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第一章
第26話:再会(エマ視点)
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神歴五六九年睦月十四日:ゴート皇国ウラッハ辺境伯国境砦・エマ視点
「オオオオオ、エマ、よく戻ってきてくれた!」
ロイセン王国の国境砦を瓦礫の山に変える事ができました。
貴族なら出来て当たり前の駆け引きだと言われても、生まれて初めて人を騙す事に胸が痛みました。
ですが、お母様の救出作戦に同行するためには必要な試練です。
心を鬼にしてやりとげました。
最初に激しい炎で砦を包んだのが良かったのでしょう。
砦の責任者は抵抗しようとしましたが、騎士や徒士が逃げ出しました。
次にロイセン王国人が逃げ出しました。
それでも砦の責任者は頑張ろうとしました。
ここで私は心を鬼にしました。
「そうですか、だったらアルブレヒト王子の指を引き千切りましょう。
既に三本の指が引き千切られています。
もう一本や二本引き千切っても大した違いはありませんね。
そうそう、王子の指がなくなる原因となった者の一族一門は、どのような処分を受けたか知っておられますか?」
「分かった、人質は全員解放する!
だから王子の指を引き千切るのだけは止めてくれ!」
よかった、ここで責任者が引いてくれて本当によかった。
もしここで抵抗されたら、私には指を引き千切るなんてできませんでした。
ジークが使って手を真似しただけですが、それでも認めてくれるでしょうか?
よかった、あの表情だと合格のようですね。
最近ジークの気持ちを表情から見分けられるようになりました。
あ、私ができなくてもいいのですね。
ジョルジャが表情だけで伝えてくれます。
私に変わって指を引き千切りましたよと。
砦から全ての人が逃げ出し、ゴート皇国籍の人を保護してから、砦を完全に破壊する事で、私はジークから合格したと言われました。
そしてゆっくりとウラッハ辺境伯領側の砦に入ったら、お爺様がいたのです。
「お爺様、お母様が、お母様が、お母様が。
うわぁあああああん!」
「大丈夫だ、アンジェリカの事は何の心配もいらない。
アンジェリカには特別な護衛をつけてある。
護衛と離れ離れになっても大丈夫なように、切り札になる魔道具も渡してある。
何よりアンジェリカ自身が特殊な魔術の使い手だ。
無事なのも魔道具からの反応で分かっている。
だから安心して休むがいい」
「最初から教えておいてください!」
思わず八つ当たりしてしまいました。
お母様を護る切り札を、孫娘だからと言って教える訳にはいきません。
それは分かっているのですが、腹が立ってしまうのです。
「悪かった、全部私が悪かったから、機嫌を直してくれ。
疲れただろう、まずは休んで身体を回復させるのだ。
エマの為に皇帝の間を空けてあるから、そこで休むがいい」
「お爺様、幾ら何でも皇帝の間を使う事などできません。
お爺様の護衛や侍従が使う部屋を使わせて頂ければ十分です」
「大丈夫だ、皇帝の間を使う許可はもらっている。
許可をもらったのに使わないのは逆に不敬だ。
だから遠慮なく使えばいい」
「でしたら英雄騎士様と友の方々に使っていただいてください。
彼らが居られなければ、とても生きここにはもどって来られませんでした」
「俺達の事は気にしないでくれ。
冒険者だから、砂漠でも密林でも野宿が当たり前だ。
ベッドの有る部屋を使わせてもらえるだけで十分だ」
「そんな訳にはまいりません!
命を恩人に正当な評価と褒美を与えないようでは、貴族とは言えません!
