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第一章
第7話:後悔と対策
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帝国歴222年4月13日:ジョルダーノ商会客間(幼女の家)
シモーネは、自分が世間知らずであった事を激しく後悔していた。
自ら志願して市井に出た事で、皇城内だけで暮らしていた頃よりも遥かに賢くなった、そう思い上がっていたと心から反省していた。
生まれてからずっと、王侯貴族の権力争いや社交での激しい主導権争いの場で生きてきたので、ミアのような繊細な人間がこの世界にいるとは思ってもいなかった。
自分が配慮に欠けた行動をした事で、ミアの心を激しく傷つけてしまった。
それこそ、あれだけ気丈に振るまっていたミアが、丸1日気を失ったまま、未だに目を覚ます様子が全くないのだ。
シモーネに付き従う側近達も身分の高い者が多い。
中にはたたき上げの案内係もいるが、そんな者は直接シモーネに話しかける事が許されていない。
平成日本からの転生者であるシモーネだから、元々は身分差など気にしない生まれ育ちなのだが、20年も皇太子として育てられた事で常識が変わってしまっていた。
帝国の皇太子として生き残る事を優先にしてしまっていた。
そんなシモーネが、一番影響を受けた昭和の常識を取り戻すきっかけになったのが、今回の事件だった。
「シモーネ様、ご指示通り、大使館を通じて強く抗議してきました」
「こちらの要求は通りそうか?」
「直接謁見した訳ではありませんので、はっきりとした事は申し上げられませんが、大使の話では悩まれているとの事でございます」
「まだ腐れ外道を処罰しないと申すか!」
「シモーネ様、ミア様が起きてしまわれます」
「すまぬ、我を忘れてしまった」
シモーネ達が滞在しているのは、これまでの最高級ホテルではない。
ミアがラウラの家の前で気絶してしまったため、そのままラウラの家に泊めさせてもらっているのだ。
そのため、これまで以上に他人の目や耳を気にしなければいけなかった。
南北両大陸最強と言われているグレリア帝国の皇太子が、僅かな護衛と共にグレコ王国に来ている事は、絶対に知られるわけにいかないのだ。
両大陸には、帝国と敵対している国がある。
帝国内にも皇太子の命を狙う者が数多くいるのだ。
「いえ、シモーネ様が怒られるのは当然でございます。
ミア様の両親と妹、インマヌエル殿下のなされようは酷過ぎます。
ただ、ベネディクトゥス陛下には同情の余地があると思います」
「はぁ、どこがだ?!」
「ベネディクトゥス陛下が肉親に甘過ぎるのは問題です。
これはシモーネ様の申される通りです。
ですが、長幼の序を守られるのは、国内を乱さない為でもあります。
第1王子を差し置いて、第2王子や第3王子を後継者にすると、嫌でも権力争いが起きてしまいます」
「……だが、あまりにも性質が悪い者や能力の低い者を後継者にするのも、国を乱す原因になるのではないか?」
「それも殿下の申される通りでございます。
インマヌエル殿下の本性と能力を見極めてからでなければ、事件を公にするわけにはいかないと思われます」
「事件を公にしたら、必ずインマヌエルを罰しなければいけない。
それくらい酷い事をした事は、ベネディクトゥス王も十分理解していると言いたいのだな?」
「はい」
シモーネは考え込んだ。
本心では、今直ぐにでもエマの両親と妹、インマヌエルに厳しい罰を与えたい。
だが、その事でグレコ王国を乱してはいけないという理性も残っている。
「……ミアを連れて国に帰る。
まずはミアの安全を確保する。
ベネディクトゥスが、インマヌエルやミアの家族に、ミアが生きている事を伝えてしまったら、最悪刺客が送られてくる」
「それは、幾ら何でもないと思うのですが」
「何故ないと思える?
恐ろしいくらいの馬鹿や身勝手なら、本国大使の警告すら平気で無視するぞ。
両親と妹のこれまでの言動、インマヌエルがとった今回の言動。
どう考えてもまともな人間がやる事ではないぞ」
「私の考えが甘かったのかもしれません。
急ぎ大使に命じて帰国船を用意させます」
「止めておけ、非常識でも能力があるかもしれない」
シモーネはバカンス気分から完全に抜け出した。
グレコ王国の状況を秘密裏に視察するのは、半ば遊学の心算だった。
だが今は、皇城内で庶弟を擁立する有力貴族と対峙する時くらい気を引き締め、何時何処から刺客が現れても対応できる戦闘モードとなった。
「それはどういう事でございますか?」
「1つはインマヌエルがそれなりに能力があった場合。
もう1つはインマヌエルの側近に有能な者がいた場合。
最悪は、ベネディクトゥスが我が国の大使を殺してでもインマヌエルを護ろうとした場合だが、そこまでしないまでも、証人くらいは殺そうとするのではないか?
