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第一章
第14話:反省(エマ視点)
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神歴五六九年睦月七日:王都郊外・エマ視点
英雄騎士様には助けていただいた恩があります。
一国を相手に戦う以上、ある程度の狡さが必要なのも理解しています。
しかしながら、幾ら何でもやり過ぎだと思うのです。
「お嬢様、余計な事は申されませんように」
「ですが、幾ら何でも騎士団員が文句を言っただけで指を千切るのはやり過ぎです。
そのような暴挙を見過ごしていては、貴族としての名誉が地に落ちます。
いえ、私の名誉はどうでも良いのです。
しかし、お母様と御爺様の名誉が汚される事だけは見過ごせません」
「お嬢様、確かに普通の場合でしたら遣り過ぎで許されない事でございます。
しかしながら今は戦時でございます。
戦時には礼儀作法を無視しなければいけない場合があるのです」
「ですがジョルジャ」
「それに、先に騎士の捕虜宣誓を破ったのはロイセン王国の騎士です。
それも一人二人ではなく、百人が部隊を組んで集団で破ったのです。
その責任は、一国の代表である王族がとらなければいけません。
もしグダニスク公爵家の家臣や使用人が、約束を破って誰かに損害を与えたとしたら、お嬢様は下の者が勝手にやった事だからといって、謝りもせず賠償もせずにすまされますか?」
「そのような事は絶対にしません!
公爵令嬢として責任を取って謝り、損害額以上の賠償をし、被害を与えた家臣使用人にそれ相応の罰を与えます」
「今回英雄騎士様の仲間がやられたのも同じ事でございます。
騎士団員達が騎士の捕虜宣誓を破ったにもかかわらず、王子はもちろん他の騎士団員は謝りもしない、それどころ逆らに文句を言いました。
それに対する罰を与えられただけです」
「私も罰をあたえるのが悪いと言っている訳ではありません。
罰をあたえる相手が違うのと、与えた罰が重すぎると言っているのです」
「お嬢様、お嬢様は家臣使用人、いえ、領民に対する責任を分かっておられますか?
お嬢様の一挙手一投足、言葉一つで餓死する者や嬲り殺しになる者がいるのです」
「それはお母様はもちろんジョルジャ達からも何度も言われて覚えています。
それが英雄騎士様の行いと関係あるのですか?」
「お嬢様は英雄騎士様が背負っておられるモノが見えておられません」
「英雄騎士様が背負っておられるモノ?」
「英雄騎士様は、黙って見ていればその地位も名誉も安泰であられたのに、お嬢様のためにその全てを投げだしてくださいました。
お嬢様をお助けするのに最善だと思われる方法を取られているのです」
「私、抵抗出来ない王子の指を引き千切ってまで助かりたいとは思っておりません。
正々堂々と戦って命を奪うのは躊躇いませんが、弱い者虐めはいたしません!」
「それで志半ばで死ぬことになって、アンジェリカ様を助けられなくてもですか?」
「それは……」
「それに、お嬢様を助けるために全てを捨ててくれたのは英雄騎士様だけではありませんよ、分かっておられるのですか!?」
「……それは」
「冒険者やその家族の方々は、この戦いに負けたらどのような目にあわされるか、分かっておられるのですか!?」
「ごめんなさい、私が愚かで身勝手でした」
「形だけ謝ってすむような軽い問題ではありません!
心から反省し、これからの言動を改めなければ、お嬢様のために命懸けで働いてくれている人々が、生まれてきた事を後悔するほどの残虐な殺され方をするのですよ!
自分独りが奇麗に名誉ある生き方をするために、一万人もの人々を。
それも、お嬢様のために命を懸けてくださっている方々を、汚辱に満ちた死に方をさせると申されるのですか?!」
「ごめんなさい、心から反省して言動を改めます。
もう二度と、自分の名誉を優先して、恩人の方々の命と誇りを軽んじるような事はしません」
「分かってくだされば結構です。
今言った事を全てのみ込んだ上で、英雄騎士様は仲間がやった事に何も申されず、自分が責任を背負われているのです。
お嬢様はウラッハ辺境伯の孫娘でアンジェリカ様の愛娘なのです。
お二方に恥をかかせるような事は二度と口にされますな!」
「はい、ごめんなさい、同じ過ちはもう二度としません」
本当に申しわけない事を考え口にしてしまいました。
ジョルジャがここまで厳しく繰り返し怒る事など、滅多にありません。
何も分かっていなかった幼い頃、残虐に弱い虫を殺した時以来でしょうか?
