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第一章
第1話:プロローグ
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「昨日の朝、○○府○○市の神社で首を吊った男性の遺体が発見されました」
高橋嘉一は何もかも嫌になって、軽く死んでしまいたいと思っていた。
愛していた家族がいなくなり、憎んではいたものの、それでも肉親の情を断ち切れなかった母も逝って、これ以上生きていく気力を失っていた。
そんな時に、家の直ぐ近くにある地域の氏神様の境内で、首吊り自殺があった。
嘉一はニュースを聞いて幼い頃によく遊んだ氏神様だと直ぐに気がついた。
ほとんど家からでなくなっていた嘉一だが、家の前にある参道を、普段とは比べ物にならないくらい、多くの地区住民が歩いていた事には気がついていた。
テレビでは場所を特定できるような話しはしていなかったが、昔から勘がよかった嘉一には、直ぐに首吊りが行われたのが氏神様だと分かった。
だからといって、わざわざ氏神様の境内に見に行こうとは思っていなかった。
「今朝も○○市の神社で首を吊った男性の遺体が発見されました」
翌々日の昼前に、SNSをチェックしていると、朝から気になっていた事の確証が得られるニュースが流れてきた。
気になる事とは、十時頃になってから事務所の窓に多くの人影が写っていた事だ。
自宅と違って防音機能な全くないプレハブの事務所では、表を歩く人の声を断ち切る事などできず、邪悪な喜びに満ちた噂話が聞こえてきてしまう。
「ねえ、また首吊りだって、どうなっているのかしら」
「怨霊じゃないの、先に自殺した人が引きずり込んだのよ」
「やぁあ、こわぁあい、私も引きずり込まれちゃうんじゃないの」
「怖いのなら行くのやめる」
「いやぁよ、こんないいネタ、早々ないわよ。
せっかく近くで連続自殺があったのよ、このネタで『いいね』の数を稼がないと」
「悪い奴ね」
「あなたに言われたくないわよ」
「「きゃははははは」」
嘉一は浅ましく汚い会話があまりにも長く続くので、防音の整った母屋に戻りたくなったが、ネット環境が整っているのは事務所だけなので、我慢して残っていた。
機械音痴の嘉一はスマホの使い方が分からず、SNSをする時にはパソコンのある事務所に行くしかなかった。
ほとんどの事が嫌になり、極力現実との繋がりを断とうとしている嘉一ではあったが、長年書き続けているネット小説だけは執着していた。
それに、自営業を辞めてしまい、自宅のローンと中小企業退職金基金から取り崩した貯金がほぼ同額の嘉一にとって、小説投稿で得られるインセンティブとリワードだけが生活の糧になっていた。
だから耳を塞ぎたいような噂話が聞こえてこようと、事務所に行って小説投稿を続けるしかなかった。
「今日も首吊り自殺者がでてしまったようですね、いかが思われますか」
「政府の経済政策が失敗したにもかかわらず、福祉行政を疎かにしているせいで、絶望した人が自殺しているように思われます」
「確かにその通りですね、政府の早急な福祉対策が求められますね」
反日反政府系のテレビ局がまた政府批判をしている。
何時でも、何処でも、何であろうと政府が悪いと繰り返す。
何があろうと最後には政府が悪いと結論付ける。
自国の首相を辞任に追い込むほどの力を持ったマスメディアが、一方的に政府批判だけを繰り返し、自分達の悪事は隠蔽する。
そんな国になってしまった日本の将来に、嘉一は絶望を感じてしまっていた。
「○○府○○市の神社で七人連続首吊り自殺」
今日もSNSに自殺の情報が流れていた。
聞きたくもない噂は、表の参道を通って自殺現場を見に行く連中が話すので、嘉一も色々と耳にしていた。
だが、確かな情報は何も分かっていなかった。
だからついSNSに流れてくるニュースを開いてしまう。
マスメディアの情報など当てにならないと思っている嘉一ではあるが、それでもSNSの情報を目にして信じてしまう事があった。
この時の嘉一も、血宅近くで起きている連続自殺に関する情報を、積極的に集めてしまっていたのだ。
家の前を通る野次馬と大差ない、閲覧数を増やしたいだけの根も葉もない記事を読んで、多少は真実が含まれているのではないかと思ってしまっていた。
