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召喚

懇願

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「村長、父ちゃんが苦しんでいるんだ、薬草を取りに外に出させてくれ!」

「駄目だ! バルタサル。外にはオークが群れを成しているんだ、御前に何かあったらお母さんが哀(かな)しむぞ」

「でもこの人は無事に村にたどり着いた、もうオークはあきらめたのかもしれない」

「この人に実力がある上に運もよかったのだ、幼いお前に同じ事は出来ん。村で1・2を争う実力の御前の父が死にかけたのだ、村のために傷ついた御前の父にむくいる為にも、御前や妹に危険な真似まねはさせられん!」

 10歳くらいだろうか?

 幼いのに父親の為に命懸けで薬草を摘みに行こうなんて、なんて孝行でいい子なんだ。オークとの攻防で多くの男が傷ついたのかな?

(そのようだな、気配を探ってみたが、死にかけている者や大ケガをしている者も多い)

 セイはそんなこともできるのか?

(レベルが上がれば、マップの魔法とリサーチの魔法で人間だけを探し出し、生命力の強さを輝きで表させる事も出来る。まあ我ほどになれば、魔法など使わなくても気配だけで感じ取ることができるがな)

 昨日使ったヨタキュアを使えば助ける事が出来るか?

(それは魔力の無駄遣いだ、ヨタキュアは国単位で全ての民を蘇らせ回復させる大規模魔法だ。ミノルが1人を助けるならデカキュアで十分だろう、助けてやるのか?)

 孝行息子のようだからな、助けないと後で後悔するだろうし、死んだ祖母ちゃんに勘当かんどうされたくないからな。

(まあ好きにするがいい)

「村長、薬草の持ち合わせはないが回復魔法なら使える、この村に家をくれるなら助けてもいいがどうする?」

「「え!」」

 村長とバルタサルがおどろいてこちらを見る、特にバルタサルは村長と話しながら涙をこらえていたのだろう、目が真っ赤に潤んでいる。そんな顔を見てしまうと、駆け引きしている自分が恥ずかしくなる。この場に祖母ちゃんがいたら、俺の事をホウキでシバキ倒していただろう。

「亡き祖母に、困っている人がいれば無条件で助けなさいと言われて育ったんだが、俺も住む場所が無くて困っているんだ、ここは互いに助け合わないか?」

丸太塀まるたべいの中は広さが限られているから、今直ぐ用意出来る家がないんだ。だが必ず用意する、オークの襲撃をしのいだら、丸太塀を拡張して村を広げる。その時は俺と家族はこの家をでるから、貴方はここに住んでくれ、それまではこの家の客間を使ってくれ」

 村長が今までまとっていた仮面をかなぐり捨てて、村民を助けるために必死になっている。

「分かった、手遅れになってはいかんから、まずは怪我人の所に案内してくれ」

「ああ、だが怪我人は1人ではないんだ、それでもいいのなら案内しよう」

「1人だけ助けて他の人を見捨てると言う事はない、全員に治癒魔法を使うから案内してくれ」

「頼む」

 村長が最初に案内したのはバルタサルの家のようだったが、開拓村だからだろうが隙間すきまだらけの粗末そまつな家だ。壁の1面は丸太塀と共用となっていて、10畳程度の広さで仕切りもない。土を固めたカマドと水瓶みずがめがある方が台所で、反対側に男が寝かされ女と子供が心配そうに付き添っている。男の寝床は4枚の皮が敷かれ、その下には草が積まれている、少しでも楽にさせてあげたいと家族の寝床を全て集めたのだろう。だが男は苦しそうに浅い息を繰り返しており、もう助かりそうにもない。

 セイ、死にかけているように見えるんだが、本当にデカキュアで大丈夫なのか?

(大丈夫だ、それにデカキュア1度で完治しなければ、2度3度と重ね掛けすればいいではないか)

 確かにその通りだな。

(だがまあなんだ、四肢欠損があればヘクトキュアが必要だ、念のために身体に欠けた所がないか確かめてみろ)

 げ?!

 生々しい傷を見るのは苦手だな、特に内臓が出てると嫌だな。

(ホーンラビットの解体を覚えようとしていたのによく言うな)

 それはそれ、これはこれだよ、だけどここはしっかりと確認しておくべきだな。

「傷口を確認しておきたい、万が一四肢欠損などがあれば、使う魔法と魔力が全く違ってくる」

「失った腕や足を再生することができるのか?!」

 セイ、大丈夫なんだな?

(大丈夫だ、信用しろ、ヨタキュアであれだけエルフやエントを生き返らせたであろうが)

 そうだな、そうだったな。

「大丈夫だ、任せてくれ」

「魔法使い様、どうか夫を救って下さい! 御願いいたします!」

「助けてあげるとも、だがそのためには傷口を見せてもらう必要がある、どんな状態なんだい?」

 女房は夫に掛けていた毛皮を取って傷口を見せてくれたが、これで今までよく生きていたものだ。腹に大きな傷があり、腸がはみ出しているうえに化膿して膿が出ている。しかも敵との戦闘時に攻撃を受けたのだろう、右の親指と左の小指と薬指が欠けている。

(これならヘキュトキュアを使った方がいいだろう)

「うむ、これなら治すことができるな、ヘキュトキュア」

「うぁ~ん、御父さん!」
「アンタ、よかった! アンタ!」

 怪我人が光に包まれ、身体中の傷が回復していく。1カ所づつ治るのではなく、全体に治っているのだが、化膿して腐敗まで始まっていた内臓の直りが1番遅い。それでも驚異的な速さで傷が治り、欠けていた指が再生していく。光が治まり、男の腹の傷が跡形もなくなると、奥さんとバルタサル・娘がワンワン泣いて抱きついていた。

「村長、次の家に行きましょうか」

「ああ!」

 驚きのあまり顎が外れそうなくらい口を開けていた村長をせかして、次の怪我人のいる家に案内させた。出来れば治療は早く済ませて、ウサギ料理に挑戦したいのだ。
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