9 / 37
第8話5日目の出来事1
しおりを挟む
「どけ、どけ、どきやがれ!
俺たちゃ王太子殿下の代官様だぞ。
邪魔する奴は王侯貴族だって容赦しないぞ!」
街道を封鎖するように、横になった男達がのし歩いてくる。
近衛騎士団の隊列も、王家の馬車も無視だ。
いや、山賊同然の汚い身なりから、あまりにも無学で、近衛騎士団の装備も、王家の紋章も理解できないのかもしれない。
「控えおろう!
我らを誰だと心得る!
近衛騎士団であるぞ!
この馬車に乗っておられるのは、恐れ多くも国王陛下であられる。
王太子殿下の代官であろう、これ以上の無礼は死罪になると心得よ!」
「うっへえへえええ!
申し訳ございません!
ひらに、ひらにご容赦願います」
この近衛騎士団を束ねる近衛騎士長が、厳しく山賊どもを尋問する。
一切の容赦をせず、僅かでも不審の行動をすれば、一斉に襲い掛かる体制だ。
それもそうだろう、近衛騎士達は国王を護っているつもりなのだ。
山賊共が最初に王太子の代官を名乗っていなければ、既に皆殺しにしていた。
どう見ても偽者に見える王太子の代官を名乗る山賊だったが、本物だった。
厳密に言えば、王太子の代官が税の徴収に送った下役に賄賂を贈り、役目を代行できるようになった山賊だった。
それでなくても正規の税金に代官が役得分の税を上乗せするのだが、それに下役の役得に山賊の役得が加わる。
実際に領民が奪われる税額は、正規の税の倍以上、収穫量を超えるという、ありえない税額だった。
収穫量以上の税金を農民が払えるわけがない。
そんなことは山賊達も最初から分かっていて賄賂を払っている。
目的は奴隷の確保だった。
金になりそうな村人を、全員奴隷として売るのだ。
若い女だけではなく、少しでも金になりそうな男も子供も引き連れていた。
全ての女が、一部の男までが、性的乱暴を受けているのが一目瞭然だった。
(龍ちゃん、私こいつらが許せない。
でもここで助けてあげても、また王太子の手先に攫われてしまうわ。
私は無力なのね)
(やれ、やれ。
仕方のない子だね。
人間なんて救う価値のない生き物なんだよ。
今は可愛そうに見えても、少しでも力を持ったら、虐げられる立場から、虐げる立場に豹変するのが人間だよ。
その事は長年生きてきた僕が一番よく知っているよ)
(でも、それでも、龍ちゃんは人間を護ってくれていたよね?
少しは人間の事が好きなんじゃないの?)
(それは建国王と約束したからさ。
あいつは少しマシな人間だったからね。
そうじゃなければとっくに人間を見捨てていたよ。
それにやりたい事もなかったしね。
居眠りのついでに魔を喰っていただけさ)
(だったら私の事はどう思っているの?
私のためならこの人達を助けてくれるの?)
俺たちゃ王太子殿下の代官様だぞ。
邪魔する奴は王侯貴族だって容赦しないぞ!」
街道を封鎖するように、横になった男達がのし歩いてくる。
近衛騎士団の隊列も、王家の馬車も無視だ。
いや、山賊同然の汚い身なりから、あまりにも無学で、近衛騎士団の装備も、王家の紋章も理解できないのかもしれない。
「控えおろう!
我らを誰だと心得る!
近衛騎士団であるぞ!
この馬車に乗っておられるのは、恐れ多くも国王陛下であられる。
王太子殿下の代官であろう、これ以上の無礼は死罪になると心得よ!」
「うっへえへえええ!
申し訳ございません!
ひらに、ひらにご容赦願います」
この近衛騎士団を束ねる近衛騎士長が、厳しく山賊どもを尋問する。
一切の容赦をせず、僅かでも不審の行動をすれば、一斉に襲い掛かる体制だ。
それもそうだろう、近衛騎士達は国王を護っているつもりなのだ。
山賊共が最初に王太子の代官を名乗っていなければ、既に皆殺しにしていた。
どう見ても偽者に見える王太子の代官を名乗る山賊だったが、本物だった。
厳密に言えば、王太子の代官が税の徴収に送った下役に賄賂を贈り、役目を代行できるようになった山賊だった。
それでなくても正規の税金に代官が役得分の税を上乗せするのだが、それに下役の役得に山賊の役得が加わる。
実際に領民が奪われる税額は、正規の税の倍以上、収穫量を超えるという、ありえない税額だった。
収穫量以上の税金を農民が払えるわけがない。
そんなことは山賊達も最初から分かっていて賄賂を払っている。
目的は奴隷の確保だった。
金になりそうな村人を、全員奴隷として売るのだ。
若い女だけではなく、少しでも金になりそうな男も子供も引き連れていた。
全ての女が、一部の男までが、性的乱暴を受けているのが一目瞭然だった。
(龍ちゃん、私こいつらが許せない。
でもここで助けてあげても、また王太子の手先に攫われてしまうわ。
私は無力なのね)
(やれ、やれ。
仕方のない子だね。
人間なんて救う価値のない生き物なんだよ。
今は可愛そうに見えても、少しでも力を持ったら、虐げられる立場から、虐げる立場に豹変するのが人間だよ。
その事は長年生きてきた僕が一番よく知っているよ)
(でも、それでも、龍ちゃんは人間を護ってくれていたよね?
少しは人間の事が好きなんじゃないの?)
(それは建国王と約束したからさ。
あいつは少しマシな人間だったからね。
そうじゃなければとっくに人間を見捨てていたよ。
それにやりたい事もなかったしね。
居眠りのついでに魔を喰っていただけさ)
(だったら私の事はどう思っているの?
私のためならこの人達を助けてくれるの?)
2
お気に入りに追加
1,330
あなたにおすすめの小説
転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。
柚木ゆず
恋愛
前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。
だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。
信用していたのに……。
酷い……。
許せない……!。
サーシャの復讐が、今幕を開ける――。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、
ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。
家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。
十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。
次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、
両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。
だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。
愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___
『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。
与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。
遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…??
異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》
【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります
禅
恋愛
妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。
せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。
普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……
唯一の味方は学友のシーナのみ。
アリーシャは幸せをつかめるのか。
※小説家になろうにも投稿中
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる