あやかし子ども食堂

克全

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第8章:ボディーガード犬

第33話:登下校・向井樹希視点

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「すまないね、シナノに登下校の送り迎えをさせようと思ったけど、駄目だったよ」

 銀子さんがあやまった。

「俺が由真を守るからいいよ」

「PTAに五月蠅いのがいるらしくて、犬だけだと『子供が怖がる』と難癖をつけられると校長が言うんだよ」

「分かった」

「だけど、大人が手綱を持てば大丈夫だから、三郎か手の空いた奴に、シナノを連れて登下校に付き添わせるよ」

「いそがしいんじゃないの?」

「色々忙しかったから、三郎たちの従兄弟が手伝ってくれる事になった。
 だから登下校の付き添いができるようになった、安心しな」

「うん、分かった」

「だから由真の事は心配いらない、樹希は野球でもサッカーでも好きな事をやりな」

「別にやりたくない、由真と一緒の方がいい」

「そうかい、だったら無理にとは言わないが、やりたくなったら言うんだよ」

「うん」

 次の日から、施設から学校に行くのに、男の人たちとシナノが一緒になった。

「しなのぉ~、私がたづなもつぅ~」

 由真がワガママを言う。

「1人じゃ危ないから、一緒にも持とう」

 男の人たちは、シナノの手綱を持ちたがる由真を怒らず、一緒に持たせてくれた。
 由真はうれしそうにシナノ手綱を持って毎日登下校した。
 
 何日かして、シナノ以外の番犬が一緒に登下校するようになった。
 これまで見た事のない犬が多く、ナガト、ムツ、ヤマシロ、フソウと言った。
 男の人たちだけじゃなく、1番大きな、中学三年生が手綱を持つようになった。

 直ぐに男の人たち以外の、大人の女の人が登下校に加わるようになった。
 毎日ではなかったが、同じ女の人でもなかったが、加わるようになった。

 1人知っている人がいた、文野綾子という、子ども食堂で会った人だった。
 子供の鈴音ちゃんとは遊んだことがあった、由真がお姉ちゃんぶっていた。
 
 毎日がとても楽しかった。
 いつもお腹一杯で、温かくて、由真が笑っている。

「三郎さん、子ども食堂までシナノをさんぽさせちゃダメ?」

 俺が中学校に行くまで後1月くらいになった頃、小学校から直接子ども食堂に行く日に、由真が三郎さんに言った。

「給食はちゃんと食べたか、お腹空いていないか?」

「ちゃんと食べた、お腹空いてない」

「樹希は大丈夫か?」

「大丈夫」

「綾子さん、お願いして大丈夫ですか?」

「私1人で大丈夫でしょうか?」

 今日は三郎さんだけじゃなく、文野綾子さんも一緒だった。
 春から小学校に行く鈴音ちゃんは、綾子さんが手綱を持つフソウの背中に乗っていて、とてもうれしそうにしていた。

「綾子さんも知っておられる通り、フソウもシナノもとても賢く強い子です。
 何かあっても必ず守ってくれますから、大丈夫です。
 それに、何かあったら子ども食堂に電話してください、直ぐに迎えに来ます。
 由真ちゃんが疲れて歩けなくなっても、直ぐに迎えに来ます」

「私ちゃんとあるけるよ」

「分かっているよ、でも、疲れるのは普通の事なんだよ」

「わかった」

「ウォン」

「そうか、由真ちゃんが疲れたら背中に乗せてくれるのか。
 だが無理はするなよ、車が突っ込んで来る事や、狂人が襲ってくる事もある、みんなを守れるように、俺を呼ぶべき時には必ず呼べ」

 三郎さんがシナノとフソウを見ながら言う。

「「ウォン」」

 シナノとフソウが同時に返事する。
 俺と由真を迎えに来た三郎さんは、そのまま車に乗って帰って行った。
 由真はとても楽しそうで、シナノの手綱をとってはずむように歩く。