お爺様、ジーク様達に皇帝の間を使っていただいてください」
「エマ、エマの言っている事は正しい事だが、今回はエマが使いなさい」
「何故ですか!」
「ジーク殿がエマに剣を捧げた話は聞いている。
騎士ともあろう者が、剣を捧げた令嬢を差し置いて、良い部屋を使う訳にはいかないのだよ。
ジーク殿に恥をかかせたくないのなら、今回はエマが皇帝の間を使いなさい。
ジーク殿と友の方々には貴賓室を使っていただくから、心配するな」
お爺様にそう言われてしまったら、もうこれ以上何もいません。
確かに、騎士が令嬢を差し置いて良い部屋を使う訳にはいきません。
ジークに恥をかかせる訳にはいきません。
「分かりました、では今回は皇帝の間を使わせていただきます。
本当に皇帝陛下の許可を頂いているのですよね?」
「皇帝陛下に直接許可を頂いたわけではない。
皇帝陛下の名代を務められておられる、皇子殿下から許可を受けている。
今回のロイセン王国討伐の総司令官を務められておられる方だ。
だから何の心配もいらない」
「ロイセン王国討伐でございますか?」
「そうだ、ロイセン王国はゴート皇国との盟約を破った。
アバコーン王国からの援軍を期待して、盟約を破っても大丈夫だと思ったのだろうが、連中は皇帝陛下を舐め過ぎた。
陛下の面目を潰しておいて、ただですむわけがなかろう!」
「しかしながらお爺様、北竜山脈と南竜森林でスタンピードが起きて、とても戦争などできない状態だと聞いていたのですが?」
「確かにスタンピードは大変だ。
だが何時までも続くものではない。
領民を城砦に保護して、確実にモンスターを狩れば必ず終わる。
それに、エマが大変な助っ人を連れて来てくれたから。
思っていたよりも早く終わらせられるだろう」
ジーク達の事を言っているのでしょうか?
確かに、ロイセン王国側に現れたモンスターを数日で狩り終えています。
それも、私の訓練に利用するほどの余裕を見せて。
「ウラッハ辺境伯、今回のスタンピード、あまりにタイミングが良過ぎる気がする」
「私もそのように感じていました。
まるで計ったように、アンジェリカとエマを陥れるのと同調しています。
しかも、同じ北竜山脈と南竜森林に接しているのに、ロイセン王国側にもアバコーン王国側にもスタンピードの被害が全くないのです」
「そうだな、モンスターの事情だから、一ケ所にだけスタンピードが起きる事がないとは言い切れないが、それなら俺達が近づくタイミングで、ロイセン王国側でスタンピードが起きて、俺達に襲い掛かってくるはずがない」
「その通りでございます。
ロイセン王国かアバコーン王国かは分かりませんが、何らかの方法でスタンピードを起こせるようになった者がいる。
そう考えるのが間違いないと思われます」
「向こうが認めるはずもないが、一応その事も開戦理由に入れておこう。
どれほど誤魔化そうと、客観的事実は変わらない。
スタンピードを人工的に起こせる方法があるかもしれない。
そう思ったら大陸各国も開戦に賛成してくれるだろう」
「そうでございますね。
皇国が負けてアバコーン王国が覇権を手に入れるだけでも、大陸各国にとっては存亡につながる大問題です。
その上スタンピードを起こせる技術を持っているとなれば、心情的に皇国に味方したくなるはずです」
「問題は、アバコーン王国を滅ぼして併合したゴート皇国への警戒心だな」
「それ点に関してはそれほど心配するには及ばないと思います。
皇国の覇権を恐れるあまり、アバコーン王国に覇権を握られては何の意味もありませんから、ひとまずは味方に付く事でしょう。
あれこれ言って足を引っ張ろうとするのは、早い国でロイセン王国を併合してからで、遅い国ならアバコーン王国を破ってからです」
「そうだな、それくらいのタイミングだろう。
皇帝陛下も味方に大きな被害を受けるような無理攻めはされないはずだ
出来るだけ少ない損害でアバコーン王国に大きな損害を与えた所で和平を提案し、ある程度の領地の割譲と賠償金を要求されるだろう」
「さようでございますな。
今回はロイセン王国さえ併合できれば最低限の目標は達成です。
アバコーン王国は次に失策を犯した時に併合すればいい事でございます」
「その前に皇国が失策を起こさない事を祈っているよ」
お爺様はどうされたのでしょうか?