平民くらいなら殺しても問題ない、そう思わないと言い切れるか?」
「絶対に思わないとまでは言い切れません。
確かに大使には手を出さなくても、大使が用意した証人を殺す事はありえます」
「その証人というのは俺達の事だぞ。
もう大使とは接触しない方が良い」
「さようでございますね。
こちらがシモーネ様の身分を明かせない以上、知らないで刺客を送る事はありえますし、知っていて知らなかったと言い張る事もありえます。
シモーネ様を殺す事で、ベネディクトゥス王に利益があるかもしれません。
今回の視察を、帝国内の敵対勢力が嗅ぎつけていないとは言い切れません。
彼らとベネディクトゥス王が結託する可能性を見落としていました。
申し訳ございません。
ですが、大使を使わずにどうやって帰国船を用意されるのですか?」
「ここの主人は帝国と活発に交易をしている。
持ち船もかなり多いようだ。
今回の礼として、帝国までの船を用意してもらおうではないか」
シモーネは、自分が世間知らずであった事を激しく後悔していた。
自ら志願して市井に出た事で、皇城内だけで暮らしていた頃よりも遥かに賢くなった、そう思い上がっていたと心から反省していた。
生まれてからずっと、王侯貴族の権力争いや社交での激しい主導権争いの場で生きてきたので、ミアのような繊細な人間がこの世界にいるとは思ってもいなかった。
自分が配慮に欠けた行動をした事で、ミアの心を激しく傷つけてしまった。
それこそ、あれだけ気丈に振るまっていたミアが、丸1日気を失ったまま、未だに目を覚ます様子が全くないのだ。
シモーネに付き従う側近達も身分の高い者が多い。
中にはたたき上げの案内係もいるが、そんな者は直接シモーネに話しかける事が許されていない。
平成日本からの転生者であるシモーネだから、元々は身分差など気にしない生まれ育ちなのだが、20年も皇太子として育てられた事で常識が変わってしまっていた。
帝国の皇太子として生き残る事を優先にしてしまっていた。
そんなシモーネが、一番影響を受けた昭和の常識を取り戻すきっかけになったのが、今回の事件だった。
「シモーネ様、ご指示通り、大使館を通じて強く抗議してきました」
「こちらの要求は通りそうか?」
「直接謁見した訳ではありませんので、はっきりとした事は申し上げられませんが、大使の話では悩まれているとの事でございます」
「まだ腐れ外道を処罰しないと申すか!」
「シモーネ様、ミア様が起きてしまわれます」
「すまぬ、我を忘れてしまった」
シモーネ達が滞在しているのは、これまでの最高級ホテルではない。
ミアがラウラの家の前で気絶してしまったため、そのままラウラの家に泊めさせてもらっているのだ。
そのため、これまで以上に他人の目や耳を気にしなければいけなかった。
南北両大陸最強と言われているグレリア帝国の皇太子が、僅かな護衛と共にグレコ王国に来ている事は、絶対に知られるわけにいかないのだ。
両大陸には、帝国と敵対している国がある。
帝国内にも皇太子の命を狙う者が数多くいるのだ。
「いえ、シモーネ様が怒られるのは当然でございます。
ミア様の両親と妹、インマヌエル殿下のなされようは酷過ぎます。
ただ、ベネディクトゥス陛下には同情の余地があると思います」
「はぁ、どこがだ?!」
「ベネディクトゥス陛下が肉親に甘過ぎるのは問題です。
これはシモーネ様の申される通りです。
ですが、長幼の序を守られるのは、国内を乱さない為でもあります。
第1王子を差し置いて、第2王子や第3王子を後継者にすると、嫌でも権力争いが起きてしまいます」
「……だが、あまりにも性質が悪い者や能力の低い者を後継者にするのも、国を乱す原因になるのではないか?」
「それも殿下の申される通りでございます。
インマヌエル殿下の本性と能力を見極めてからでなければ、事件を公にするわけにはいかないと思われます」
「事件を公にしたら、必ずインマヌエルを罰しなければいけない。
それくらい酷い事をした事は、ベネディクトゥス王も十分理解していると言いたいのだな?」
「はい」
シモーネは考え込んだ。
本心では、今直ぐにでもエマの両親と妹、インマヌエルに厳しい罰を与えたい。
だが、その事でグレコ王国を乱してはいけないという理性も残っている。
「……ミアを連れて国に帰る。
まずはミアの安全を確保する。
ベネディクトゥスが、インマヌエルやミアの家族に、ミアが生きている事を伝えてしまったら、最悪刺客が送られてくる」
「それは、幾ら何でもないと思うのですが」
「何故ないと思える?
恐ろしいくらいの馬鹿や身勝手なら、本国大使の警告すら平気で無視するぞ。
両親と妹のこれまでの言動、インマヌエルがとった今回の言動。
どう考えてもまともな人間がやる事ではないぞ」
「私の考えが甘かったのかもしれません。
急ぎ大使に命じて帰国船を用意させます」
「止めておけ、非常識でも能力があるかもしれない」
シモーネはバカンス気分から完全に抜け出した。
グレコ王国の状況を秘密裏に視察するのは、半ば遊学の心算だった。
だが今は、皇城内で庶弟を擁立する有力貴族と対峙する時くらい気を引き締め、何時何処から刺客が現れても対応できる戦闘モードとなった。
「それはどういう事でございますか?」
「1つはインマヌエルがそれなりに能力があった場合。
もう1つはインマヌエルの側近に有能な者がいた場合。
最悪は、ベネディクトゥスが我が国の大使を殺してでもインマヌエルを護ろうとした場合だが、そこまでしないまでも、証人くらいは殺そうとするのではないか?
平民くらいなら殺しても問題ない、そう思わないと言い切れるか?」
「絶対に思わないとまでは言い切れません。
確かに大使には手を出さなくても、大使が用意した証人を殺す事はありえます」
「その証人というのは俺達の事だぞ。
もう大使とは接触しない方が良い」
「さようでございますね。
こちらがシモーネ様の身分を明かせない以上、知らないで刺客を送る事はありえますし、知っていて知らなかったと言い張る事もありえます。
シモーネ様を殺す事で、ベネディクトゥス王に利益があるかもしれません。
今回の視察を、帝国内の敵対勢力が嗅ぎつけていないとは言い切れません。
彼らとベネディクトゥス王が結託する可能性を見落としていました。
申し訳ございません。
ですが、大使を使わずにどうやって帰国船を用意されるのですか?」
「ここの主人は帝国と活発に交易をしている。
持ち船もかなり多いようだ。
今回の礼として、帝国までの船を用意してもらおうではないか」
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