「連続首吊り九人目、ついに本殿に入り込んで自殺」
嘉一は毎日聞かされる野次馬の悪意ある噂話や、SNSに氾濫する欲望に歪められた情報に影響されていたのかもしれない。
野次馬がいなくなる深夜に氏神様に行くという暴挙に出てしまった。
本来小心で憶病な嘉一する事とは、とても思えない行動だった。
まるで何者かに操られるように、フラフラと氏神様の境内に歩いていった。
嘉一は、ふわふわと白い霧の中を歩いているような気分だった。
連続自殺を警戒した警察と地域の壮年団や青年団が、交代で境内に入り込む人間を見張っているので、嘉一は境内に入り込めないはずなのだ。
それなのに、嘉一の歩く先には、警察官も地域の人間も全くいなかった。
嘉一は鳥居を避けて境内に入り、本殿にまで続く最初の階段を登った
最初の階段が終わる狭い平地。
手水舎と小屋のある場所で手を清める事もなく、次の階段を登る。
登り切った場所には二頭の狛犬が護る本殿があった。
ついに自殺者が中に入ってしまい、穢されてしまった本殿だった。
嘉一も賽銭箱を乗り越えて本殿の中に入ろうとしていた。
「もうこれ以上好き勝手な事はさせませんよ、縊鬼。
お前が宮を穢した事で石長がとても心を痛めています。
力づくでも輪廻に戻してあげますから、覚悟しなさい」
そう言った男は、右手に持った直刀の宝剣で嘉一を頭から斬った。
斬った宝剣は頭から胸まで降りていたが、頭が粉砕されるどころか血も流れない。
まるで蜃気楼の身体を斬ったような状態だった。
いや、剣自体がこの世のものではなかったのだ。
宝剣が胸から引き抜かれた時に、嘉一の身体からは恐ろしい姿をした縊鬼が引きずり出されていた。
引きずり出された縊鬼に向かって宝剣を持った漢が念仏を唱えた。
その念仏を聞いた縊鬼が凄まじい悲鳴を上げて苦しみだした。
その悲鳴の大きさは、深夜の境内だけでなく、周囲の住宅にも及ぶはずだった。
この世界が現世であれば。
だがこの場は現世ではなく常世だった。
「おや、困った事ですね、死んではいないのにまだ常世の残ってしまっていますね。
本人の問題なのか、それとも縊鬼の影響が強すぎたのでしょうか。
あるいは、石長が清め直した本殿の力を受けてしまったのか。
この者をどうするのか、私一人で決めてはいけないでしょうね」
宝剣を持った男が見ている先には、本殿内に倒れる嘉一がいた。
高橋嘉一は何もかも嫌になって、軽く死んでしまいたいと思っていた。
愛していた家族がいなくなり、憎んではいたものの、それでも肉親の情を断ち切れなかった母も逝って、これ以上生きていく気力を失っていた。
そんな時に、家の直ぐ近くにある地域の氏神様の境内で、首吊り自殺があった。
嘉一はニュースを聞いて幼い頃によく遊んだ氏神様だと直ぐに気がついた。
ほとんど家からでなくなっていた嘉一だが、家の前にある参道を、普段とは比べ物にならないくらい、多くの地区住民が歩いていた事には気がついていた。
テレビでは場所を特定できるような話しはしていなかったが、昔から勘がよかった嘉一には、直ぐに首吊りが行われたのが氏神様だと分かった。
だからといって、わざわざ氏神様の境内に見に行こうとは思っていなかった。
「今朝も○○市の神社で首を吊った男性の遺体が発見されました」
翌々日の昼前に、SNSをチェックしていると、朝から気になっていた事の確証が得られるニュースが流れてきた。
気になる事とは、十時頃になってから事務所の窓に多くの人影が写っていた事だ。
自宅と違って防音機能な全くないプレハブの事務所では、表を歩く人の声を断ち切る事などできず、邪悪な喜びに満ちた噂話が聞こえてきてしまう。
「ねえ、また首吊りだって、どうなっているのかしら」
「怨霊じゃないの、先に自殺した人が引きずり込んだのよ」
「やぁあ、こわぁあい、私も引きずり込まれちゃうんじゃないの」
「怖いのなら行くのやめる」
「いやぁよ、こんないいネタ、早々ないわよ。
せっかく近くで連続自殺があったのよ、このネタで『いいね』の数を稼がないと」
「悪い奴ね」
「あなたに言われたくないわよ」
「「きゃははははは」」
嘉一は浅ましく汚い会話があまりにも長く続くので、防音の整った母屋に戻りたくなったが、ネット環境が整っているのは事務所だけなので、我慢して残っていた。
機械音痴の嘉一はスマホの使い方が分からず、SNSをする時にはパソコンのある事務所に行くしかなかった。