幾らジークが私の恩人だからと言って、辺境伯ともあろう方が、まるで臣下のような話し方をされています。
ジークはアバコーン王国から上級貴族待遇の英雄騎士の称号を得ていますが、お爺様が敵性国家の称号を尊ぶとは思えません。
それに、尊ばれていたとしても、一代上級貴族待遇は伯爵から侯爵までです。
辺境伯であるお爺様が遜らなければいけない訳ではありません。
「滅多な事を口にされますな」
「そうだな、口は禍の元と言うしな。
それで、俺は何時どちらに行けばいい。
辺境伯が何を考えているか分かっているぞ」
「オオオオオ、エマ、よく戻ってきてくれた!」
ロイセン王国の国境砦を瓦礫の山に変える事ができました。
貴族なら出来て当たり前の駆け引きだと言われても、生まれて初めて人を騙す事に胸が痛みました。
ですが、お母様の救出作戦に同行するためには必要な試練です。
心を鬼にしてやりとげました。
最初に激しい炎で砦を包んだのが良かったのでしょう。
砦の責任者は抵抗しようとしましたが、騎士や徒士が逃げ出しました。
次にロイセン王国人が逃げ出しました。
それでも砦の責任者は頑張ろうとしました。
ここで私は心を鬼にしました。
「そうですか、だったらアルブレヒト王子の指を引き千切りましょう。
既に三本の指が引き千切られています。
もう一本や二本引き千切っても大した違いはありませんね。
そうそう、王子の指がなくなる原因となった者の一族一門は、どのような処分を受けたか知っておられますか?」
「分かった、人質は全員解放する!
だから王子の指を引き千切るのだけは止めてくれ!」
よかった、ここで責任者が引いてくれて本当によかった。
もしここで抵抗されたら、私には指を引き千切るなんてできませんでした。
ジークが使って手を真似しただけですが、それでも認めてくれるでしょうか?
よかった、あの表情だと合格のようですね。
最近ジークの気持ちを表情から見分けられるようになりました。
あ、私ができなくてもいいのですね。
ジョルジャが表情だけで伝えてくれます。
私に変わって指を引き千切りましたよと。
砦から全ての人が逃げ出し、ゴート皇国籍の人を保護してから、砦を完全に破壊する事で、私はジークから合格したと言われました。
そしてゆっくりとウラッハ辺境伯領側の砦に入ったら、お爺様がいたのです。
「お爺様、お母様が、お母様が、お母様が。
うわぁあああああん!」
「大丈夫だ、アンジェリカの事は何の心配もいらない。
アンジェリカには特別な護衛をつけてある。
護衛と離れ離れになっても大丈夫なように、切り札になる魔道具も渡してある。
何よりアンジェリカ自身が特殊な魔術の使い手だ。
無事なのも魔道具からの反応で分かっている。
だから安心して休むがいい」
「最初から教えておいてください!」
思わず八つ当たりしてしまいました。
お母様を護る切り札を、孫娘だからと言って教える訳にはいきません。
それは分かっているのですが、腹が立ってしまうのです。
「悪かった、全部私が悪かったから、機嫌を直してくれ。
疲れただろう、まずは休んで身体を回復させるのだ。
エマの為に皇帝の間を空けてあるから、そこで休むがいい」
「お爺様、幾ら何でも皇帝の間を使う事などできません。
お爺様の護衛や侍従が使う部屋を使わせて頂ければ十分です」
「大丈夫だ、皇帝の間を使う許可はもらっている。
許可をもらったのに使わないのは逆に不敬だ。
だから遠慮なく使えばいい」
「でしたら英雄騎士様と友の方々に使っていただいてください。
彼らが居られなければ、とても生きここにはもどって来られませんでした」
「俺達の事は気にしないでくれ。
冒険者だから、砂漠でも密林でも野宿が当たり前だ。
ベッドの有る部屋を使わせてもらえるだけで十分だ」
「そんな訳にはまいりません!
命を恩人に正当な評価と褒美を与えないようでは、貴族とは言えません!
