あやかし子ども食堂

克全

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第8章:ボディーガード犬

第31話:ビニールボール・向井樹希視点

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 派手な服のおばさんたちが文句を言ってきた次の日、午前の授業が終わって、学校からそのまま子ども食堂に行った。
 今日は施設ではなく、直接小学校に三郎さんが迎えに来てくれた。

「申し訳ございません、私の指導力不足でございます。
 こいつには国会議員を辞職させます、もう選挙にも出させません。
 これは御詫びでございます、どうかお納めください」

 子ども食堂の前に背広を着た人が並んでいた。
 銀子さんたちが、子ども食堂に入れないようにしている。

「何をしても、金さえ払えば許されると思わせるのは、子供の教育に悪い。
 出来の悪いガキほどちゃんと躾けてやらないといけないんだ。
 正しい罰を与えて反省させないと、もっと悪い事をするようになる。
 なにより、私たちは金で子供を売ったりしない、お前たちと同じクソじゃない!
 その金持って帰んな、ブチ殺すよ!」

「「「「「ひぃいいいいい」」」」」

 背広を着た人たちが走って逃げだした。
 銀子さんが塩をまいている、何をしているのだろう?

「お、よく来たね、昼御飯ができているよ、食べちまいな」

 銀子さんがいつものように言う。

「銀子お母さん」

 由真が走って行って銀子さんに抱きつく。
 銀子さんが抱き上げると、胸に顔をすりつける。

「お腹一杯食べて、眠くなるまでいっぱい遊ぶんだよ」

「うん!」

「樹希も早く入って食べちまいな」

「うん」

 銀子さんは由真を抱きながら子ども食堂に入った。
 入口でと僕と他の子が入るのを待ってくれた。
 由真を片手で抱いているのにゆうゆうとしている、力持ちだ。

「先に手を洗ってうがいするんだよ」

「はい!」

 銀子さんに洗面まで運んでもらった由真がうれしそうに返事する。
 
「銀子、代わるから由真の相手をしてやりない」

 子ども食堂の奥から髪を白くした白子さんが出てきて言った。

「一緒に御飯食べるかい?」

「ほんとう、ほんとうに一緒にご飯食べて良いの?」

「ああ、いいよ、今日は由真と樹希が家の子だよ」

「やったぁ~、銀子お母さん」

 由真がまた身体中で抱きつく、俺はお兄ちゃんだからそんなことしない。

「樹希も早く洗っちまいな」

「うん」

 由真の次に俺が手を洗ってうがいする。

「遠慮しないできな」

 由真を左手で抱き上げていた銀子さんが、右手で俺を抱きあげた。
 銀子さんが頬ずりしてくれる。
 銀子さんの胸に顔をうずめる由真が目の前にいて、鼻の奥がツンとした。

「今日は一緒に御昼寝してあげるから、先にお昼御飯を食べような」

「うん、お昼寝の前にご飯食べる!」

 由真がもの凄くうれしそうだ、 俺も返事しないといけない。

「うん、たべる」

「いただきます」

「「いただきます」」

 大きなお皿にケチャップ味のスパゲッティが乗っている。
 スパゲッティにはたくさんの野菜と肉だんごが入っている。
 好きなだけチーズを振りかける事ができる。

 大きなお皿にはスパゲッティだけでなく、唐揚げとフライも乗っていた。
 食べてみると大好きな鶏肉だった。
 学校や施設では数が決まっているけれど、ここでは好きなだけ食べられる。

 イスの大人たちは、ご飯も一緒に食べている。
 唐揚げやフライでご飯を食べる大人もいるけれど、スパゲッティでご飯を食べる大人がいる、おいしそうだ。

 僕も同じように食べたいのに、直ぐにお腹が一杯になっちゃう。
 最初の頃はたくさん食べる子がうらやましくて、無理に食べて苦しくなった。

 ここなら、今食べたくてもいい、後で食べてもいい、何度食べても良いと分かって、苦しくなるまで食べないようにした。

「由真ちゃんが眠っちゃったね、樹希も一緒にお昼寝するかい?」

「うん、寝る」

 お腹一杯になった由真が、銀子さんに抱きついたまま寝ちゃった。
 僕も眠くなったので、一緒にお昼寝する。
 自分で歩いて二階に行く気だったのに、銀子さんが抱っこしてくれた。

「歩き難いから樹希も抱きつきな」

「……うん」

 お兄ちゃんなのに、春には中学校なのに、妹のように銀子さんに抱きつくのは恥ずかしいのに、歩き難いのならしかたがないよな……

 銀子さんに抱っこされていると、フワフワしてくる。
 お昼寝するような小さい子じゃないのに、フワフワしてくる。
 由真を見ていてあげないといけないのに……

「おはよう、起きたかい、寝る前に歯を磨かなかったから、今磨きな」

 起きると目の前に銀子さんの顔があった。

「うん」

 銀子さんに言われて、下に降りて歯を磨こうとしたのに、また抱き上げられた。
 由真はまだ眠そうで、銀子さんの胸に顔を押し付けている。
 俺もまだ眠くて、銀子さんの胸に顔を押し付けた。

「由真、歯を洗うよ」

「……うん……」

 銀子さんが抱っこして1階まで下ろしてくれたけど、由真はまだ眠そうだ。

「樹希も磨いてやろうか?」

「自分でやる」

 もう直ぐ中学校なのに、歯まで磨いてもらうのは恥ずかしすぎる。
 直ぐに磨かないと銀子さんが磨きそうなので、慌てて磨く。
 いいかげんに磨くとやり直させられるので、ていねいに磨く。

「由真はまだ眠そうだから、このまま抱っこしてやる、樹希はどうする?」

「外で遊ぶ」

 もう俺は大きいのに、由真みたいに銀子さんに甘えるのは恥ずかしい。
 だから急いで外に出てシナノたちを遊ぶ事にした。
 外に出ると、もう他の子たちがシナノたちと遊んでいた。

「樹希も遊ぶか?!」

 同級生の男の子が誘ってくれる。
 ビニールボールの野球に入れてくれた。

 あまりやった事がないので、投げるのも打つのも捕るのも下手なのに、笑って一緒に遊んでくれる。

「おにいちゃん、わたしもやりたい」

 銀子さんに抱っこされた由真が子ども食堂から出て来て言う。
 いつの間にか時間がたっていた、おひさまの場所が違う。
 僕よりももっと下手な由真と一緒に遊んでくれるかな?

「じゃあ由真ちゃんがバッターな」

 同級生の男の子が言ってくれる。
 何度投げても打てないのに、さんしんしているはずなのに、由真があきるまでずっとボールを投げてくれた。

「……あたらない」

 由真が半泣きになった。

「由真ちゃん、転がしてあげるから、打ってみな」

 同級生の子が、ビニールボールを投げないで転がしてくれた。
 由真がプラスチックのバットを地面に沿って振る。
 
「あたった、おにいちゃん、あたった」

 由真は小さいから、当たってもとばない。
 コロコロと前に転がるだけだ。
 でも由真はおおよろこびで、跳びはねている。

「由真ちゃん、一塁に走る?」

「いちるい、はしる?」

「ボールが当たって前に転がったら、あそこに走るんだよ。
 由真ちゃんは小さいから、いやなら走らなくてもいいよ」

「はしるぅ~、しなのとおいかけっこ!」

「ウォン」

 普通なら一塁に投げてアウトなのに、ルール関係なく由真を走らせてくれる。
 由真がシナノと一緒にそこら中を走り回っている。
 ここではルールよりも楽しく遊ぶ事が大切なんだ。
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