 だけど、だんだん歩くのが遅くなってきた。
 疲れたと言わないが、絶対に疲れている。

「由真ちゃん、迎えに来てもらおうね」

「……わたしも鈴音ちゃんのようにシナノの背中に乗りたい」

 由真がワガママを言った、しかろうと思ったけど。

「ウォン」

 シナノが由真に背中に乗れと言った。
 由真が乗りやすいように、歩道でフセをしてくれている。

「ありがとう、シナノ」

 由真がうれしそうに言いながらシナノの背中に乗った。
 両手でシナノの背中の毛をつかんで座った。
 鈴音ちゃんより大きな由真だけど、シナノが平気で歩き出した。

 それからは早かった、休むことなく歩いた。
 足が痛くなったけど、お兄ちゃんだから言わない。
 痛いなんて言わずに、子ども食堂まで休まず歩いた。

「樹希君、よく頑張ったね、足をマッサージしてあげようね」

 子ども食堂の庭についたら、綾子さんが言ってくれた。
 子ども食堂の庭は境内だと教えてもらったけど、つい庭と言ってしまう。
 シナノたちを境内に放して、子ども食堂に入った。

「銀子さん、頑張って歩いた樹希君が脚を痛そうにしています。
 マッサージしてあげたいのですが、軟膏か何かありますか?」

「おにいちゃん、ごめんなさい」

「お兄ちゃんは大きいから大丈夫だ」

「よく頑張ったな、銀子母さんがマッサージしてやる、横になりな。
 綾子さんありがとう、気疲れしただろう?
 夜食は別に出すから、早飯にして休んでくれ」

「そんな、いつもお世話になっているのです、これくらいの事……」

「いいから、いいから、三郎、定食を出してくれ」

「はいよ」

「逃げんるんじゃない、じっとしていろ」

 マッサージされるのが恥ずかしくて、逃げようとしたけど、ダメだった。
 ズボンを脱がされなかったのは良かったけど、すそをあげられた。
 スッとする軟膏を塗られて、柔らかい手で優しくマッサージされた。

 恥ずかしくて、うれしくて、泣きそうになった。
 泣いてしまったら恥ずかしいので、下を向いた。
 顔を手で隠して、下を向いて、優しい手を感じた。

「いいなぁ~、お兄ちゃんいいなぁ~」

「由真が小学校からここまで歩けるようになったら、同じ様に塗ってやる。
 だけど、無理をしてお兄ちゃんを困らせるんじゃないよ」

「……うん、もうわがまま言わない」

「今度はもっと早く疲れたと言いな、言えるね?」

「うん、言える」

「それと、家の犬たちは特別だから背中に乗れるけど、他の犬に乗ると、犬が痛くて怒るから、絶対にやるんじゃないよ、咬まれるからね」

「他の犬は背中に乗れないの?!」

 びっくりした、シナノが喜んで由真を背中に乗せていたからびっくりした。

「ああ、乗れない、同じ様に見える秋田犬も無理だし、もっと大きなグレート・デーンやアイリッシュ・ウルフハウンドでも無理だ、凄く怒って咬むかもしれない。
 樹希、由真、綾子さん、鈴音ちゃん、忘れるんじゃないよ!」

「「「「はい」」」」

「良い返事だ、手を洗ってうがいをして、ご飯を食べな」

 いつの間にかマッサージが終わっていた。
 泣いたところを見られなくてよかった。
 由真はまた銀子さんに甘えて、歯磨きを手伝ってもらっていた。

 夕ご飯はいつもと同じようにとても美味しかった。
 甘辛く煮た鶏の手羽元は柔らかくて美味しかった。
 一緒に煮たダイコンやニンジンも美味しかった。

 好きなだけ食べてもいい、鶏の内臓を甘辛く煮たヤツは、玉ヒモが好きだ。
 同じように好きなだけ食べていい、ピクルスと糠漬けも好きだ。

「八郎、ヤマトたちにご飯を持って行ってやってくれ」

「てつだう、てつだいたい」

「由真にはまだ早い、凄く怖いとこを煮てご飯にしているから、大人になるまでは手伝えないんだよ」

「そんなぁ~」

「由真が見たら、眠れなくなるくらい怖いとこを煮てご飯にしているんだ。
 由真が寝込んだら、今日みたいに誰かを困らせる事になるんだよ。
 樹希が朝まで寝ずに看病する事になる、大人になるまで待ちな」

「わかった、まつ」

 由真が怖くて眠れなくなるような怖いところ?!
 そんなところをシナノたちは食べているの!
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