お爺様、ジーク様達に皇帝の間を使っていただいてください」
「エマ、エマの言っている事は正しい事だが、今回はエマが使いなさい」
「何故ですか!」
「ジーク殿がエマに剣を捧げた話は聞いている。
騎士ともあろう者が、剣を捧げた令嬢を差し置いて、良い部屋を使う訳にはいかないのだよ。
ジーク殿に恥をかかせたくないのなら、今回はエマが皇帝の間を使いなさい。
ジーク殿と友の方々には貴賓室を使っていただくから、心配するな」
お爺様にそう言われてしまったら、もうこれ以上何もいません。
確かに、騎士が令嬢を差し置いて良い部屋を使う訳にはいきません。
ジークに恥をかかせる訳にはいきません。
「分かりました、では今回は皇帝の間を使わせていただきます。
本当に皇帝陛下の許可を頂いているのですよね?」
「皇帝陛下に直接許可を頂いたわけではない。
皇帝陛下の名代を務められておられる、皇子殿下から許可を受けている。
今回のロイセン王国討伐の総司令官を務められておられる方だ。
だから何の心配もいらない」
「ロイセン王国討伐でございますか?」
「そうだ、ロイセン王国はゴート皇国との盟約を破った。
アバコーン王国からの援軍を期待して、盟約を破っても大丈夫だと思ったのだろうが、連中は皇帝陛下を舐め過ぎた。
陛下の面目を潰しておいて、ただですむわけがなかろう!」
「しかしながらお爺様、北竜山脈と南竜森林でスタンピードが起きて、とても戦争などできない状態だと聞いていたのですが?」
「確かにスタンピードは大変だ。
だが何時までも続くものではない。
領民を城砦に保護して、確実にモンスターを狩れば必ず終わる。
それに、エマが大変な助っ人を連れて来てくれたから。
思っていたよりも早く終わらせられるだろう」
ジーク達の事を言っているのでしょうか?
確かに、ロイセン王国側に現れたモンスターを数日で狩り終えています。
それも、私の訓練に利用するほどの余裕を見せて。
「ウラッハ辺境伯、今回のスタンピード、あまりにタイミングが良過ぎる気がする」
「私もそのように感じていました。
まるで計ったように、アンジェリカとエマを陥れるのと同調しています。
しかも、同じ北竜山脈と南竜森林に接しているのに、ロイセン王国側にもアバコーン王国側にもスタンピードの被害が全くないのです」
「そうだな、モンスターの事情だから、一ケ所にだけスタンピードが起きる事がないとは言い切れないが、それなら俺達が近づくタイミングで、ロイセン王国側でスタンピードが起きて、俺達に襲い掛かってくるはずがない」
「その通りでございます。
ロイセン王国かアバコーン王国かは分かりませんが、何らかの方法でスタンピードを起こせるようになった者がいる。
そう考えるのが間違いないと思われます」
「向こうが認めるはずもないが、一応その事も開戦理由に入れておこう。
どれほど誤魔化そうと、客観的事実は変わらない。
スタンピードを人工的に起こせる方法があるかもしれない。
そう思ったら大陸各国も開戦に賛成してくれるだろう」
「そうでございますね。
皇国が負けてアバコーン王国が覇権を手に入れるだけでも、大陸各国にとっては存亡につながる大問題です。
その上スタンピードを起こせる技術を持っているとなれば、心情的に皇国に味方したくなるはずです」
「問題は、アバコーン王国を滅ぼして併合したゴート皇国への警戒心だな」
「それ点に関してはそれほど心配するには及ばないと思います。
皇国の覇権を恐れるあまり、アバコーン王国に覇権を握られては何の意味もありませんから、ひとまずは味方に付く事でしょう。
あれこれ言って足を引っ張ろうとするのは、早い国でロイセン王国を併合してからで、遅い国ならアバコーン王国を破ってからです」
「そうだな、それくらいのタイミングだろう。
皇帝陛下も味方に大きな被害を受けるような無理攻めはされないはずだ
出来るだけ少ない損害でアバコーン王国に大きな損害を与えた所で和平を提案し、ある程度の領地の割譲と賠償金を要求されるだろう」
「さようでございますな。
今回はロイセン王国さえ併合できれば最低限の目標は達成です。
アバコーン王国は次に失策を犯した時に併合すればいい事でございます」
「その前に皇国が失策を起こさない事を祈っているよ」
お爺様はどうされたのでしょうか?
幾らジークが私の恩人だからと言って、辺境伯ともあろう方が、まるで臣下のような話し方をされています。
ジークはアバコーン王国から上級貴族待遇の英雄騎士の称号を得ていますが、お爺様が敵性国家の称号を尊ぶとは思えません。
それに、尊ばれていたとしても、一代上級貴族待遇は伯爵から侯爵までです。
辺境伯であるお爺様が遜らなければいけない訳ではありません。
「滅多な事を口にされますな」
「そうだな、口は禍の元と言うしな。
それで、俺は何時どちらに行けばいい。
辺境伯が何を考えているか分かっているぞ」
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