ほとんどの事が嫌になり、極力現実との繋がりを断とうとしている嘉一ではあったが、長年書き続けているネット小説だけは執着していた。
それに、自営業を辞めてしまい、自宅のローンと中小企業退職金基金から取り崩した貯金がほぼ同額の嘉一にとって、小説投稿で得られるインセンティブとリワードだけが生活の糧になっていた。
だから耳を塞ぎたいような噂話が聞こえてこようと、事務所に行って小説投稿を続けるしかなかった。
「今日も首吊り自殺者がでてしまったようですね、いかが思われますか」
「政府の経済政策が失敗したにもかかわらず、福祉行政を疎かにしているせいで、絶望した人が自殺しているように思われます」
「確かにその通りですね、政府の早急な福祉対策が求められますね」
反日反政府系のテレビ局がまた政府批判をしている。
何時でも、何処でも、何であろうと政府が悪いと繰り返す。
何があろうと最後には政府が悪いと結論付ける。
自国の首相を辞任に追い込むほどの力を持ったマスメディアが、一方的に政府批判だけを繰り返し、自分達の悪事は隠蔽する。
そんな国になってしまった日本の将来に、嘉一は絶望を感じてしまっていた。
「○○府○○市の神社で七人連続首吊り自殺」
今日もSNSに自殺の情報が流れていた。
聞きたくもない噂は、表の参道を通って自殺現場を見に行く連中が話すので、嘉一も色々と耳にしていた。
だが、確かな情報は何も分かっていなかった。
だからついSNSに流れてくるニュースを開いてしまう。
マスメディアの情報など当てにならないと思っている嘉一ではあるが、それでもSNSの情報を目にして信じてしまう事があった。
この時の嘉一も、血宅近くで起きている連続自殺に関する情報を、積極的に集めてしまっていたのだ。
家の前を通る野次馬と大差ない、閲覧数を増やしたいだけの根も葉もない記事を読んで、多少は真実が含まれているのではないかと思ってしまっていた。
「連続首吊り九人目、ついに本殿に入り込んで自殺」
嘉一は毎日聞かされる野次馬の悪意ある噂話や、SNSに氾濫する欲望に歪められた情報に影響されていたのかもしれない。
野次馬がいなくなる深夜に氏神様に行くという暴挙に出てしまった。
本来小心で憶病な嘉一する事とは、とても思えない行動だった。
まるで何者かに操られるように、フラフラと氏神様の境内に歩いていった。
嘉一は、ふわふわと白い霧の中を歩いているような気分だった。
連続自殺を警戒した警察と地域の壮年団や青年団が、交代で境内に入り込む人間を見張っているので、嘉一は境内に入り込めないはずなのだ。
それなのに、嘉一の歩く先には、警察官も地域の人間も全くいなかった。
嘉一は鳥居を避けて境内に入り、本殿にまで続く最初の階段を登った
最初の階段が終わる狭い平地。
手水舎と小屋のある場所で手を清める事もなく、次の階段を登る。
登り切った場所には二頭の狛犬が護る本殿があった。
ついに自殺者が中に入ってしまい、穢されてしまった本殿だった。
嘉一も賽銭箱を乗り越えて本殿の中に入ろうとしていた。
「もうこれ以上好き勝手な事はさせませんよ、縊鬼。
お前が宮を穢した事で石長がとても心を痛めています。
力づくでも輪廻に戻してあげますから、覚悟しなさい」
そう言った男は、右手に持った直刀の宝剣で嘉一を頭から斬った。
斬った宝剣は頭から胸まで降りていたが、頭が粉砕されるどころか血も流れない。
まるで蜃気楼の身体を斬ったような状態だった。
いや、剣自体がこの世のものではなかったのだ。
宝剣が胸から引き抜かれた時に、嘉一の身体からは恐ろしい姿をした縊鬼が引きずり出されていた。
引きずり出された縊鬼に向かって宝剣を持った漢が念仏を唱えた。
その念仏を聞いた縊鬼が凄まじい悲鳴を上げて苦しみだした。
その悲鳴の大きさは、深夜の境内だけでなく、周囲の住宅にも及ぶはずだった。
この世界が現世であれば。
だがこの場は現世ではなく常世だった。
「おや、困った事ですね、死んではいないのにまだ常世の残ってしまっていますね。
本人の問題なのか、それとも縊鬼の影響が強すぎたのでしょうか。
あるいは、石長が清め直した本殿の力を受けてしまったのか。
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