聖賢者は悪女に誑かされた婚約者の王太子に婚約を破棄され追放されました。

克全

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第一章

第3話:逃亡

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 私は、いえ、俺は生き残らなければいけないのだ。
 この国の男の希望は、全て俺が背負っているのだ。
 卑怯と言われようと、惨めだと思われようと、絶対に生き残る。
 今の状態では、勝てる可能性は限りなくゼロに近い。
 既に傷口は塞いだが、身体中から噴き出した血と一緒に、多くの魔力が失われてしまっていて、何時もの力を発揮できない。

「透明」(転移)

「「あ!」」

 フレディとマリアンが同時に驚きの声をあげた、次の瞬間俺の視界から消えた。
 二人の目の前から俺が消えたことに驚いたのだろう。
 この世界には多くの失われた魔術があるか、その一つが転移魔術だ。
 そもそも転移魔術を習得できる才能を持った者が少ない。
 才能には適正と魔力の両方が必要なのだが、その魔力が莫大に多く必要なのだ。
 それに教えてくれる師匠がいなければ、経験して学ぶことができない。

 今頃フレディとマリアンは必死で俺を探しているだろう。
 常識的に考えれば、心で唱えた転移魔術ではなく、偽装で口にした透明魔術で隠れたと思っているからだ。
 それこそ手当たり次第に剣を振り回し、魔術を放って止めを刺そうとするだろう。
 二人が間違った行動をとっている間に、できるだけ王都から離れなければいけないが、まずは体力を回復しなければいけない。

 私はその場に座り込んで、魔法袋から食料を取り出した。
 こんなことになるとは思っていなかったが、聖賢者の嗜みとして、調理済みの美味しい日常食と日持ちのする非常食、莫大な量の料理素材を保管してあった。
 魔術で体力を回復させるには、まずもとになる食事をとらなければいけない。
 傷を治すために使った脂肪と栄養素、失った血液を回復するには、肉がたっぷり入ったシチューと、砂糖をたっぷり加えたワインが必要不可欠だ。

 本当は甘ったるいワインなど飲みたくはないが、身体を治すためには、薬だと割り切って飲むしかない。
 軟らかく煮崩れた肉と根菜入りのシチューを食べ、栄養価の高い全粒粉の小麦パンを食べ、甘いワインで飲む下す。
 食べて直ぐに魔力で気血を流して消化吸収した側から更に食べる。
 同じものを食べるのも嫌ではないが、大好きなチーズとハムにも食らいつく。

 二人への怒りが食欲を増進させているのか、回復させなければいけない体力と魔力が多いのか、どれだけ食べても満足感が得られない。
 それどころかもっともっとと身体が要求する。
 それでようやく何が起こっているのか気が付いた。
 俺は、フレディの配偶者として求められていた姿から、復讐に相応しい姿に変化しようとしているのだ!
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