8 / 13
第一章
第8話:国籍
しおりを挟む
帝国歴222年4月13日:ジョルダーノ商会客間(幼女の家)
「ミア様の事情は理解させていただきました。
まさか、ミア様がカタ―ニョ公爵家の御令嬢だったとは。
色々と噂は聞いていたのですが、見た目の年齢が一致しませんでした。
とても18歳とは思えません。
13歳前後だと思い込んでいました。
まともに成長できないほど酷い扱いを受けられていたのですね」
シモーネはベニートに、ミアの正体と事情、今の状況を正直に伝えた。
その方が後に裏切られる事がないと思ったのだ。
ベニートが必ず王家や公爵家と敵対してくれると思っていたわけではない。
娘の恩人を売るようなら、情け容赦なく殺す覚悟を定めていた。
日本の戦後生まれでも、異世界に転生して20年、後継者争いが激しい皇室で育てば、生き延びる為にそれくらいの冷酷さは身に付ける。
「ああ、信じられない扱いだが、これが現実だ。
助けようと思えば、王家と公爵家を敵に回す事になる。
下手をすれば刺客が送られてくるだろう。
だが、これほど心清らかな令嬢を見殺しにはできない。
命懸けで助ける決意をした」
「私も王国では多少は名の知られた商人でございます。
商人が1番大切にしなければいけないのは信用です。
娘の恩人を見殺しにしたと知られては、今後の商売に差し障ります。
私もミア様の味方をさせていただきます」
「そうか、そう言ってもらえると助かる。
だが、ベニート殿に自分の命や家族の命を賭けろとまで言う気はない。
正直に話すが、我らの母国はグレリア帝国なのだ。
今回は、知見を広げる為に、北大陸の属国であるこの国に遊学していたのだ」
「ほう、グレリア帝国の方だったのですね。
これは奇縁なのでしょうか?
私の商会は、グレリア帝国との交易を主な商いにさせて頂いています」
ベニートの目に殺気とも言える気合が籠った。
これが何かの策略ならば、必ず見抜いて見せるとの覚悟だった。
「家中の者からそう報告を受けたから、真実を話したのだ。
本当なら大使館を通じて帰国船を用意させるのだが、王家や公爵家が体面を気にしてミア嬢を殺す覚悟していたら、大使館を通じて文句を言ったのが仇になる」
「大使館を通じて文句を言われたのですか?
貴方様は何方なのですか?」
「口で正体を言う訳にはいかないが、これを見てくれ」
「これは?!」
シモーネは、今回護衛についている者の中で、最も適切と思われる伯爵家の身分を借りていた。
その伯爵家は海沿いに領地があり、交易に適した港が繫栄しているとても豊かな家で、今ベニートが商売している貴族家よりも遥かに有力な家だ。
「単に危険な協力を求めている訳ではない。
恩を笠に着て無理難題を押し付ける気もない。
恩を返してもらった後は、働きに応じた褒美を渡そう。
どちらかだけが儲けるのではなく、互いに儲かる交易をしないか?」
「正直驚きました。
王家と公爵家を敵に回すとは、どんな生まれの方かと思っていましたが、帝国の伯爵家の方なら頷けます。
それに伯爵家の方にしては交易にも明るく、王国の貴族とは比較にもなりません」
「それは王国貴族が無能なだけだ。
帝国では貴族ほど優秀だ。
無能では皇城内の権力闘争に生き残れないし、領地も近隣領主に食い散らかされ、瞬く間に他人の物になってしまう」
「王国も先代の頃はそうだったと聞いております。
ただ、それが激し過ぎて、国内が荒れ果ててしまったとも聞いております」
「帝国もその点は気をつけなければいけないだろう。
だが現皇帝がお元気なうちは何の心配もいらない。
ベニート殿も、帝国内の商売のしやすさは知っているのだろう?」
「これからはベニートと呼び捨てにしてください。
はい、身に染みて理解しております。
何かにつけて賄賂の必要な王国とは大違いでございます」
「本国に帰ったら呼び捨てにさせてもらう。
この国にいる間は、何処で誰が聞いているか分からないし、まだ幼いラウラ嬢がポロっと話した事で、俺の正体が露見するかもしれない。
ラウラ嬢に口止めするよりは、我々が気をつけた方が良いだろう?」
「ありがとうございます。
ここまで正直にお話ししていただいたので、私も本音で話させていただきます。
どうしてもお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、俺にできる事ならやらせてもらおう」
「私の弱点は妻と娘でございます。
王家と公爵家を敵に回す以上、2人には安全な場所に居て欲しいのです。
2人に帝国籍を用意していただけないでしょうか?」
「ふむ、伯爵家の領民籍であれば、今直ぐにでも俺の権限で与えられる。
2人と言わず、ベニート殿や使用人の領民籍も与えられる。
何なら、伯爵領の港に商家を購入する権利も与えられる。
だが、平民とはいえ、帝国の国籍を直ぐに手配するのは無理だ。
どうしてもと言うのなら、先に伯爵家の領民籍を与えるから、移住して安全を確保したらどうだ?
