのです。
 両肩に家臣領民の生活と命がのしかかってきます。
 私のような王女の立場でも、毎夜飢えて死ぬ民の悪夢に悩まされます。
 善政を敷いていた祖父の跡を継いだ時ですら、毎夜悪夢に悩まされたと、父上様は以前話しておられました。

 無能で無責任な前王の悪政の跡で王位に就かれたのです。
 その悪夢は侯爵家を継いだ時の比ではないでしょう。
 ここは私が責任を取らねばなりません。
 どうせ城から出らない身です。
 父上様の重圧を少しでも軽くするために、責任ある地位に就きましょう。
 それが私の父上様への罪滅ぼしです。

「いったん帰国して頂きましょう。
 そして周辺国には、マイヤー王国の王子達が来られたことを話します。
 帰って頂く時に、マイヤー王国に大使館と商館を建てたいと申し込み、密偵達を同行させましょう。
 マイヤー王国がどうしても王子達を送り込みたいのなら、私達を見習って王子を大使や商館長として送り込んでくるでしょう。
 そうすれば、こちらとしては人質を手に入れたも同然となります」

「アルフィンはマイヤー王国が人質を差し出したと言うのか?!」

 父上様が驚くのも当然です。
 我が国には、マイヤー王国を圧するような、強大な軍事力を持っている訳ではありません。
 しかもマイヤー王国とは国境を接している訳でもないのです。
 マイヤー王国が人質を送り込む理由などないのです。
 しかしそれは我が国だけの事情です。

「我が国には人質を送ってもらう理由はありません。
 しかしながらマイヤー王国には人質を差し出したい理由があるのかもしれません」

 噂に聞いていたマイヤー王国は、武の国です。
 国土は寒冷で豊かではありませんが、牧草が豊富なので、遊牧が盛んだと聞いていました。
 遊牧には騎馬の技が必要不可欠です。
 幼少から遠征従軍の訓練をしているのと同じです。
 そんな武のマイヤー王国でも人質を差し出したい状況。

 二国以上の軍事同盟に挟撃されそうになっている可能性がありますね。
 そうだとすると、王家の独断専行が必要になるかもしれませんが、これ以上父上様に重圧をかけるわけにはいきません。
 私が摂政か宰相に就任すべきでしょう!
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