ジョルジャに叱られて、改めて英雄騎士様達の言動をよくみるようにしました。
そうして分かった事は、信じられないほど細やかな配慮をされている事です。
私だって、冒険者家族に対する配慮はしてきました。
言葉かけはもちろん、ケガをした子供達に回復魔術も使いました。
ですがそれは、ケガをした後に対処しただけでした。
それに比べて英雄騎士様達は、子供達はもちろん大人の冒険者達まで、ケガをしないように事前に十分な準備をされていたのです。
人質にした第三騎士団の者達を移動させる時の人数や隊列、食事の時間や順番まで、私のために集まってくれた人々が、僅かでも傷つかないようにしてくださっていたのです。
その現実を見せつけられて、私がいかに身勝手で視野が狭かったのか思い知らされ、愕然としてしまいました。
お母様やジョルジャ達に厳しく躾けてもらい、公爵家の令嬢として恥ずかしくない女性になったと思っていましたが、それは大きな思い上がりでした。
私は世間知らずの箱入り娘だったのです。
現実を何も分かっていない、口だけの貴族令嬢だったのです。
こんな状態で王子妃、王妃にならなくて本当に良かった。
出来の悪い王子を支えてこの国を良くする心算で、逆に民を苦しめ国を滅ぼしてしまっていたかもしれません。
「ジョルジャ、私はどうすればいいのですか?」
「お嬢様が理想通りの生き方をしたいと思われるのでしたら、何も問題のない時から不断の努力をなされ、何が起きようと大丈夫な準備をしなければなりません」
「これまでも学問に魔術、武術や礼儀作法も手を抜くことなく学んできた心算ですが、あれでは足りないのですか?」
「お嬢様が努力されてきたのは良く知っております。
しかしながら、これまでの努力は机上の空論。
実際にお嬢様が世の中に対して実践されたわけではありません。
領民に対する声かけ一つでも、頭の中でやるのと実際に話しかけるのでは、全く違ってくるのです」
「そういうものなのですか?」
「はい、そういうものなのです。
領民にも英雄騎士様達のような善良で誇り高い方もおられれば、粗相王子達のような者もいて、最悪の場合、お嬢様を手籠めにしようとする事もあるのです」
「以前の勉強で、そのような者がいるから気をつけろと言っていましたね」
「供の者がいる場合、非常時でお嬢様しかおられない場合。
武器を持っている場合、何の武器もない場合。
相手が独りの場合や複数の場合。
お嬢様が万全な場合とケガをしていて力を発揮できない場合。
ありとあらゆる場面で言動が違ってきます」
「それを全て事前に考えておかなければいけないのですか?」
「考えておくだけでよかったのがこれまででございます。
これからは実際にやっていただかなければなりません。
英雄騎士様達だけに泥をかぶらせるわけにはいきません!」
「分かっています。
陰であれだけ偉そうなことを口にして、英雄騎士様達を貶めたのです。
自分だけが奇麗な状態を保とうすることが、恥だと言うくらいは分かっています。
ただ、何からすればいいかが分かりません。
王子達に厳しく接する事から始めればいいですか?」
「いえ、まずが軍資金を確保する事から始めていただきます。
何を置いても兵糧と軍資金を確保するのが最優先です。
地位と名誉を捨てて助けていただいている英雄騎士様に、兵糧や軍資金までお世話になるわけには参りません」
「そうでしたね、食糧の確保を英雄騎士様にして頂いているのでした。
後で渡せばいいというものではありませんね」
「今飢え死にしかかっている者に、明日のごちそうを約束しても、見殺しにするだけでございます。
とはいえ、英雄騎士様が民を飢えさせるのを恐れて食糧の購入を断念されておられるのに、お嬢様が無理矢理民から購入するわけにはいきません。
とは言っても、ウラッハ辺境伯閣下が支援してくださる地域まではまだまだ遠い。
ここはお嬢様の宝飾品をお渡しして、軍資金の足しにして頂くしかありません」
「そうですか、それくらいしかできる事はないのですね」
「はい……いえ、丁度良い所に愚か者がやってきてくれました」
「待て下郎共、俺様が来たからにはもう逃げられないぞ!」
英雄騎士様には助けていただいた恩があります。
一国を相手に戦う以上、ある程度の狡さが必要なのも理解しています。
しかしながら、幾ら何でもやり過ぎだと思うのです。
「お嬢様、余計な事は申されませんように」
「ですが、幾ら何でも騎士団員が文句を言っただけで指を千切るのはやり過ぎです。
そのような暴挙を見過ごしていては、貴族としての名誉が地に落ちます。
いえ、私の名誉はどうでも良いのです。
しかし、お母様と御爺様の名誉が汚される事だけは見過ごせません」
「お嬢様、確かに普通の場合でしたら遣り過ぎで許されない事でございます。
しかしながら今は戦時でございます。
戦時には礼儀作法を無視しなければいけない場合があるのです」
「ですがジョルジャ」
「それに、先に騎士の捕虜宣誓を破ったのはロイセン王国の騎士です。
それも一人二人ではなく、百人が部隊を組んで集団で破ったのです。
その責任は、一国の代表である王族がとらなければいけません。
もしグダニスク公爵家の家臣や使用人が、約束を破って誰かに損害を与えたとしたら、お嬢様は下の者が勝手にやった事だからといって、謝りもせず賠償もせずにすまされますか?」
「そのような事は絶対にしません!
公爵令嬢として責任を取って謝り、損害額以上の賠償をし、被害を与えた家臣使用人にそれ相応の罰を与えます」
「今回英雄騎士様の仲間がやられたのも同じ事でございます。
騎士団員達が騎士の捕虜宣誓を破ったにもかかわらず、王子はもちろん他の騎士団員は謝りもしない、それどころ逆らに文句を言いました。
それに対する罰を与えられただけです」
「私も罰をあたえるのが悪いと言っている訳ではありません。
罰をあたえる相手が違うのと、与えた罰が重すぎると言っているのです」
「お嬢様、お嬢様は家臣使用人、いえ、領民に対する責任を分かっておられますか?
お嬢様の一挙手一投足、言葉一つで餓死する者や嬲り殺しになる者がいるのです」
「それはお母様はもちろんジョルジャ達からも何度も言われて覚えています。
それが英雄騎士様の行いと関係あるのですか?」
「お嬢様は英雄騎士様が背負っておられるモノが見えておられません」
「英雄騎士様が背負っておられるモノ?」
「英雄騎士様は、黙って見ていればその地位も名誉も安泰であられたのに、お嬢様のためにその全てを投げだしてくださいました。
お嬢様をお助けするのに最善だと思われる方法を取られているのです」
「私、抵抗出来ない王子の指を引き千切ってまで助かりたいとは思っておりません。
正々堂々と戦って命を奪うのは躊躇いませんが、弱い者虐めはいたしません!」
「それで志半ばで死ぬことになって、アンジェリカ様を助けられなくてもですか?」
「それは……」
「それに、お嬢様を助けるために全てを捨ててくれたのは英雄騎士様だけではありませんよ、分かっておられるのですか!?」
「……それは」
「冒険者やその家族の方々は、この戦いに負けたらどのような目にあわされるか、分かっておられるのですか!?」
「ごめんなさい、私が愚かで身勝手でした」
「形だけ謝ってすむような軽い問題ではありません!
心から反省し、これからの言動を改めなければ、お嬢様のために命懸けで働いてくれている人々が、生まれてきた事を後悔するほどの残虐な殺され方をするのですよ!
自分独りが奇麗に名誉ある生き方をするために、一万人もの人々を。
それも、お嬢様のために命を懸けてくださっている方々を、汚辱に満ちた死に方をさせると申されるのですか?!」
「ごめんなさい、心から反省して言動を改めます。
もう二度と、自分の名誉を優先して、恩人の方々の命と誇りを軽んじるような事はしません」
「分かってくだされば結構です。
今言った事を全てのみ込んだ上で、英雄騎士様は仲間がやった事に何も申されず、自分が責任を背負われているのです。
お嬢様はウラッハ辺境伯の孫娘でアンジェリカ様の愛娘なのです。
お二方に恥をかかせるような事は二度と口にされますな!」
「はい、ごめんなさい、同じ過ちはもう二度としません」
本当に申しわけない事を考え口にしてしまいました。
ジョルジャがここまで厳しく繰り返し怒る事など、滅多にありません。
何も分かっていなかった幼い頃、残虐に弱い虫を殺した時以来でしょうか?
ジョルジャに叱られて、改めて英雄騎士様達の言動をよくみるようにしました。
そうして分かった事は、信じられないほど細やかな配慮をされている事です。
私だって、冒険者家族に対する配慮はしてきました。
言葉かけはもちろん、ケガをした子供達に回復魔術も使いました。
ですがそれは、ケガをした後に対処しただけでした。
それに比べて英雄騎士様達は、子供達はもちろん大人の冒険者達まで、ケガをしないように事前に十分な準備をされていたのです。
人質にした第三騎士団の者達を移動させる時の人数や隊列、食事の時間や順番まで、私のために集まってくれた人々が、僅かでも傷つかないようにしてくださっていたのです。
その現実を見せつけられて、私がいかに身勝手で視野が狭かったのか思い知らされ、愕然としてしまいました。
お母様やジョルジャ達に厳しく躾けてもらい、公爵家の令嬢として恥ずかしくない女性になったと思っていましたが、それは大きな思い上がりでした。
私は世間知らずの箱入り娘だったのです。
現実を何も分かっていない、口だけの貴族令嬢だったのです。
こんな状態で王子妃、王妃にならなくて本当に良かった。
出来の悪い王子を支えてこの国を良くする心算で、逆に民を苦しめ国を滅ぼしてしまっていたかもしれません。
「ジョルジャ、私はどうすればいいのですか?」
「お嬢様が理想通りの生き方をしたいと思われるのでしたら、何も問題のない時から不断の努力をなされ、何が起きようと大丈夫な準備をしなければなりません」
「これまでも学問に魔術、武術や礼儀作法も手を抜くことなく学んできた心算ですが、あれでは足りないのですか?」
「お嬢様が努力されてきたのは良く知っております。
しかしながら、これまでの努力は机上の空論。
実際にお嬢様が世の中に対して実践されたわけではありません。
領民に対する声かけ一つでも、頭の中でやるのと実際に話しかけるのでは、全く違ってくるのです」
「そういうものなのですか?」
「はい、そういうものなのです。
領民にも英雄騎士様達のような善良で誇り高い方もおられれば、粗相王子達のような者もいて、最悪の場合、お嬢様を手籠めにしようとする事もあるのです」
「以前の勉強で、そのような者がいるから気をつけろと言っていましたね」
「供の者がいる場合、非常時でお嬢様しかおられない場合。
武器を持っている場合、何の武器もない場合。
相手が独りの場合や複数の場合。
お嬢様が万全な場合とケガをしていて力を発揮できない場合。
ありとあらゆる場面で言動が違ってきます」
「それを全て事前に考えておかなければいけないのですか?」
「考えておくだけでよかったのがこれまででございます。
これからは実際にやっていただかなければなりません。
英雄騎士様達だけに泥をかぶらせるわけにはいきません!」
「分かっています。
陰であれだけ偉そうなことを口にして、英雄騎士様達を貶めたのです。
自分だけが奇麗な状態を保とうすることが、恥だと言うくらいは分かっています。
ただ、何からすればいいかが分かりません。
王子達に厳しく接する事から始めればいいですか?」
「いえ、まずが軍資金を確保する事から始めていただきます。
何を置いても兵糧と軍資金を確保するのが最優先です。
地位と名誉を捨てて助けていただいている英雄騎士様に、兵糧や軍資金までお世話になるわけには参りません」
「そうでしたね、食糧の確保を英雄騎士様にして頂いているのでした。
後で渡せばいいというものではありませんね」
「今飢え死にしかかっている者に、明日のごちそうを約束しても、見殺しにするだけでございます。
とはいえ、英雄騎士様が民を飢えさせるのを恐れて食糧の購入を断念されておられるのに、お嬢様が無理矢理民から購入するわけにはいきません。
とは言っても、ウラッハ辺境伯閣下が支援してくださる地域まではまだまだ遠い。
ここはお嬢様の宝飾品をお渡しして、軍資金の足しにして頂くしかありません」
「そうですか、それくらいしかできる事はないのですね」
「はい……いえ、丁度良い所に愚か者がやってきてくれました」
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