多少の時間はかかっても、帝国の国籍は必ず用意するが、どうだ?」
「申し訳ありません。
そこまでの事を願ったわけではないのです。
帝国に住める権利がいただけるのなら、それで十分でございます。
伯爵領の領民籍をいただけるのであれば、安心してお味方できます」
「ミア様の事情は理解させていただきました。
まさか、ミア様がカタ―ニョ公爵家の御令嬢だったとは。
色々と噂は聞いていたのですが、見た目の年齢が一致しませんでした。
とても18歳とは思えません。
13歳前後だと思い込んでいました。
まともに成長できないほど酷い扱いを受けられていたのですね」
シモーネはベニートに、ミアの正体と事情、今の状況を正直に伝えた。
その方が後に裏切られる事がないと思ったのだ。
ベニートが必ず王家や公爵家と敵対してくれると思っていたわけではない。
娘の恩人を売るようなら、情け容赦なく殺す覚悟を定めていた。
日本の戦後生まれでも、異世界に転生して20年、後継者争いが激しい皇室で育てば、生き延びる為にそれくらいの冷酷さは身に付ける。
「ああ、信じられない扱いだが、これが現実だ。
助けようと思えば、王家と公爵家を敵に回す事になる。
下手をすれば刺客が送られてくるだろう。
だが、これほど心清らかな令嬢を見殺しにはできない。
命懸けで助ける決意をした」
「私も王国では多少は名の知られた商人でございます。
商人が1番大切にしなければいけないのは信用です。
娘の恩人を見殺しにしたと知られては、今後の商売に差し障ります。
私もミア様の味方をさせていただきます」
「そうか、そう言ってもらえると助かる。
だが、ベニート殿に自分の命や家族の命を賭けろとまで言う気はない。
正直に話すが、我らの母国はグレリア帝国なのだ。
今回は、知見を広げる為に、北大陸の属国であるこの国に遊学していたのだ」
「ほう、グレリア帝国の方だったのですね。
これは奇縁なのでしょうか?
私の商会は、グレリア帝国との交易を主な商いにさせて頂いています」
ベニートの目に殺気とも言える気合が籠った。
これが何かの策略ならば、必ず見抜いて見せるとの覚悟だった。
「家中の者からそう報告を受けたから、真実を話したのだ。
本当なら大使館を通じて帰国船を用意させるのだが、王家や公爵家が体面を気にしてミア嬢を殺す覚悟していたら、大使館を通じて文句を言ったのが仇になる」
「大使館を通じて文句を言われたのですか?
