宮廷の運命と煌めき・王族の誓い禁断の愛：王太子に婚約破棄された伯爵令嬢は拳を握る。

第2話：権力争いと父性愛

　宰相を務められるクラウゼ公爵ラファエル閣下が、語気強くジョナサン王太子殿下に詰め寄っておられます。

　何度も辞退した私や父上に、平身低頭して婚約を整えた事に責任を感じておられるのかもしれません。

　もしかしたら、我がミュラー伯爵家が激怒してワグナー王国に攻め込む事を恐れているのかもしれません。

「証拠だと、そんなものは不要だ、王太子である余が断言しているのだ！
　ラファエルは臣下であろう、臣下の分際で主人の言葉を信じず逆らうとは、ミュラー伯爵家と手を組んで謀叛を企んでいるのではないか？！」

　ああ、何と情けない人なのでしょう。
　王家王国のために、たかだか伯爵家の当主に頭をさげて、私との婚約を整えた忠臣を、謀叛人呼ばわりしています。

　そんな人との婚約が破談になった事は、むしろよかったのかもしれません。
　私のような醜い女は、結婚しない方がいいのです。

「なんという情けない事を申される。
　殿下は王家王国の現状をどう考えておられるのか！
　このままでは隣国に攻め込まれて滅んでしまうのですよ！」

「あいや、待たれよ、公爵の今の言葉は聞き捨てならん！
　公爵の言い方は、王国に碌な騎士や戦士がいないと言ったと同然だ。
　ミュラー伯爵家が味方せねば王家王国が滅ぶというような暴言は、絶対に許せん。
　このような公爵に宰相は任せられん！
　即刻辞任して王太子殿下に摂政の地位を譲られよ！」

　ああ、権力争いなのですね、私との婚約も、ミュラー伯爵家と縁を結ぼうというのも、王国内の権力争いのためだけなのですね。
　こんな時代ですから、仕方がない事なのでしょうが、哀しいです。

「すまなかったね、ソフィー、父さんに人を見る眼がなかったばかりに、ソフィーにとても哀しい思いをさせてしまったね。
　ソフィーが受けた屈辱は、父さんが晴らしてあげるからね」

　父上が二メートルに四十センチの巨漢を縮めるようにして詫びてくださいます。
　普段の父上は巌のような圧力を感じさせる偉丈夫なのに。

　その背中は広く、厚い筋肉がびっしりと詰まっています。
　大きな肩は力強く頑丈で、並の騎士の五倍もの力を誇ります。

　腕は太く、筋肉の隆起が明瞭に現れています。
　鍛え上げられた上腕二頭筋や下腕筋が、力強さと威圧感を象徴しています。
　手は大きくて指先には岩をも砕く鉄の爪が備わっています。

　胸部は広く、盛り上がった筋肉が鎧のように装甲されたように見えます。
　その胸板は頑丈で、敵の攻撃から身を守るだけでなく、圧倒的なパワーを放つ源ともなっています。

　腹部の筋肉は鍛えられ、六つに割れた腹筋が浮かび上がり、頑丈な防御壁のような役割を果たす逞しい腹筋群が力強さを示しています。

　足は太くて頑丈で、筋肉が緻密に詰まっています。
　大腿部と脚部の筋肉は発達し、上体の重量を支える力に満ちています。
　その足腰の強靭さは、長時間の戦闘や過酷な環境に耐えてきました。

　そんな父が名工の造った武具甲冑を装備して戦えば、一人で万の兵に勝るのです。
　戦場での父は味方には神であり、敵には悪魔そのものです。
　そんな父が、目に涙をためて詫びてくださっています。

　ああ、優しい父上。
　父上に瓜二つに生まれた私を不憫に思われたのか、ずっと優しく接して下さった。
　でも、私の容姿のために、父上や一族家臣領民を死傷させる訳には参りません。

　どうしても名誉を回復しなければいけないのなら、私自身が戦います！
　他の誰も傷つける訳にはいきません！

「シュナイダー侯爵、王家王国の存亡がかかった危急の時に、権力争いなど止めよ！
　今ミュラー伯爵家の助力が必要なのは貴君も分かっているだろう！」

　クラウゼ公爵とシュナイダー侯爵が争っています。

「確かに戦場の武勇だけを見れば、ミュラー伯爵家は突出しているだろう。
　だがオーガ嬢の不貞を考えれば、失礼、ソフィー嬢でしたな」

「待たれよ、今の言葉こそ聞き捨てならん。
　我が可愛い娘をオーガといったな？
　娘との婚約は、貴国の正妃と摂政が平身低頭願い出てきたモノだ。
　こちらが何度辞退しても無理矢理に進めたものだ。
　家臣の分際で、それを知らぬとは言わせぬ！
　それをオーガなどと罵るとは、貴族としても騎士としても恥知らずにも程がある。
　娘とミュラー伯爵家の名誉のために、貴君に決闘を申し込む！」