貴方様は何方なのですか?」
「口で正体を言う訳にはいかないが、これを見てくれ」
「これは?!」
シモーネは、今回護衛についている者の中で、最も適切と思われる伯爵家の身分を借りていた。
その伯爵家は海沿いに領地があり、交易に適した港が繫栄しているとても豊かな家で、今ベニートが商売している貴族家よりも遥かに有力な家だ。
「単に危険な協力を求めている訳ではない。
恩を笠に着て無理難題を押し付ける気もない。
恩を返してもらった後は、働きに応じた褒美を渡そう。
どちらかだけが儲けるのではなく、互いに儲かる交易をしないか?」
「正直驚きました。
王家と公爵家を敵に回すとは、どんな生まれの方かと思っていましたが、帝国の伯爵家の方なら頷けます。
それに伯爵家の方にしては交易にも明るく、王国の貴族とは比較にもなりません」
「それは王国貴族が無能なだけだ。
帝国では貴族ほど優秀だ。
無能では皇城内の権力闘争に生き残れないし、領地も近隣領主に食い散らかされ、瞬く間に他人の物になってしまう」
「王国も先代の頃はそうだったと聞いております。
ただ、それが激し過ぎて、国内が荒れ果ててしまったとも聞いております」
「帝国もその点は気をつけなければいけないだろう。
だが現皇帝がお元気なうちは何の心配もいらない。
ベニート殿も、帝国内の商売のしやすさは知っているのだろう?」
「これからはベニートと呼び捨てにしてください。
はい、身に染みて理解しております。
何かにつけて賄賂の必要な王国とは大違いでございます」
「本国に帰ったら呼び捨てにさせてもらう。
この国にいる間は、何処で誰が聞いているか分からないし、まだ幼いラウラ嬢がポロっと話した事で、俺の正体が露見するかもしれない。
ラウラ嬢に口止めするよりは、我々が気をつけた方が良いだろう?」
「ありがとうございます。
ここまで正直にお話ししていただいたので、私も本音で話させていただきます。
どうしてもお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、俺にできる事ならやらせてもらおう」
「私の弱点は妻と娘でございます。
王家と公爵家を敵に回す以上、2人には安全な場所に居て欲しいのです。
2人に帝国籍を用意していただけないでしょうか?」
「ふむ、伯爵家の領民籍であれば、今直ぐにでも俺の権限で与えられる。
2人と言わず、ベニート殿や使用人の領民籍も与えられる。
何なら、伯爵領の港に商家を購入する権利も与えられる。
だが、平民とはいえ、帝国の国籍を直ぐに手配するのは無理だ。
どうしてもと言うのなら、先に伯爵家の領民籍を与えるから、移住して安全を確保したらどうだ?
多少の時間はかかっても、帝国の国籍は必ず用意するが、どうだ?」
「申し訳ありません。
そこまでの事を願ったわけではないのです。
帝国に住める権利がいただけるのなら、それで十分でございます。
伯爵領の領民籍をいただけるのであれば、安心してお味方できます」
2
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説
王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった
七瀬ゆゆ
恋愛
王宮で開催されている今宵の夜会は、この国の王太子であるアンデルセン・ヘリカルムと公爵令嬢であるシュワリナ・ルーデンベルグの結婚式の日取りが発表されるはずだった。
「シュワリナ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」
「ごきげんよう、アンデルセン様。挨拶もなく、急に何のお話でしょう?」
「言葉通りの意味だ。常に傲慢な態度な貴様にはわからぬか?」
どうやら、挨拶もせずに不躾で教養がなってないようですわね。という嫌味は伝わらなかったようだ。傲慢な態度と婚約破棄の意味を理解できないことに、なんの繋がりがあるのかもわからない。
---
シュワリナが王太子に婚約破棄をされ、王様と結婚することになるまでのおはなし。
小説家になろうにも投稿しています。
【完結】妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた〜お姉様の選んだ人が欲しい?分かりました、後悔しても遅いですよ
冬月光輝
恋愛
ファウスト侯爵家の長女であるイリアには、姉のものを何でも欲しがり、奪っていく妹のローザがいた。
それでも両親は妹のローザの方を可愛がり、イリアには「姉なのだから我慢しなさい」と反論を許さない。
妹の欲しがりは増長して、遂にはイリアの婚約者を奪おうとした上で破談に追いやってしまう。
「だって、お姉様の選んだ人なら間違いないでしょう? 譲ってくれても良いじゃないですか」
大事な縁談が壊れたにも関わらず、悪びれない妹に頭を抱えていた頃、傲慢でモラハラ気質が原因で何人もの婚約者を精神的に追い詰めて破談に導いたという、この国の第二王子ダミアンがイリアに見惚れて求婚をする。
「ローザが私のモノを何でも欲しがるのならいっそのこと――」
イリアは、あることを思いついてダミアンと婚約することを決意した。
「毒を以て毒を制す」――この物語はそんなお話。
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています
朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。
派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。
そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。
縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。
ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。
最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。
「ディアナ。君は俺が守る」
内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。
無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます
佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」
いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。
第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。
ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。
だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。
それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。
私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて――
=========
お姉様のスピンオフ始めました。
「体よく国を追い出された悪女はなぜか隣国を立て直すことになった」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482
※無断転載・複写はお断りいたします。
初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~
ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。
それが十年続いた。
だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。
そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。
好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。
ツッコミどころ満載の5話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる